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「という事で、頭の傷は大丈夫か? とか、記憶に障害は残っていないか? とか、病状を聞かれたあと、たまたま律華先生の趣味の話になって、
トレーディング・カード・ゲームの、
ジャドーバーサスで盛り上がってな。俺も影響を受けて、始める事にしたんだ。それで、新規入会特典の、
萌え萌えルナちゃんカードを律華先生と交換する事になった」
教室に戻った俺は弁当箱を開けて、デザートの熟し過ぎた、黒ずんだバナナを見つめながら、職員室での律華とのやり取りを大幅に脚色して光太に聞かせた。
バナナに緑色の走査線が走る。が、光太はそれに気づかず、瞳を輝かせながら、
「ジャドーバーサスなら僕も知ってるよ! 賞金一億円のゲームで、僕も前からやろうと思ってたんだよね。竜破がやるなら、僕もやろうかな?」
俺は光太を押し止め、
「やるのはいいが、深みにハマって課金地獄におちいっても知らんぞ」
光太がしたり顔で、
「もちろん無課金でやるに決まってるじゃん。基本無料でしょ?」
俺はうなづき、
「らしいな。俺も初めてだから、よく知らんけど」
光太が、
「賞金一億円ゲットして億り人になるぞ~っ!」
烈火が俺と光太の間に割り込み、
「何の話なのだ? まさか、復帰早々、アニメやゲームの話で盛り上がっているのか?」
俺が、
「いや、そのまさかだ」
烈火が、
「不健康なのだ! あたしがもっとタメになる話を聞かせてやるのだ! お前たちも知っての通り、ちまたで話題の怪盗ゲロデムという、宝石ばかりを狙う盗っ人が、新宿かいわいを跳梁跋扈している昨今。ついに、その魔の手が新宿大美術館の、
炎のルビーに及んだのだ。
宝石としての価値は数十億円。
美術品としての価値は値がつけられないほどの、鳴り物入りの物凄いルビーなのだ。
幸い、今回あたしの親父殿が警護にあたる事になったのだ。そこで、あたしも警護の応援に入る事になったのだ。もちろん、親父殿から特別の許可をもらっているのだ。それはともかく、ふざけた事にゲロデムはアルセーヌ・ルパン気取りで炎のルビーを盗むと、予告状まで出しきたのだ。まったく、許せない悪党なのだ!
その予告によると、今夜盗みに入ると書いてあるのだ。だけど、絶対に炎のルビーを守って、ゲロデムの奴をとっ捕まえてやるのだ!」
俺の脳内データによると、烈火の父は警部で、鬼の鬼頭と呼ばれている恐ろしい鬼警部だ。
俺が、
「そうか。ガンバレよ烈火。俺には関係ない話だから、何も出来ないけど、お前の成功を心から祈ってるからな」
烈火が、
「うむ! ガンバルのだ!」
星図が、
「でも、烈火だけで大丈夫かな。僕らもついて行こうか?」
僕ら?
烈火が、
「星図が来ても足手まといになるだけなのだ! 余計な事はしなくていいのだ!」
星図がショゲる。
俺は、
「何でゲロデムって呼ばれてるんだ?」
素朴な疑問を口にする。
星図が、
「目撃者の証言によると、ゲロゲロ~として、デロデロ~とした、スライムみたいな奴だから、ゲロデムって名前になったらしいよ。スライムのチート能力を手に入れた異世界転生者みたいだって(笑)。ラノベじゃあるまいし」
俺は、
「異世界!? それに転生者だって!?」
つい声を荒らげる。
沸騰しそうな怒りを抑えつつ、烈火を振り返り、
「烈火、やっぱり、お前だけじゃ心配だな。俺もついて行きたいんだが、いいかな?」
俺の剣幕に驚きながら烈火が、
「ど、どうしたのだ? 竜破? さっきは、全く興味がなさそうだったのに?」
俺は、
「変な能力を使う、おかしな奴なんだろ? 味方は多いほうがいいじゃないか?」
烈火が、
「それは、そうなのだが」
俺は強引に、
「それじゃ決まりだな。親父さんに俺の事も話しといてくれ」
星図が、
「なら僕も」
烈火が即座に、
「却下なのだ!」
間髪入れず烈火が拒否る。
星図が反発するのを見ながら、俺はデザートの青々としたバナナをパクつく。
すると烈火が目敏く、
「むむっ? そのバナナ。さっき見た時は熟して黒かった気がするのだが?」
俺が、
「気のせいじゃないか?」
星図が、
「気のせいだよ! それより、僕も仲間に加えてよ!」
「ダメなものはダメなのだ!」
再び烈火と星図の言い争いが始まった。
どうやらバナナの件は有耶無耶になったようだ。