表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/409

10章 黄昏の眷族  08

「いやいや大変なご活躍で、わたくしとても感銘を受けました。同行の冒険者さんにうかがった所、さきほどのモンスターはBランク級とか。それを一撃で倒してしまわれるとは、皆さんはきっと名のあるパーティなのでございましょう。どうかその名をお聞かせ願えませんでしょうか?」


 馬車から降りてきたのは、小柄ながらがっちりした体格の、それでいてきちっとした商人風の身なりをした髭の男性だった。年齢は40代後半だろうか。表情はにこやかだが目の奥には如才(じょさい)なさが見える。前世での経験から言うと頭のキレる個人バイヤーといった感じだ。


 俺たちが反応に迷っていると、男性はハッとなって愛想笑いをした。


「ああ、これは失敬。わたくしはトロントと申しまして、王都を中心にいくつかの町にて多少の(あきな)いをしているものでございます。モンスターを討伐した腕、そしてあの巨大なモンスターを『アイテムボックス』に収納するというすばらしいお力、どちらも商人としては見過ごせるものではございません。無論我々を助けていただいたというところも感じておるところでして、是非ともお近づきになれればと思ってお声がけした次第です」


「これはご丁寧に、私はソウシと申します。我々のパーティは『ソールの導き』と申しますが、活動を始めて間もないCランクのパーティです。まったくの無名ですのでお耳汚しにしかならないでしょう」


 俺が答えると、トロント氏は両手を広げ驚いたようなそぶりを見せた。ただ一瞬だけ「しめた!」というような表情をしたのは気のせいではないはずだ。


「なんと、それほどのお力を持ちながら無名とは、そのようなことがあるのですな! でしたらなおのこと『ソールの導き』、そしてそのリーダーのソウシ殿のことは覚えておかねばなりません。むしろ商人としては、すでに有名なパーティとつながりができるより価値があるものでございますので」


「先物買い、ということでしょうか。我々がご期待に沿えるかどうかは保証しかねますが」


 俺の言葉にトロント氏は少しだけ本気で驚いたようだ。


「ソウシ殿はやはりなかなかに話の分かる御仁のようですな。ますます友誼(ゆうぎ)を結びたくなりましたぞ。そうそう、先ほどのサラマンダーはどちらのギルドまでお持ちになるご予定ですかな?」


「この先のバートランですね」


「それは結構ですな。われわれも丁度バートランへ寄る予定でしたので、いい素材が入手できそうです」


 少しだけ悪い顔をするトロント氏。恐らく他の商人に先駆けてサラマンダーの素材を手に入れるつもりなのだろう。抜け目のない商人というところだが、雰囲気からすると大店(おおだな)の幹部とかなのかもしれないな。


「ともあれお助けいただいたからにはお礼を差し上げたいと思うのですが、何かご所望のものなどございますでしょうかな?」


「いえ、たまたま遭遇したモンスターを討伐しただけですから礼などいただくわけには参りません」


「いえいえ、こちらとしてもそういう訳にはまいりません。あのままでしたら、商品どころかこちらの命まで危険にさらされるところでしたからな」


 トロント氏の言うことも分かるのだが、実際ただのなりゆきであるし礼をされるいわれはない。ただトロント氏としては我々とつながりを作りたいということだろうし、ただ断っても聞いてはくれないだろう。


「そこまで言われるのでしたら……そうですね、今後王都に向かうこともあると思いますので、その時に何かをお願いするというのはどうでしょう。()()()()トロント殿の名は胸に刻んでおきますので」


 そう言うと、トロント氏は少しだけキョトンとした顔をして、それからさも面白そうに笑いだした。


「ふははっ、ますます今日の出会いを感謝せねばいかんようです。分かりました、今日のところはこれで。しかし王都にお越しの際は必ずトロント商会までお立ち寄り下さい。いい宿などもご紹介できますので」


 そう言うと、トロント氏はさっそうと馬車の方に戻っていった。引き際の速やかさもいかにもやり手商人という感じである。


「ではお先に!」


 と挨拶をして、トロント氏一行の馬車はそのままバートランの方に向けて出発していった。馬車のスピードが思ったより速くて驚くが、よく見ると荷馬車を()く馬はかなりいい馬のようだった。


「なんかよくわからないおじさんだったね。なんのやり取りをしていたかよく分からなかったけど、でもなんとなくソウシが上手くやった感じは分かったかな」


 馬車を見ながらラーニが言うと、フレイニルも合わせて頷いた。


「私もそう感じました。多分ソウシさまは先ほどの方の信用を得たように思えます」


「トロント商会は王都でも三本の指に入る商会です。その会頭の信を得たのは『ソールの導き』としてはかなり大きなことだと思います」


 思いがけないマリアネの言葉に俺はつい「は?」と言ってしまった。王都で三本の指に入る商会の会頭と知己(ちき)を得るとは……『悪運』スキルは少し働き過ぎではないだろうか。過労で倒れても誰も助けてくれないんだがな。




 その2日後の昼、俺たちはバートランの町に到着した。ロートレック伯爵領の第二の町らしく、エウロンに近い規模のかなり栄えている町である。


 まずはマリアネをギルドまで送り届けなければならない。もちろんそのまま『サラマンダー』を買取に出す予定である。恐らくそれがバートランのギルドでのマリアネの初仕事ということになるのだろう。


 バートランのギルドはやはりエウロンとほぼ同じ規模のものだった。建物内のカウンターの配置などが同じなのは、旅をする冒険者がどこでも同じように用事を済ませられるようにするためらしい。


 マリアネはギルドに到着すると奥の部屋に行き、10分ほどでカウンターに入って業務を始めた。バートランのギルドマスターに話を通したということなのだろうが、対応が早すぎる気がする。ギルド内部的にマリアネのような専属職員への対応があらかじめ決まっているということか。


 他の受付嬢が遠巻きに怪訝(けげん)そうに見ているのだが、マリアネはまったく気にする様子はない。このあたりはいつもの通りだ。


「ソウシさん、まずは『サラマンダー』の買取をいたしましょうか?」


「そうですね、お願いします」


 というわけで、いきなり裏の解体場まで移動する。


 マリアネが解体職の職員を呼んできたので、俺は解体場前の広場に『サラマンダー』を取り出した。


 やはり20メートル級のモンスターを『アイテムボックス』から取り出すのは珍しいことらしく、男の解体職員が目を見張った。


「いや話には聞いてましたがこりゃすごいですね。すでに買い手はついてますので早速やらせてもらいますよ」


 なるほどすでにトロント氏の予約が入っているようだ。素材がすぐに(さば)けるならギルドとしても願ったりかなったりだろう。


 俺たちはギルド内に戻って『サラマンダー』討伐の手続きなどを済ませる。


 ギルド内にいた冒険者の内数名がこちらを気にしていたようだが、専属職員持ちと気付いたのかもしれない。


 この町の周囲にはDクラスダンジョン1つとCクラスダンジョン2つがあり、冒険者のランク平均はエウロンより高そうだ。それだけに目敏(めざと)い者も多いだろう。


その後町に出てマリアネお勧めの宿を取った。マリアネも同じ宿に泊まるということで、どうやら女性陣はまたにぎやかになりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ