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☆13☆
ガニマール警部とそのお仲間の警察官のかたたちによって、徹底的にウィムジー卿の屋敷は捜査されました。
それと、先ほどガニマール警部の登場で中断していた、ピーター卿のアリバイの話が出てきました。
居間のソファーに座っていたピーター卿が、
「さあてね~、事件が起きるまで、俺は居間で酒を飲んでいたぜ」
ガニマール警部が、
「それを証明出来ますかな?」
「そりゃ無理だ。俺一人だけで飲んでいたんだから」
ガニマール警部が開け放たれた扉の先に見える玄関を指さし、
「この部屋からは、ちょうど玄関の扉が見えますが、あの扉から不審な者が出入りしているのを見ていやせんですかな?」
ピーター卿が首を振り、
「いや、怪しい奴なんて出入りしてないぜ。ドロシー義姉さんが、庭いじり用の道具を入れた、でっかいバスケットを持って庭に出て行ったきりだよ」
ガニマール警部が周囲を見回し、
「他に外に通じる扉か窓はありませんかな?」
セイヤーズさんが、
「あとは食堂の厨房にある通用口と廊下の奥の裏口ですが、どちらも図書室の前を通らないと二階には上がれません。
もし不審者がいれば、僕に気づかれずに廊下を通り抜ける事は出来ないはずですよ。
図書室の扉はいつも開けっ放しになっていますから。
窓から入っても同じ事だと思います」
わたくしは、
「二階の窓から出入りした形跡はないのでしょうか?」
ガニマール警部が、
「二階の窓の外は庭になっているのですが、庭にはドロシーさんの足跡以外、不審な人間の足跡は何一つ無かったのですぞ」
わたくしは素っ頓狂な声で、
「えええ~っ! それじゃ犯人は、わたくしたちの誰か、という事になるのですか!」
思わず悲鳴をあげました。
ガニマール警部が狼狽しながら、
「ふ~む。理論上は、どうしても、そういう事になるのですぞ」
「わたくしは犯人ではありません! 探偵ですわ!」
つい金切り声をあげます。
ガニマール警部が困ったように、
「そんな事を言われましてもな。困っておるのは、こっちのほうですぞ」
ピーター卿が、
「まあ、人生なるようにしかならんわな~。人間、諦めが肝心なんだよ」
なんて酷い男でしょう!
ゴミです!
ダニです!
サナダムシですっっ!!
わたくしが心の中で憤慨していると、ドロシーさんがユラリと肩を震わせながらソファーから立ち上がります。
その顔は朱に染まって真っ赤でした。
唇をワナワナ震わせ、拳を振り上げてガニマール警部に抗議しました。
「冗談じゃありませんよ、警部! 犯人は分かってるじゃないですか! 考えるまでもありませんわ! ルパンです! アルセーヌ・ルパンの仕業です! それ以外にありえないでしょう! 密室で主人を射殺し、魔法のように姿をかき消す、そんな芸当が出来るとしたら、アルセーヌ・ルパン以外にあるものですか!」
その場の全員が凍りつきました。もちろん比喩です。
重苦しい沈黙を打ち破ったのはガニマール警部の咳払いでした。
「ウオッホン! 実は小生、奴の別の事件で捜査をしておりましてな、その事件というのが」
みなまで言わせずセイヤーズさんが、
「アルセーヌ・ルパンによる、聖なるサファイアの盗難予告なのです。
奴はアヴァロン銀行の貸金庫に納められた聖なるサファイアを盗むと、予告状を送って寄越したのです。
聖なるサファイアは代々、アヴァロンの王妃に受け継がれる、秘宝中の秘宝です。そこで、亡き父は銀行をガニマール警部に、父の身辺や自由に行動出来る探偵としてシャーロック・ホームズ氏を選んだのです。
結果的にはシャーロット嬢が事件に関わる事になりましたが」
ピーター卿が、
「しっかし、シャーロットちゃんにとっては、いい迷惑だな。聖なるサファイアじゃなく、殺人事件が起きちまったからな。
怪盗紳士とか言って気取っていやがるが、フタを開けてみりゃ、ただの人殺しじゃねえか。ふてえ野郎だぜ」
いい加減にしろよオッサン!
わたくしはちょっぴりカッとなって言い返します。
「ピーター卿、それは違うと思いますわ。
アルセーヌ・ルパンは盗んでも人は殺さない。
盗みにしても、金持ちからしか盗まない。
いわゆる紳士的な義賊と言えますわ」
ピーター卿が食ってかかります。
「だが、現にこうして兄貴は殺されてるじゃねえか。こんな事が出来るのは義姉さんの言う通り、アルセーヌ・ルパン以外にいないだろう」
「それは、そうかも知れませんが」
わたくしには反論する糸口すらつかめませんでした。
~シャーロット・ホームズから~
読者様への、
お・ね・が・い。
これで事件の全てを語り尽くしましたわ。
でも、
でも、でも、でも~!
わたくしには犯人とトリックがサッパリわかりません。
ゆゆしき事態です。
そこで、読者様にお願いがあります。
犯人とトリックを見事暴いて、わたくし、シャーロット・ホームズに、読者様の思念波を送っていただきたいのです。
大丈夫です。
あなたがたの思念波は、間違いなく、遠く離れた異世界アヴァロンまで届きます。きっと、わたくしに素晴らしい霊感を、真犯人を突き止めるロジックを、お与え下さると信じていますわ。
読者様の素晴らしい思念波をシャーロット・ホームズまで、
どうか、
どうか、お送り下さいまし。
シャーロットはいつまでも、お待ち申し上げておりますわ。




