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☆36☆
「何だ? 何しにこんな夜中に荒川くんだりまで来てるんだ? あの女の子は? 女子高生惨殺事件を知らないのか?」
俺はつぶやきながら青水門の上に降り立つ。
女の子は赤水門を渡り、問題の小島に向かう。
青水門から赤水門までの距離は約百メートル。
青水門の高さは十五メートルほど。
それだけ離れていれば、女の子が俺に気づくことはないだろう。
俺は暗視スコープをズームインする。
女子高生だろうか?
一昔前と思われる古い型のセーラー服。
長い黒髪を三つ編みにし、
顔は?
顔は包帯をグルグル巻きにしているので、さっぱり分からない。
顔だけじゃなく、手や足も包帯を巻いている。
プカリ。
河から頭が浮き上がる。
ジッと女の子を見つめる。
女の子との距離は五メートルほど、俺はワルサーを抜き、構える。
同時に集音イヤホンのボリュームを上げる。
男が水面からブツブツ言いながら上がってくる。
『本があるんだよ。君の肝臓が食べたい。っていう本だよ。だけど、読んでも読んでも肝臓を食べる話しにならないんだよ。だから』
男が完全に小島に上がる。
異様な姿に俺は眉をひそめる。
男は身の丈ニメートル。
全身に黄色と黒の虎のような縞模様の毛が生え、腕と足には魚のような鱗におおわれている。
爪はナイフのように長く、月の光を反射して輝いて見える。
月刊ヌーが紹介した水虎そっくりの姿だ。
水虎が、
『だから、お前の肝をくれよ!』
叫び女の子に襲いかかる。
俺がワルサーの引き金を引こうとするが、
『ぐぎゃっっっ!』
悲鳴をあげたのは水虎のほうだった。
女の子の胸から刀が突き出ている。
それが、水虎の胸に突き刺さっている。
さらに、女の子の包帯がばらけ、その肌から剣が、無数の剣が飛び出す。
水虎はバックダッシュするが、剣が襲いかかる。
水虎は長い爪で応戦する。が、その隙をつき、女の子が胸から出た刀を掴むと水虎を一閃、片腕を切り落とす。『あぎゃあああっっ! 痛えええっっ』
一声吠えると真っ暗な河の中に飛び込んだ。
無数の剣があとを追うが、見失ったらしい。
剣が河から上がってくる。
女の子が切り落とした水虎の腕をしゃがんで拾おうとするが、その
腕が空を舞い、俺の手の平に収まる。
水虎の腕に杭打ち銃を打ち込み、杭に付いた糸を引っ張って引き寄せたのだ。
女の子が青水門の上にいる俺に気がつくと、剣を階段のように並べて物凄いスピードで駆け上がってくる。
俺は煙幕を水門のコンクリ上で破裂させ、煙に紛れて上空へと逃げ去った。
女の子が俺に近づいて来たという事は、
「あの剣を操作するためには、ある程度の有効範囲が必要なんだろう。恐らく、十メートル圏内か」
俺の小型グライダーはすでに反対岸の上空を飛んでいた。
さすがに諦めたのか、女の子もそれ以上、追ってこなかった。




