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   ☆2☆


 閑散とした昼休みの職員室で、律華が得体の知れないトーストをパクつくタイミングで、俺は声をかけた。

「来ましたよ。律華先生。いったい、俺に何の用ですか?」

 律華が鷹揚にうなづき、

「まあ、用ってほどでもないんだけどな」

 そう言ってトーストと俺を見比べながら、トーストを皿に置く。

「単刀直入に言って、お前は誰だ? 何者だ?」

 俺はドキリ、としながらも、顔には出さないように、

「有世竜破ですが」

 律華がフンと鼻で笑い、

「怪しいな。私の知っている竜破は、自分の事を『俺』とか言わないし、アニメやゲームの話が出てこないのも、なんだかおかしいな」

 俺は反論する。

「頭を打ったせいで、昔の記憶が出て来てるんですよ。子供のころは自分の事を『俺』って呼んでましたからね。それと、退院したばかりだから、最新のアニメやゲームの話は出来ないでしょう」

 律華が俺を見据え、

「正論だな。だが、女に正論は通じないんだよ」

 根性が曲がってんのか?

「感情的に話すのは、教師としてどうかと思いますが」

 律華がニヤリと笑い、

「それはともかく、お前は今、どんなアニメを見ているんだ?」

 え? 思わぬ質問に、

「だから、病院にいたんですよ。アニメなんか見ませんよ」

 律華が疑惑の目を向け、

「スマホで見れるだろう。ゲームだって出来るはずだ。今はどんなゲームをしている? 言ってみろ」

 俺は口籠る。

「そ、それは」

 想像以上に手強い女だ。

 律華が、

「ちなみに、私のオススメは、

 ハメツのテイコクだな。

 お薦めポイントは、

 一話目で姉が首チョンパされ、

 二話目で妹が首チョンパされ、

 三話目で弟が首チョンパされるという、予想の斜め上をいく、まったく展開の読めない面白いアニメだ」

「残酷すぎて、とても見る気になりませんね」

 律華がニヤニヤしながら、

「あと、今オススメのスマホゲームは、

 ジャドーバーサスだ。流行のトレーディング・カード・ゲームだ。

 驚く事に、

 大会で優勝すると賞金一億円がもらえるんだよ。賞金目当てで、私もダメ元で挑戦してるんだが、これがなかなか難しい。

 今の私のランクは、

 エー・ゼロ・ランクだが、そのランクになるまで一年かかった。

 エーランクの上には、

 2エーランク。

 その上には、

 3エーランク。

 さらに、その上にエスランクがあるから、結構大変なゲームだぞ。

 初心者キラーとも言われていてな、初心者がスマホにジャドーバーサスをインストールしたあと、最初にする事は何だと思う?」

「さあ? チュートリアルをプレイする事とか?」

 律華が大袈裟に首を振り、

「いや、アンインストールだ。

 それだけ難しいゲームって事だな。それはともかく、アニメも見ない、ゲームもしないとなると、ますます怪しいな。しかし、私は寛大な先生なんだ。

 お前がジャドーバーサスに登録して、新規入会特典のレアカード無料キャンペーンで、

 萌え萌えルナちゃんカードをゲットし、私の雑魚カードと、そのカードを交換してくれたら、お前の疑いを解いて、綺麗さっぱり忘れてやろう。どうだ、いい話じゃないか? 竜破?」

 俺は一応歯向かった。

「何で俺が萌え萌えルナちゃんカードをゲットしなきゃならないんですか? 意味が分かりません」

 律華が話題を急に変え、

「そうかそうか。ところで竜破、お前は異世界転生物のアニメは好きか?」

 だから、アニメは見てないっつーの。

「内容によりけりですが、最近は食傷気味ですね」

 律華が急に詳しく話し出す。

「突然、死んだ奴が別の世界で生まれ変わる。

 赤ん坊に生まれ変わったり、身体の弱い異世界の人間に乗り移ったり。まあ色々だが、一貫しているのは、転生した奴は転生前の記憶を持っている事だ。

 見た目は以前通りだが、性格や生活習慣、好物や趣味は様変わりする。そりゃそうだ。なにしろ、中身は異世界から来た別人なんだからな。ところで、これって、誰かに当てはまると思わないか? なあ、竜破?」

 俺はヒヤリとする。

「俺が転生した別人って事ですか? はは、アニメじゃあるまいし、呆れて物が言えませんね」

 律華が鋭く切り返す。

「とぼけるのもいいが、性格診断や筆跡鑑定、ウソ発見器にかかったら、お前も、どこまで誤魔化しきれるかな?」

 俺の事を疑わしげに見つめる律華。俺は、

「さあ、どうでしょうかね?」

 俺の曖昧な返事に律華が、

「竜破、私もあとには引けないんだ。すでにジャドーバーサスに、毎月十万円課金して、合計百万円を超えている。

 優勝しなければ大損害が出てしまうんだ。だが、萌え萌えルナちゃんカードさえあれば、私のデッキは完璧になるんだ。

 萌え萌えルナちゃんカードの交換で片がつくなら、安いものだとは思わないか? 竜破?」

 律華がキラリと瞳を光らせた。


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