25
☆25☆
ポーカーは白熱し、朝の五時ごろまで続いた。窓の外はまだ真っ暗闇だ。が、東の空はうっすらと赤みがかっている。
スコーピオン伯爵が眉間をもみながら、
「年のせいか完徹はこたえるな。若い頃はそのまま街で遊ぶ体力があったのだが」
俺は、
「勝ち逃げする気ですか、スコーピオン伯爵。コーヒーでも飲んで、もう一勝負といきましょうや」
スコーピオン伯爵が、
「うむ。その前に一服するとしよう」
スコーピオン伯爵がタバコ入れから葉巻を取り出して火をつける。
灰皿に灰を落としながらスパスパやる。
「今夜は調子がいいから葉巻も美味いわい」
今夜は一万エン俺が負けていた。なに、一万エンぐらいすぐに取り戻せる。
たまにはスコーピオン伯爵にも勝たせてやらないとな!
俺はメイドを呼んで熱い俺専用コーヒーを頼む。
メイドも心得たもので、すぐお持ちします。と、厨房にとって返した。朝までポーカーをするのが、すっかり定着している。
スコーピオン伯爵が再び葉巻の灰を落とそうとすると、突然、ガス灯の火が消え、室内が真っ暗闇になる。
スコーピオン伯爵が、
「誰か、誤ってガスの栓を切ったようだな。しばらく待てば、また火がつくだろう」
暗闇に葉巻の火だけが目につく。
葉巻を上げて灰を落とした瞬間、
二階の寝室から叫び声があがる。
「モリスンの部屋からだ」
俺は立ち上がり、壁伝いに廊下に出る。すると、今度はメイドの悲鳴とカップが床に落ちる音がする。
廊下の角から現れた下男が、ようやくガス灯に火をつけ、周囲が明るくなる。
背後からスコーピオン伯爵が、
「何事かね? いったい何が起きたのだ?」
俺は、
「それは、これから調べます」
廊下に落ちているコーヒーカップと、こぼれたコーヒーをザッと眺め、メイドに話しを聞く。
「厨房に行ってコーヒーを入れたあと、廊下に出たんですけど、そこでガス灯が消えて、真っ暗になった所で何者かにぶつかったんです。せっかくのコーヒーが台無しです」
と、メイドが愚痴る。
「なるほどね、コーヒーか」
外国から輸入した俺専用の特製コーヒーなんだが、まあ仕方がない。
俺はメイドとの話しを切り上げて、二階へ急いだ。




