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☆27☆
部屋には俺とラクリスとスコーピオン伯爵の三人だけになった。
俺は、
「執事の話を信じるなら、犯人は外部の者ではなく、屋敷内部の者の犯行、という事になりますね」
真っ先に反発したのはラクリスだ。
「そんな事があるはずはありません。屋敷に住んでいるのは、みんないい人ばかりです」
俺は、
「しかし、屋敷をすり抜けて部屋に入る事は出来ない」
スコーピオン伯爵はイライラしたように、
「アール子爵、君はいったい何が言いたいのかね? 言いたい事があるなら、はっきり言ったらどうかね?」
俺は、
「僕は推理するだけです。事実をもとにしてね」
スコーピオン伯爵が、
「ほほう、つまり、君の想像という事だな。まあいい、警察が来るまでに、まだ、だいぶ時間がある。君の想像上のシナリオを聞こうじゃないか」
ラクリスも半信半疑だ。
俺は一息つくと、
「まず、ガス栓の問題です。あれは、どこについているのですか?」
スコーピオン伯爵が、
「あれは最近になって取りつけたガス灯だ。大元の元栓は屋外についている」
俺は、
「という事は、外部の者が閉めた可能性がありますね。ただし、そいつが殺人事件の犯人とは思えません。屋敷、内部にいる真犯人が、なんらかの合図を送ってガス栓を閉めさせたんでしょう」
スコーピオン伯爵が、
「ほう、興味深い話ではないか、アール子爵。続けたまえ」
俺は、
「ガス灯が消える事が、あらかじめ分かっていれば、事前に目を暗闇に慣らしておく事が出来ますよね。例えば、眉間を揉む、とかです」
俺が眉間を揉む仕草を交えて説明するとスコーピオン伯爵が少し動揺し、
「ふ、ふむ。ワシも眉間を揉んでいたがな。カードに夢中になって、目が疲れていたからな」
ラクリスが、
「もう、やめましょう、こんな事は、犯人はきっと、外から入って来た部外者に違いありません」
俺は、
「いや、これはハッキリさせないと、君も危険なんだよ、ラクリス」
俺は話しを再開する。
「犯人は暗闇の中を歩き、食堂でナイフを手に入れ、二階にあがって寝室で寝ているモリスンを刺した。そして、下男がガス灯に火をつける前に、元いた場所に戻ったんですよ」
スコーピオン伯爵が、
「ワシはその時、葉巻をふかしておったからな。
ワシが暗闇で、灰皿に葉巻の灰を落としたのは、君も見ただろう、アール子爵。
他ならぬ君が、ワシの証人というわけだよ。ワッハッハ!」
スコーピオン伯爵が愉快そうに葉巻をふかす。
俺は、
「まさしく、その通り。鉄壁のアリバイです。と、言いたいところですが、灰を落とすのは、ちょっとした仕掛けを使えば簡単に出来ます」
俺はスコーピオン伯爵に手を差し出し、
「葉巻を一本よろしいですか? スコーピオン伯爵」
スコーピオン伯爵が葉巻入れから一本取り出し、
「どうする気かね?」
俺は受け取った葉巻に火をつけ、
「こうするんですよ」
葉巻を灰皿のはしに持っていき、
「つまり、シーソーの要領ですよ。上手くバランスを取って灰皿のはしに乗せる。今はバランスが取れていますが、火がまわって来ると
灰が落ちて、火のついてる側が軽くなる。すると」
まるで葉巻の灰を落とすかのように、葉巻が灰皿から上がる。
「暗闇で見ると、まるでスコーピオン伯爵が灰を落とすために、持ち上げたように見えます」
スコーピオン伯爵が激昂し、
「ワシが犯人だと言うのか、このワシが! 証拠はあるのかね! 証拠は!」
俺はスコーピオン伯爵のズボンのすそを指差し、
「すそが黒ずんでますが、どうなさったんですか?」
スコーピオン伯爵が、
「今は証拠の話しをしておるのだ! ズボンのすそなど、どうでもよいわ!」
「それが、大いに関係があるんですよ、スコーピオン伯爵。いや、モリスンを殺害した真犯人、スコーピオン!」
俺はスコーピオン伯爵を指差し、
「そのシミは、暗闇でメイドがあなたにぶつかったさい、コーヒーを落とし、それが、あなたのズボンにかかって出来たシミです。
あのコーヒーは、僕が特別に南の大陸から取り寄せた、ここらでは売っていない僕専用のコーヒーなんです。
別のコーヒーだとは言わせませんよ。
あなたが慌てて暗闇を駆け回った理由を教えてもらいましょうか、スコーピオン、伯爵」




