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☆14☆
「来ましたわ!」
わたくしは叫びました。
「素晴らしいインスピレーションと第六感が、同時にビビっと、来ましたわ!」
わたくしは素敵な閃きをお与え下さった神様に感謝して続けます。
「探偵は、
一滴の雨粒から海を連想し、
無数の白い糸の中から、血に染まった赤い糸を見つけ出さねばなりません。
わたくしは、その糸口をつかんだのです!」
ガニマール警部が驚いたように、
「どうしたのですぞ? そんなに大きな声をあげて、熱でもあるんですか?」
「ガニマール警部、わたくしの魂は正義に燃え、いつでも熱く煮えたぎっていますわ。
それはともかく、
わたくしには犯人とそのトリックの目星がつきましたわ」
ガニマール警部が瞳を見開き、
「ほっ! ほんとかね、シャーロットくん!」
わたくしは自信満々に、
「ええ、わたくしの推理に間違いはありませんわ」
ガニマール警部がせきこむように、
「だ、誰が犯人なのかね!? 早く教えるのですぞ!」
わたくしは努めて冷静に、
「ガニマール警部、すべての話は、一つ一つ、秩序だてて、論理的に話さなければなりませんわ。焦っては駄目ですわ」
ガニマール警部が、
「わ、わかってるのですぞ。とにかく、シャーロットくんの推理を話して欲しいのですぞ」
「わかりましたわ、ガニマール警部。それでは、まず最初に、あれをご覧ください」
わたくしは花瓶と書棚の間にある羽毛を指差しました。
ガニマール警部が怪訝そうに、
「あの羽がどうかしたのかね? シャーロットくん」
「あれは恐らく枕の羽毛ですわ。では、なぜ、この部屋に、そんな物が落ちていたのでしょうか?」
ガニマール警部がハッとしたように、
「まさか消音のためなのか?」
「その通りですわ。犯人は銃を撃つさい、発砲音を消すために、銃を枕で包んで撃ったのです。
その後、犯人は飛び散った羽毛を回収したものの、部屋のすみに飛んだ羽毛を見つける事は出来なかったのですわ」
ガニマール警部が、
「すると、犯行時刻は屋敷の者が発砲音を聞いた時ではない、というわけですな」
わたくしはうなずき、
「おっしゃる通りですわ、ガニマール警部。あの時みんなが聞いた発砲音は爆竹の音ですわ」
ガニマール警部が驚き、
「なにっ? そんな物がどこにあったと言うのですぞ!?」
「わたくしは夏も迫るこの時期に、暖炉の火を炊くのはおかしいと思いました。
そこで、暖炉の中を調べたのです。
すると、かすかな火薬の匂いと、爆竹の燃えかすを見つけたのです。
犯人は暖炉に爆竹を置き、その上に薪を乗せて、薪の上のほうから火をつけたのです。
薪が燃え続ければ、いずれは爆竹に火がつきます。
犯人はその間に犯行現場を離れる事が出来たのですわ」
ガニマール警部がうなずき、
「むうう。なるほど。完全に盲点だったのですぞ」
わたくしは、
「さて、犯人は最後に密室トリックを施して部屋を出ます。
その方法は、まず最初に、この部屋の、鍵が掛かって無かった事を思い出して下さい。
つまり、この部屋はスライド式のかんぬきで密室になっていた、という事です。
そして、外部からかんぬきを掛けるには、
まず、長い糸をU字型にします。
U字の底をかんぬきに引っ掛けます。
それから、U字の二本に別れた糸を壁に沿って伸ばします。
部屋の廊下側の角にある花瓶の裏を通して、さらに壁沿いに伸ばし、
窓際の角にある花瓶の裏を通します。
最後に、被害者の頭を貫通した後、窓を突き破って出来たガラスの穴から二本の糸を外に出します。
最後に犯人は、
犯行に使った拳銃と穴の開いた枕、回収した羽毛をバスケットの中に隠し持って外に出ます。
庭に出た犯人は、
二階の窓から伸びている糸を二本同時に引っ張って、かんぬきを掛けます。
そのあと糸を一本だけ引っ張って、糸を回収したのです。
その後、犯人は庭に穴を掘って、拳銃と穴の開いた枕、回収した羽毛を埋め、さらに、その上からバラを植えたのです」
セイヤーズさんが血相を変えて、
「ま、待ってくれっシャーロット嬢! 君の話しぶりからすると、ま、まさか」
わたくしは、
「そのまさかですわ、セイヤーズさん。真犯人は」
わたくしはゆっくりと指差します。
「ドロシーさん! あなたですわ!」




