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☆37☆
律華が教室に連れてきたのは、
銀髪に深緑色の澄んだ瞳を持つ美少女だった。
星図が、
「転校生のシアロン・レットルーちゃんだよ。
シアロ国の貴族の娘さんで、
シアロ語でデレる可能性がとっても高いって噂の美少女だよ」
シアロ国はロシアに隣接する小国だ。
俺は、
「噂の信憑性はともかく、ロシアン・ルーレットのアナグラムみたいな名前だな。宝石にも詳しいとか?」
星図が目を見開き、
「その通りだよ! 何で知ってるの?」
俺は片目を細め、
「いや、当てずっぽうだ。しいて言えば、知ってる女にちょっと似ているかな」
ゲロデムこと地獄の少女道化師に雰囲気が似ている。
奴なら宝石に詳しそうだ。
転校生との繋がりは知らんけど。
律華がキッとこちらをにらみ、
「そこ! 静かに! これから転校生の自己紹介タイムだ! 全員、謹聴しろ!」
謹聴だけに、
緊張するな。
シアロンが、
「ワタクシ様にとっては、地の果てに生息する黄色い猿ども!
しかも、愚民どもと対等に口をきくなど、屈辱以外の何ものでもない!
が、ゆえあって、未開の地に居を構えた以上、口をきかぬわけにもゆくまい。
だからといって、気安く話しかけるでないぞ!
聴け!
愚民ども!
ワタクシ様の名は、
シアロン・レットルー。
本来なら貴様ら愚民どもでは、目にする事すら叶わぬ高貴な存在だ!
あの事件さえなければ、没落した貧乏貴族とはいえ、このような屈辱的な生活は送らぬものを。
しかし、こればかりは致し方ない。
すべては、炎のル・・・のため。
昨夜見た、ワタクシ様の偽物の仲間の女は、この高校の制服を着ておったからな。
それはともかく、貴様ら愚民どもも昨夜、炎のルビーが地獄の少女道化師によって盗まれたというニュースはすでに知っていような」
星図が、
「怪盗ゲロデムのこと?」
間髪入れずにシアロンが、
「地獄の少女道化師だ!」
星図をにらみつつ、シアロンが続ける。
「とにかく、もしも、炎のルビーを見つけたら、すみやかにワタクシ様に報告せよ!
ワタクシ様は宝石を鑑定する素晴らしい目を持っている!
ワタクシ様が正しく鑑定して警察へ引き渡してやるから、必ずワタクシ様に報告するように!
よいな愚民ども! 話は以上だ!」
教室は憤懣やるかたない、といった一触即発の空気だったが、
パチパチ、
俺が拍手をして、
「お貴族様が実に分かりやすい自己紹介をしてくれたんだ。
みんな歓迎の拍手で迎えてあげないで、どうすんだ?
日本の事をよく分からない外国人には、優しく日本を紹介してやらないとな」
星図が気を取り直し、
「そ、そうだね、竜破の言うとおりだよ、みんな拍手拍手!」
烈火が仏頂面で、
「あたしには悪意しか感じられなかったのだ」
と、文句を言いながらも一応拍手する。
他の生徒もパラパラと控えめな拍手をした。
律華が、
「よし竜破。ちょうどいい、お前がシアロンに校内をあとで案内してやれ」
俺はシアロンを見据え、
「シアロンがそれでいいなら」
シアロンが値踏みするように俺を見つめ、
「イエローモンキーは誰でも一緒だ。ワタクシ様には違いは分からない。案内など誰でもよいぞ」
俺は辟易としながら、
「なら昼休みに案内しよう」
俺の言葉を無視してシアロンは適当に席についた。




