26
☆26☆
部屋に入ってすぐ目に入ったのがモリスンの遺体だった。
ベッドで寝ている所を、ナイフで一突き。
恐らく心臓で即死だ。
寝具が乱れているから、犯人に対して激しい抵抗を試みたようだ。が、結果、胸元から流れ出た血がシーツを真っ赤に染めあげていた。
スコーピオン伯爵が、
「ひどいものだな、血まみれではないか」
吐き捨てるように言う。
俺は、
「このナイフは昨日、暗殺者が持っていた物です。確か、食堂に置いといたはずなんですが」
スコーピオン伯爵が、
「という事は、昨日の暗殺者が屋敷に侵入して、モリスンを殺害したのではないかね」
スコーピオン伯爵が苛立たしげに踵を鳴らす。ふと、その足許に目をやると、スラックスの裾の一部
が黒く濡れていた。
俺は、
「犯人が外部から入ったかどうかは執事に聞けばわかるでしょう」
執事を呼び出すと、ラクリスも一緒に入ってきた。
変わり果てたモリスンの姿を目にして、息を飲むと泣き崩れた。
しばらく執事と話せる状態ではなかった。
ようやくラクリスが落ち着いた所で、執事に屋敷の事を聞いてみる。
すると、扉も窓も、外に通じる出入口は、すべて厳重に閉めて鍵を掛けた。
外から犯人が侵入する事はありえない。と言う。ただし、
「モリスン様のお部屋だけは、扉の鍵を掛けておりません。
病状が悪化して、一刻を争うような時があるかもしれないので。
ですが、まさかそのせいで、このようなお姿にお成りになるとは、痛恨の極みでございます」
執事が涙声で言う。
俺は執事に警察を呼ぶよう指示し、かつ、手帳にメモを書きつけて執事に渡した。
執事がメモを読んで動揺するが、
スコーピオン伯爵に見えないよう、俺は自身の唇に人差し指を当てて、
「警察に行く途中、煙草を買ってきて欲しいんだ。銘柄は君に任せる。ちょうど煙草が切れていてね」
執事はこれを、ただの口実と理解したようだ。
俺はウィンクする。
執事は、
「わかりました、おっしゃる通りにいたしましょう」
「頼んだよ」
執事が部屋を出て行った。




