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   ☆4☆


 放課後。

 烈火が教室の後ろに並ぶロッカーから、引きずるように巨大なキーボードのケースを取り出す。

 星図が、

「そんな重そうなケースを持って行くの? 炎のルビーの警護の邪魔にならない?」

 烈火が机の上にケースを置き、真剣な表情を浮かべ、

「実は、これは絶対に口外してはならない、極秘中の、極秘の話なのだが」

 そう言って教室をキョロキョロと見回す。

 夕日に染まった教室内には人っ子一人、いや、教室のスミに諸星巡がいた。

 巡が、

「私の事は気にしないで。タロット占いをしているだけだから」

 烈火が、

「なら気にしないのだ!」

 巡をあっさりスルーした。

 俺は、

「意外と軽い極秘事項なんだな」

 烈火が再び真剣な表情を浮かべ、

「実はこの中には、

 紅蓮剣ぐれんけん

 という神の(つるぎ)が入っているのだ」

 とか言いながらケースのフタを開けて、奇妙な大剣を取り出す。

 俺は少しドキっとする。

 ファイヤ・パターンのかかった禍々しい形状はともかく、その大剣から伝わるマナの量が、ちょっと尋常じゃない量だったからだ。

 マナというのは魔法を使うための大元の元素の事で、恐らく、この世界にはほとんど存在していない。

 そもそも、マナを見える人間すらほぼいない。

 星図がからかい気味に、

「面白い設定だね。それで、何の神様の持ち物なの?」

 星図のような凡人にはマナを感じ取る能力は無論ない。当然のように軽い口調になる。

 烈火が、

「獄界の入口。

 獄界門を守る獄界の神、

 獄界神ゲヘナスの神剣なのだ」

 星図が、

「聞いた事もない神様だね。でもラノベのネタとしてはいいかも」

 俺は脳内データを検索し、

「そういえば、星図はラノベ作家を目指していたな。この間、ネット小説大賞の一次予選に通ったとか、なんとか言って大喜びしてたもんな。でも、当然、二次予選は落ちたが」

 星図が、

「それは言わない約束でしょ! 勝手に黒歴史を暴かないでよ! でも、今度こそは~」

 星図が握り拳を作る。

 俺は、

「今度も落選だろう」

 星図が、

「何て事を言うんだよ! ちょっとは応援してよ!」

 俺は、

「まあ聞けよ。今のラノベの状況を見ると、ファンタジー一強と言っていい状態だ。しかも、出版社の中にはファンタジーしか募集しません、という出版社もある。ところが、星図のラノベは現代物のローファンタジーか、戦前の戦場物が多い。これじゃ受かるはずがない」

 星図が、

「うっ! だって、そういうのが好きなんだから、しょうがないじゃん」

 俺は、

「いいか星図、ラノベで受賞したければ、まず何よりもファンタジーを書くことだ。それと、三つの要素が必要だな。

 一つ、

 異世界であること。

 二つ、

 転生物なら、なお良し。

 三つ、

 奇妙なチート能力。

 もしくはその逆張り。

 ただし、これはあくまで基本であって、細かくいえば、主人公が逆境状態にあるとか、転生先で人間じゃなくなったとか、チート能力も余っ程、奇抜な物でないと、審査員の目にとまる事は、まず無いだろう。

 ちなみに、いわゆる文才みたいな物は問われないそうだ。

 純文学じゃないからな。

 小学生程度の国語力があれば充分って話だ。

 だけど、どっちにしろ賞を狙っている奴らは、こんな事はみんな折り込み済みだ。

 受賞出来るのは、ほんの一握りの天才だけだ。

 それでも、プロデビューしたからといって順風満帆とは限らない。

 デビュー作がコケて消えていく作家は掃いて捨てるほどいる。

 たまたまデビュー作が受けても続けてヒット作を出せず、気がついたらゴースト・ライターになっていた。という作家もいるんだ。そう考えると、星図じゃ、

 99.9999バーセント、ラノベ作家になるのは無理だな」

 星図が涙目で訴える、

「何で僕じゃダメなんだよ! 今、必死に次回作を執筆している所なのに! 変なこと言わないでよ!」

 俺は、

「いや、しかしだな」

 星図が、

「しかしもカカシもないよ!」

 俺は、

「つまり、あれだ」

 ていうか、何で俺はラノベ作家について、こんなに、あーだ、こーだ、言ってるのだろう? 

 別に脳内検索をしているわけじゃないのに、以前の俺の記憶が知らず知らずのうちに出てしまっている。

「実際の所は、俺もシランケド、って言う奴だ」

 知ったかぶりをした時の有効な言葉がシランケド、と俺の脳内に閃いた。が、星図はますますいきり立ち、

「シランケドって、何も知らないくせに勝手なこと言わないでよ、優しい僕でもいい加減怒るよ」

 俺は、

「あ、痛たたた。と、突然、あ、頭が、い、痛くなってきた。何かシランケド、記憶が混乱してきた。すまん、星図、どうやら頭を強く打った後遺症で、また、記憶の混乱が始まったらしい。何も知らないのに、知ったかぶりしてスマナかった」

 星図がジト目でにらみ、

「ずいぶん都合よく記憶が混乱するんだね」

 俺は大げさに、

「うっ! また頭痛がする! 記憶が混乱するうっ!」

 烈火が血相を変えて、

「大丈夫か!? 竜破!? 救急車を呼ぶか!?」

 俺は、

「いや、大丈夫だ。頭の痛みは治った。しかし、記憶は曖昧だから、変な事を言っても、笑って許してくれ」

 烈火が、

「わかったのだ! 笑って許すのだ! 星図も笑って許してやるのだ!」

 星図が渋々と、

「しょうがないなあ。烈火に免じて許してあげるよ」

 巡が、

「話は終わったようね。これから、新宿美術館に行って怪盗ゲロデムを獄界の獄界神ゲヘナスの神剣、紅蓮剣で倒すんでしょう」

 改めて言われると凄い設定だな。

 巡が、

「武運を祈って、私がタロットで占ってあげるわね」

 と言って、タロットを扇状に広げ、カードを一枚引き抜くと、一目見るなり、眉をひそめて、抜いたカードを元に戻そうとする。

 俺はカードを押さえて、

「待て待て、気になるじゃないか。何で見せないで元に戻すんだよ? 表を見せろよ」

 巡が、

「たかが占いよ。そう気にする必要はないわ。そう、これは単なる引き直しだから、たいした意味はないのよ」

 俺が、

「だから、何で引き直しをするんだよ? 気になってしょうがないじゃないか」

 巡がニッコリ笑って、

「世の中には知らないほうが幸せな事もあるのよ」

 俺は巡が押さえているカードを強引に引き抜いて、

「確かに、そうみたいだな、巡」

 カードの絵柄は、

 死神だった。

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