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七階は室内競技場だ。が、シアロンは、
「スポーツなどルールからして、さっぱり分からん。これで案内は終わりだな」
俺は、
「いや、もう一か所残っているぞ。今は冬だから時期はずれだが」
シアロンが首をかしげ、
「もう、今まで見たぶんだけで充分だ。時期はずれなら余計、見る必要はあるまい」
俺はシアロンの背中を押すように、
「だけど、もったいない事に今が一番綺麗なんだよ。まるで宝石みたいにな」
宝石という言葉につられてシアロンがついてきた。
俺は階段を上がる。
シアロンが、
「何だ。屋上の事か。がっかりだな。無断立ち入り禁止と看板にあるぞ。大丈夫なのか?」
とか言いながら、気にせず進む俺のあとに律儀についてくる。
俺はピンを取り出し、屋上の扉の鍵を開ける。
屋上へ入るやシアロンが、
「むっ! こっ、これはっっ!」
感嘆の声をあげる。
「屋上プールだよ。冬でも水を張っているんだぜ。都心のど真ん中、新宿駅からわずか徒歩五分で登校できる学園の屋上に、プールがあるなんて信じられるか? いったい誰が考えたのやら、しかし」
屋上プール越しに見える新宿は絶景だ。
東には、いくつもの大型デパートが立ち並び、
南にはNTTタワー。
てっぺんに大時計がある。
西は新宿御苑が一望出来る。
北は都庁と、
新宿を代表する超高層ビル群がそびえ立っている。
「本当に絶景だと思わないか?」
シアロンが、
「うむ。なかなか驚いた。が、宝石と比べるほどの物ではないな」
俺はニヤリと笑い、
「だろうな。やっぱりシアロン姫はこっちをご所望かな?」
と言って俺は炎のルビーを胸ポケットから取り出す。
シアロンが飛び掛からんばかりの勢いで、
「貴様! それをどこで手に入れた! 事としだいによっては」
クシャリ。
俺は炎のルビーを指先で潰した。
シアロンが唖然とするなか、
ビヨョ〜ン。
と、元に戻す。
特殊なプラスチックで出来た、
「こいつは偽物。本物は怪盗ゲロデムが」
シアロンが物凄い形相で、
「地獄の少女道化師だ!」
俺は落ち着き払って、
「誰でもいいが、そいつが盗んだってことだろ」
シアロンが一瞬、口籠ったあと、
「お前の、そのニヤけた口許、どこかで見た覚えがあるぞ。どこだったかな?」
シアロンが訝しげに俺を見つめる。やがて、ハッとしたように、目を見開き、何か言おうとする。が、正門から響いてきた生徒のざわめきに邪魔された。
俺は、
「何だ?」
正門を見下ろすと、
シアロンもそれを見下ろした。
正門には、
片腕を失った水虎がいた。




