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☆19☆
アヴァロン大帝。
彼もまた未来予測に長けた人物だったと言われている。
千年前、大小様々な国々が現れては滅びるなか、異国からやって来た異邦人が、持ち前の才覚だけを頼りに、アヴァロン帝国という、途方もない超大国をたった一人で、一代で創りあげた。というのは、並大抵の事ではない。
戦争においては連戦連勝。
経済においては他国を圧倒。
政治においても、先見の明を持つ偉大な指導者。
軍事研究者は各地に放った密偵が上手く情報を収集し、戦争に勝利に導いた、と言う。
経済評論家は優れた人材を用いて、他国との交渉に当たらせ、経済的に有利な情報を引き出したと言う。
政治家は彼を手放しで褒め称えるだけだ。が、本当にそれだけで、あの千里眼じみた未来予測を起こし得るだろうか?
アヴァロン大帝の伝説は星の数ほどあるが、子供でも知っている伝説が一つある。というか、おとぎばなしと言ってよいレベルのお話だ。
ある嵐の晩、
一人の乞食が、
大帝の屋敷を訪れ、
薄汚れた5冊の本を取り出すと、
自分はシビュレーという魔術師だ、と名乗り、
この本は、未来を指し示す本だ、と言って、
この本を、
未来のアヴァロン大帝に相応しい男に売ろう、と言う、
当時の、若き日の大帝は、
異国から来て、乱世に乗じて成り上がった、得体の知れない異邦人でしかなかった、
シビュレーは、
この五冊の本を、
一千万エンで売ろう、と言う、
大帝が、
そのような怪しげな本などいらぬ、と言うと、
シビュレーは、
一冊を暖炉で焼き捨て、残った四冊の本を、
二千万エンで売ろう、と言う。
大帝が、
馬鹿馬鹿しい、と言って相手にしないと、
シビュレーは、
三冊を暖炉に投げ捨て燃やした、
シビュレーは、
残った最後の一冊を、
大帝の目の前にかざすと、
この最後の一冊を、
五千万エンで売ろう、と言う、
大帝が呆れ果て黙っていると、
シビュレーは、
最後の一冊を暖炉に投げ捨てた、
その刹那、
まるで夢から醒めたように、
大帝が炎の中に手を突っ込み、
シビュレーの本を取り出すと、
五千万エンをシビュレーに払って、最後の一冊を手に入れた、
本は未来を指し示し、
大帝の偉業は成った、
というお話しだ。
その本が、もし本物なら、大帝の偉業もやすやすと成っただろう。
世に言う、
シビュレーの予言の書、
大帝にまつわる伝説の一つだ。




