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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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12章 王都にて  02

 俺たちは木々の間を抜け、『クイーンモス』の元に近づいていくことにした。


 遠くから見た感じでは『クイーンモス』は木のてっぺんにとまって羽を休めているようだ。


 問題はそれをどう討伐するかで、もし初動をミスって空に飛ばれてしまうと面倒なことになる。少なくとも最初の一撃で飛行能力を奪わなくてはいけないのだが、さてどうするか……と考えていると、ラーニが鼻をクンクンと鳴らした。


「ねえソウシ、なんか変。近づいても毒のニオイがしないよ。むしろちょっといいニオイかも」


「いい匂い?」


 それはそれで獲物を誘いこむ危険なモンスターの気もするが、しかし毒の臭いがしないならあれは『クイーンモス』ではないということにもなる。


「ソウシさん、あれを」


 スフェーニアが木の上を指さす。見ると木々の間に白いロープのようなものが張り巡らされている。その様子は規模こそ違えども、見たことがある光景であった。


「あれは蜘蛛の巣か? もしそうなら巣を張ったのは巨大な蜘蛛ということになるが……」


 張り巡らされている白いロープは部分的に網目状になっており、一見して巨大な蜘蛛の巣に見えるものであった。


「マリアネ、巨大な蜘蛛のモンスターというのもいるのか?」


「います。巣を張るタイプだと『キラースパイダー』ですが、この大きさだと『クイーンキラースパイダー』でしょう。やはりBランクのモンスターです」


 どうも思ったより面倒な話になってきた気がするな。しかし状況がまだ呑みこめない。巨大モンスターが同時に出現したということなのだろうが、蜘蛛と蛾という組み合わせで共闘したりするものだろうか。


「モンスターがモンスターを捕食するということはあるのか? 例えば『パラライズモス』を『キラースパイダー』が捕まえて食うとか」


「ダンジョンでは聞いたことがありませんが、フィールドではあります。ゴブリンがオーガに捕食されるなどはよく聞きますね」


「よく聞くのか……」


 となると、もしかしたらあの巨大蛾は蜘蛛の巣に捕まっているのかもしれないな。しかしそれならそれでラッキーではある。


「分かった。とりあえずその『キラースパイダー』にも警戒しよう。蜘蛛の巣に捕まったら大変そうだ」


「はいソウシさま」


「ソウシなら普通に力でなんとかできそうだけど」


「ふふっ、そうですね」


 と新たなモンスター情報にもあまり動揺がない『ソールの導き』の面々。イレギュラーにすっかり慣れてしまっているな。


 進んでいくうちに頭上の蜘蛛の巣の密度が次第に濃くなっていく。そして『クイーンモス』の羽が空を覆うところまで近づくと、やはり巨大蛾が蜘蛛の巣に捕まっていることが判明した。羽や足が蜘蛛の巣に絡めとられていて、明らかに動きが取れない状態になっている。


「やっぱり捕まってるんだね。でもそれならラッキーじゃない? ねソウシ」


「そうだな。まずは『キラースパイダー』を討伐して、それから『クイーンモス』をゆっくりやろう」


 ラーニに答えつつ周囲に目を走らせる。『気配感知』は働かせているが、蜘蛛の巣のせいで感知が妨害されているようだ。恐らく巣のどこかに巨大蜘蛛がいるのだろうが……。


「フレイ、一応『浄化』をしておいてくれ。それとスフェーニア、蜘蛛の糸に土属性の魔法をあててみてくれないか。それで『キラースパイダー』が寄ってくるかもしれない』


 確か巣を張る蜘蛛は糸の振動で獲物がかかったかどうかを感知するなんて話を聞いたことがある。


「はい。『浄化』いきます」


「『ストーンバレット』」


 フレイニルの『浄化』にはそこまでの効果が感じられなかった。ラーニの言う通り空気中に毒鱗粉はなかったということだろう。


 一方でスフェーニアの放った石礫(いしつぶて)が木の上の蜘蛛の巣に当たり、糸を何本か切断したりと衝撃を与えた。しばらく様子を見ていると、何か巨大なものが木の上を移動してくる気配がある。


「うわ、気持ち悪っ!」


 ラーニが叫んだのも無理はない。


 蜘蛛の巣をつたって木々の間から姿を現したのは、幅7~8メートルはありそうな太った蜘蛛だったからだ。腹が黄色と黒の縞模様になっていて視覚的にもなかなかに刺激が強い。


「あれは確かに『キラースパイダー』の上位種ですね。特徴が完全に一致します。糸を飛ばしてからめとってこようとするので注意してください」


 マリアネの注意に従って俺たちは構えをとった。『クイーンキラースパイダー』はまだ木の上にいて、飛び道具でなければ攻撃は届かない。


「フレイは『後光』のあと『聖光』、スフェーニアとマリアネは飛び道具で攻撃してくれ。俺は糸を防ぐ。ラーニは様子を見て周りの糸を切ってあいつを引きずりおとしてくれ。糸には引っかかるなよ」


「はい」


「了解っ!」


 フレイニルの『後光』を合図にして、俺以外の全員が動く。


 スフェーニアの『ストーンランス』が『クイーンキラースパイダー』の腹に刺さる。同時にマリアネのひょうも頭部に突き刺さった。ダメージを受けて『クイーンキラースパイダー』がくるりと尻を向けた。逃げるのかと思ったがそうではなかった。次の瞬間尻からおびただしい量の白いロープ……蜘蛛の糸が射出されたのだ。


 俺は『衝撃波』を上に射出、しかし弾き返された蜘蛛の糸はふわりと広がって、飛び散ることなく周囲に降り注いでくる。蜘蛛の糸は『衝撃波』スキルとは相性が悪いようだ。


「みな下がれ!」


 俺の指示でフレイニルたちが下がりつつも遠距離攻撃を行う。ラーニも木を伝って上手く糸を避け、『クイーンキラースパイダー』の足場になっている巣を切断している。


 一人『クイーンキラースパイダー』と対峙する形になる俺は、数本の糸にからめとられてしまう。細めのロープほどの太さの糸は粘着性もあって確かに厄介は厄介だった。ただどうやら俺の怪力を邪魔できるほどではない。


 ラーニがさらに数か所の巣を切断すると、重さに耐えられなくなったのか、『クイーンキラースパイダー』が乗る部分が外れて落ちてきた。巨大蜘蛛はそれでも別の木に足をかけて落下を阻止しようとしたが、その足を『聖光』が切断すると地面にドサリと落ちた。


 すかさず俺は絡まる糸を振り切ってダッシュ。巨大蜘蛛の頭部、4つ目の真ん中にメイスを振り下ろした。




「あとは『モス』だけだね。私がいって首落として来る?」


 ラーニが言いながら頭上を見上げた。そこには依然として蜘蛛の糸にとらえられた巨大な蛾が天を覆っている。


「……ちょっと待ってくれ」


 普通ならラーニの言う通り、幸運に感謝しながらさっさと討伐すればいい。


 しかし蜘蛛の糸に捕まっている巨大蛾の本体部分を見た時、俺はなにか妙な感じを受けた。もちろん本体部分も頭部もただの巨大な蛾そのものなのだが、どうもこいつは普通のモンスターではないという気がするのだ。さきほどの『浄化』の時の感覚からいっても、この蛾の鱗粉は有毒なものでもないらしいし。


「マリアネ、このモンスターを『鑑定』することはできるか?」


「はい? ええ、この大きさでこの距離なら可能です。やってみましょう」


 マリアネの切れ長の目に力がこもり……そしてマリアネは首をかしげた。


「どうやらこのモンスターは『クイーンモス』ではないようです。『鑑定』では『ガルーダモス』と表示されました。しかもモンスターではなく、種別としては『聖獣』というものになるようです」


「『聖獣』?『ガルーダモス』か……」


『ガルーダ』といえばもとの世界では神様が乗る鳥の名前だったはずだ。『聖獣』という種別もいかにもそれらしいし、やはり討伐するのはマズいやつなのではないだろうか。


「ラーニ、済まないがこいつの羽から鱗粉を少し取ってきてくれないか? 羽は傷つけないようにしてくれ」


「え? まあいいけど」


 ラーニが『跳躍』と『空間蹴り』を駆使して一気に飛び上がり、剣の鞘で羽の表面を擦って下りてきた。普通にやっているが、この動きも人間離れというレベルではない。


「これでいい?」


 鞘の先についた鱗粉は金色に輝いている。


「マリアネ、『鑑定』を頼む」


「はい。……『豊穣の鱗粉』……大地を浄化し活性化させ、植物などを(はぐく)む土地を作りだす……だそうです。聞いたことがない効果ですね」


「フレイニル、スフェーニア、教会やエルフの間でこういう『聖獣』がいるなんて話はあるのか?」


「教会の経典にはなかったと思います。教会はそもそも動物などのお話は避ける傾向にありますので」


「……確かエルフの古い伝承に、大地を豊かにする巨大な蝶のお話はあります。この『聖獣』と同一のものかは分かりませんが」


「そうか、ありがとう」


 なんとも判断に困る事態になってしまったな。俺が考えなしの冒険者なら、この『ガルーダモス』は討伐し鱗粉をレアアイテムとして回収、売りに出すという話になるだろう。


 ただまあ、明らかにこいつは倒していいタイプの存在ではなさそうだ。なにしろ『聖獣』である。この手のものを人間が倒すと、だいたいそのあとひどい呪いにかかるとか、この『聖獣』のおかげで保たれていた環境が破壊されるとかがおとぎ話のお約束だ。


「……こいつは逃がしてやるか」


 俺がつぶやくと、ラーニが驚いたような顔をした。


「どうして?」


「この『ガルーダモス』は討伐してはいけない気がするんだ。鱗粉の成分からいっても、こいつは空を飛ぶことで人間に益を与えている生き物だろう。それに『聖獣』というのも気になる。こういうのを間違って殺したら呪いがふりかかった、なんて話もあったりするからな」


「ふぅ~ん。まあ頭のいいソウシがそう言うならそれが正しいのかな?」


 ラーニが首をかしげる横で、フレイニルが杖を胸にあてながら「ソウシさまのおっしゃる通りだと思います」と深く頷く。


「『聖獣』というのは私も気になります。ソウシさんのおっしゃる通り、あの『ガルーダモス』は解放するべきでしょう」


「ギルドとしても問題はありません。『鑑定』でモンスターと断定できない以上、あの生き物をどうするかは発見者の判断にゆだねられます。ただ報告は必要ですが」


 スフェーニアとマリアネも反対ではないので、『ガルーダモス』の解放が決定した。


 俺が見上げると、蜘蛛の巣の上に巨大蛾の頭部がある。そんなはずはないのだが、その顔はどことなくホッとした表情をしているように見えた。

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