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☆24☆
俺がイルブラン邸の晩餐の席で、図書館での事件の顛末を面白可笑しく語り、暗殺者の落とした長大なナイフを見せると、スコーピオン伯爵が悪鬼のような表情を浮かべて、こめかみの血管をピクつかせながら、全身を震わせ、
「なんというだらしのない連中だ! 高い金を払ったというのに!」
激しい口調で罵詈雑言、悪態をつく。
モリスンの爺さんが聞いたら相当、辟易しただろう。
そのモリスンは具合が悪いと言って、二階の寝室に閉じ籠もっている。
ラクリスが心配そうに、
「ペンダントを盗んだ連中の事をご存知なのですか?」
スコーピオン伯爵がハッとしたように、
「いや、そんな、女暗殺者どもなど、ワシが知るはずがないじゃないか、ラクリス。ワシが言っているのは」
そこで、ちょっと考え込み、
「そう! 警察のだらしなさの事だ! 図書館のシャッターが閉まったのなら、異変が起きていると、普通、そう判断するだろう。
あの図書館は高台にあるのだし、街から見上げれば、すぐに異変に気づくはずなのだ。
うむっ!
つまり、警察が鈍すぎると、ワシは怒ったのだ!」
今度は警察への悪態が続き、それが終わるころには晩餐も終わった。
スコーピオン伯爵が、
「さて、食事も済んだ事だし、今夜も勝負といこうじゃないか、アール子爵」
俺は誘いに応じ、
「いいでしょう。ただし、僕が今まで勝った分は支払って頂きますよ」
スコーピオンが顔をしかめ、
「むむ、仕方ない。これでよいな」
スコーピオン伯爵が一週間ほどツケにしていたポーカーの負け金、しめて五万エンを支払う。
ラクリスが、
「またポーカーですか。殿方はどうして賭け事に目がないのでしょうか?」
俺が、
「人生はゲームだからですよ」
ラクリスが不思議そうに、
「どういう意味ですか?」
俺は、
「架空の、ゲームの世界すら楽しめない人間は、現実の人生もまた、楽しむ事は出来ない。という意味です」
ラクリスが目を丸くして、
「そのような格言は生まれて
初めて聞きました。ずいぶんと都合のよい格言もあるものですね」
ラクリスが腹を立てた様子で二階の部屋へ戻っていく。
スコーピオン伯爵がニヤニヤしながら、
「どうやらフラレたようだな、アール子爵。まあ、これで落ち着いて勝負が出来るというものだ。
しょせん女に男のロマンを理解する事は出来ん。さあ、運を天に任せて、勝負といこうではないか」
俺は、
「運ばかりではありませんがね」
スコーピオン伯爵が挑むように、
「ほほお、他には何が必要かね?」
俺は、
「経験に基づいた理論。恐れず運用する勇気。そして、最後は、やはり時の運」
スコーピオン伯爵が喉の奥で笑い、
「まさしく、その通り!
さあ手札を切り給え。
永遠、無限に続く、思考の連鎖、知略、戦略の極致。
至高のデュエルを始めようではないか!
アール子爵!」




