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☆12☆
ガニマール警部が到着するまで、わたくしたちは一階の居間で待つ事にしました。
わたくしは皆さんのアリバイをお尋ねする事にしました。
するとピーター卿が、
「ところでシャーロットお嬢ちゃん。あんたは事件が起きた時に、どこて何をしていたんだい?」
アリバイを聞かれました!
「わたくしは一階のお部屋でずっと寝ていましたわ。とっても気持ちよく眠れる、フッカフカのソファーでしたから」
ピーター卿が瞳をこらし、
「アリバイなしだな」
わたくしは動転して、
「まあ大変! その通りですわ!」
心中の憤慨を隠しながら、そう答えました。
ピーター卿がセイヤーズさんに、
「お前はどうなんだ? セイヤーズ?」
セイヤーズさんがオドオドしながら、
「僕は大学の卒論を書いてましたね。一人で一階の図書室に閉じ籠っていたんですよ。残念ながら、僕にもアリバイが無いって事です」
わたくしはニッコリ笑顔を浮かべ、
「わたくしとお仲間ですね」
そう言うとセイヤーズさんが顔を赤らめ、
「ともかく、あの銃声が鳴って、シャーロットさんを起こしに隣りの部屋へ行くまで、僕は一人でしたよ」
ピーター卿が渋い顔つきで、
「こいつはマズいな」
と、セイヤーズさんに言います。
「何がマズいんですか?」
ピーター卿が、
「何って? 兄貴が死んだら財産の半分は義姉さんに、残りの半分はセイヤーズに。行く事になるが、問題は、兄貴の銀行だ。
アヴァロン帝国最大の帝国銀行の経営は当然、お前が引き継ぐ事になる。そこから生まれる莫大な利益はすべてお前の物になる。
要するに、兄貴が死んで一番、特をするのがセイヤーズ、お前で、しかも、アリバイがないとなると、警察は当然、お前を疑ってかかるだろうぜ」
セイヤーズさんが目を白黒させて、
「まさか! 僕は銀行経営なんて興味ありませんよ! 僕は大学院に進んで、勉強を続けたいんです」
ピーター卿が、
「博士にでもなるつもりか?」
セイヤーズさんが自信なげに、
「なれるかは分かりませんが。アヴァロン帝国銀行は伯父さんに任せますよ。僕には荷が重すぎます!」
ドロシーさんが、
「冗談じゃないわ、セイヤーズ! ピーターにそんな真似が出来るはずないでしょう! ウィムジーの会社は、あなたが引き継ぐんですよ、セイヤーズ!」
セイヤーズさんが反論しようとする前に、玄関の呼び鈴が鳴りました。
わたくしは玄関に走って行き、
「アニャアアアアアッ!」
またスカートのすそを踏んづけて、大きな両開きの扉に激突する寸前、扉が開いて、がっしりした男性がわたくしを支えてくれました。
半ば抱き抱えるような密着状態で、わたくしは顔から火の出る勢いで羞恥心に襲われ、
「すっ、すみません! お見苦しい所をお見せしました!」
とっさに離れます。それにしても、何で扉が開いていたのでしょう?
がっしりした男性が、
「問題ないのですぞ、お嬢さん。それより、ウオッホン、アヴァロン警視庁から来た、ガニマール警部ですぞ。ウィムジー卿が殺害されたと聞き、飛んで参った次第ですぞ、ウオッホン」
わたくしは、
「まあ、よく見たらガニマール警部ですわね。お久しぶりです、ガニマール警部。以前、シャーロック叔父様について、事件現場に行った時に、一度お会いしたのですが、わたくし、シャーロット・ホームズです」
ガニマール警部がドングリまなこをしばたたかせ、
「おおっ、君はたしか、シャーロック・ホームズの娘の」
わたくしはさりげなく、
「違いますわ、ガニマール警部、どうやら勘違いされているようです。わたくしはシャーロック叔父様の姪のシャーロット・ホームズです」
ガニマール警部が、
「ああっ、そうか、そうだった。小生も時折、ホームズの周囲にいる君をチラッと見た事があるのだが、てっきり彼の娘と思い込んで勘違いしておったのですぞ」
「わたくしはマイクロフト・ホームズの娘ですわ、ガニマール警部。お忘れなく」
ガニマール警部がうなずき、
「うむ、ところで、聞くところによると、君とホームズは新大陸へ渡ったと聞いたのだが」
「ええ、ですが、出航寸前でセイヤーズさんがシャーロック叔父様に仕事の依頼をしに参られたのですわ。ですが、シャーロック叔父様はどうしても新大陸で引き受けた仕事を優先しなければならないとの事で、そのかわりに、わたくしを雇ってくれまいか? とセイヤーズさんに推薦したのです」
ガニマール警部が驚いたように、
「ほほう? 君のような小娘、いや失礼、お嬢さんを推薦したのですな」
わたくしは胸をはり、
「ええ。こうみえてもわたくし、シャーロック叔父様の手足となって影に日向に、シャーロック叔父様をお助け致して参りましたの。それに、大好きな探偵小説もたくさん読んで勉強していますし。きっと、お役に立てるかと思いますわ」
ガニマール警部が訝しげに、
「ふうむ。だが、実際の事件となると、そうそう素人探偵の手に負えるようなものではないのですぞ」
ガニマール警部はあくまで懐疑的な、疑わしげな目つきでわたくしをジロジロと見つめます。
そこへセイヤーズさんが現れ、
「大丈夫ですよガニマール警部、彼女の能力にたいしては、稀代の名探偵シャーロック・ホームズ氏のお墨付きです。絶対に大丈夫だと太鼓判を押されましたから」
ガニマール警部は肩をすくめ、
「まあ彼がそう言うのなら信用しますぞ。それでは、事件現場を案内して欲しいのですぞ」
わたくしは、
「はい、ガニマール警部。こちらですわ」
二階のウィムジー卿の部屋へガニマール警部を案内しました。




