29
☆29☆
スコーピオンがニヤリと笑い、
「まず最初に、君がモリスンを刺し殺す。
悲鳴を聞いて駆けつけたラクリスもナイフで殺す。
最後にワシがこの部屋に入ると、君は銃を取り出しワシを撃とうとするが、ワシの反撃にあい、揉み合っているうちに自分自身を撃ってしまう。
というわけだ。どうかね、ワシの考えたこの新しいシナリオは?」
俺は苦笑し、
「悪くない。実にユニークで素晴らしいシナリオですね。と、言いたいところですが、一つだけ欠点がありますよ」
伯爵の顔色が変わる。
「欠点、だと?」
俺は努めて冷静に、
「ラクリスのペンダントを欲しがる理由は何ですか?
アヴァロン大帝がシビュレーから手に入れた、予言の書のありかを示す手掛かりが、そこにあるからです」
さらに俺は、大げさに付け足す。
「ああっ、だが、悲しいことに、ペンダントの謎はまったく解けていない。これが、欠点でなくていったい何でしょうか!」
スコーピオンがほんの少し冷静さを取り戻す。
「どうすればいい、予言の書さえ手に入れば、この世界は意のままに操る事が出来る。お前は何か知っているのか?」
俺は不敵に笑い、
「ペンダントの謎を解いてあげますよ。そのかわり、ラクリスを開放して下さい」
スコーピオンが一瞬、逡巡したのち、
「いいだろう。アール子爵、君の申出を受けようじゃないか」
俺は、
「ラクリス、スコーピオン伯爵にペンダントを渡すんだ」
ラクリスが胸元からペンダントを取り出して、スコーピオンに渡す。
俺は、
「ペンダントのフタのふちにゴート文字で記されている言葉がありますよね。その通りにすればよろしい」
スコーピオンが苛立たしげに、
「ワシはゴート文字など知らん!」
俺はゴート文字を読み上げる。
「 光とともに、
鏡に写りし、
最愛の娘に、
光あれ。
と、記されています。
二度、『光』を記述して強調して、最後に、
光あれ。
としています。
それが意味するのは、
ペンダントに光を当てろ、
という意味ですよ」
俺の言葉が飲み込めたのか、スコーピオン伯爵が窓に近づく。
ラクリスは抱え込んだままだ。
俺は、
「おっと、ラクリスを抱えたままじゃ、やりずらいと思いますよ」
スコーピオンが、
「何の事だ?」
俺は再び読み上げ、
「最後の文句、
鏡に写りし、
最愛の娘に、
というのは、ペンダントのフタの裏にある鏡に、娘を写すように光を当てろ、という意味ですよ」
スコーピオンが、
「それにいったい何の意味があるんだ?」
俺は肩をすくめ、
「光を当てれば分かりますよ。ちょうど陽が出てきたようです。論より証拠。試してみたらいかがです'か?」
スコーピオンが、
「お前はもう内容をしっているんじゃないのか?」
俺は微笑を浮かべ、
「あるいは、そうだとして、僕の言った事を信じられますか?」
スコーピオンが考えを巡らすように、
「確かに、お前の言う通りだ。行け、ラクリス」
ようやくラクリスを開放し、ナイフを床に投げ捨てる。
拳銃のトリガーから指を外し、その指先でペンダントのフタを開けようと、一瞬、俺から目を離した瞬間、
俺はリストバンドの杭打ち銃をスコーピオンの腕目掛けて撃つ。
見事に当たり、スコーピオンは拳銃とペンダントを落とした。
そのまま、杭についた糸を輪投げの要領でスコーピオンに巻きつけ、ガッチリ縛り上げる。
仕上げに猿轡を噛ませた。
そこへ、執事とメイドが入ってくる。
俺は、
「渡したメモ通りにしてくれたようだね、執事くん」
執事が、
「は、はい。まさか、こんな恐ろしい事になるとは、夢にも思いませんでした」
俺は問いかける。
「ドアの隙間から全て見ていたね」
執事がうなづき、
「おっしゃる通りで」
俺もうなづき、
「では、警察にしっかりと証言してくれたまえ。裁判でも頼むよ。さあ、今度こそ本当に警察を呼んでくるんだ」
執事がかしこまりながら部屋を出ていく。




