8章 エルフの里へ 11
その翌日は、話をした通り朝からスフェーニア嬢が行動をともにすることになった。
まずは早朝のトレーニングを行ったが、やはりスフェーニア嬢レベルになるといくつかのスキルについては意識して鍛錬は行っているようだ。
ただ動体視力や瞬発力などの細分化された能力までは意識してはいなかったようで、それらのトレーニングを一緒にやったところ、「この概念に気付くのは素晴らしいと思います」と驚かれてしまった。俺としては単に前の世界で学んだだけのことなので、あまり感心されてもむずがゆいだけだったが。
ともあれその後4人でDクラスダンジョンに潜る。里のDクラスダンジョンはやはり大木に洞が開いているタイプで、5階層の小規模なものだった。
1~2階で出現したのは『キラービーソルジャー』。Fクラスダンジョンのボスだった奴だが、フレイニルの『聖光』、ラーニの『疾駆』+『跳躍』、スフェーニア嬢の弓の前には7匹出てきてもほぼ瞬殺である。
3~4階は『アイアンバグ』という巨大ダンゴムシだ。表皮が鋼鉄のように硬い上に丸くなって突っ込んでくるという面倒そうなモンスターだが、俺のメイスの前ではスイカ割りのスイカのように砕け散るだけであった。
「『アイアンバグ』を一撃で砕くのはCランクでも不可能だと思います。ソウシさんの力はそれだけで驚異的ですね」
というスフェーニア嬢の言葉にフレイニルは頷き、ラーニはまたサムズアップをしていた。
5階ではやはりFクラスで出てきたミミズ型の『キラーワーム』の上位版『ラージワーム』が出現した。全長が倍の6メートルほどもある上に表面がぬめっていて攻撃が通じにくいらしいのだが、攻撃の一瞬以外は動きが遅いためフレイニルとスフェーニア嬢の魔法の餌食になってもらった。
ちなみにフレイニルの『聖光』に関してもスフェーニア嬢曰く、
「『聖光』はアンデッドには効果が大きいのですが、通常のモンスターにここまで威力があるものは見たことがありません」
とのことだった。
さてそんな感じで進んでいくと、4時間ほどでボス前扉にたどり着く。というかスフェーニア嬢がいることもあって攻略速度が早すぎる。
「Dクラスを初回でボスまで、ですか」
スフェーニア嬢の言葉は実は皆の気持ちを代弁している感はある。まあ今回はCランクが一緒なのでそこまで驚くほどのことはない……のかもしれない。
ボスはイレギュラーもなく、情報通り通常ボスの『マーダーツリー』だった。樹木型の大型モンスターで、鞭のようにしなる10本ほどの枝による近接攻撃と、毒の果実を飛ばしてくる遠距離攻撃が厄介なボスである。
といっても遠距離での果実攻撃を俺が全て防ぎ、その隙にフレイニルとスフェーニア嬢の魔法で枝を落としてもらえば、あとはラーニの火属性魔法剣と俺のメイスを太い幹に叩き込んで終わりである。
俺が新たに得たスキルは『鋼幹』というもので、体幹を強化して体勢を固定できるようになるスキルのようだ。『不動』『安定』と合わせると大型モンスターの突撃を正面から受け止められるようになるらしい。物理特化がますます進む。
フレイニルは『命気』、回復魔法である『命属性魔法』の効果が上がるものだ。パーティ全体の生存性が上がるのはありがたいが、フレイニルの聖女感もさらに増した気がする。
ラーニは『衝撃吸収』で、名前の通り受けた衝撃を弱めるスキルのようだ。攻撃された時のダメージを減らすほか、高い所から落下した時の衝撃や、『疾駆』使用時の身体への負担も減るらしい。地味だがかなり有用なスキルだろう。
「ソウシさんのパーティは信じられないくらい強いですね。多数のモンスター相手でもまったく危なげがありませんし。その上連携も見事で、信頼関係で結ばれているのがよく分かります。私がこのパーティに入ってもいいのでしょうか?」
ダンジョンを出たところでスフェーニア嬢が穏やかな顔でそう言った。
「ええもちろんです。一緒に行動をして、スフェーニアさんがパーティに是非とも必要だということが分かりました。よければパーティに入っていただけませんか」
「そうそう。私たちのパーティの神髄はこんなものじゃないしね。一緒に強くなろうよっ」
「スフェーニアさんが入ってくれると心強いです」
と皆で勧誘の言葉をかけると、スフェーニア嬢は深々とお辞儀をして、「よろしくお願いいたします」と言った。ラーニとフレイニルがスフェーニア嬢に抱き着いて3人で喜びあっている。一緒に寝泊まりしてずいぶんと仲が良くなっているようだ。
しかしまさかCランクの、しかも位の高そうなエルフ美少女まで加わってしまうとは……そのうち逆に俺が不要になったりしないだろうか。妙な不安感を抱いたまま、俺は皆を連れてダンジョンを後にするのだった。
翌日朝4人でギルドを訪れると、受付嬢のミーラン女史が向こうから声をかけてきた。
「ソウシさん、少しよろしいでしょうか?」
「どうしました?」
「実は昨日からアンデッドの目撃情報が増えていまして、今討伐依頼を出す準備中なんです」
「それは……出現したのはどんなモンスターですか?」
「ゾンビ系ですね。動物のゾンビが多いようで、西の森からいくつも出てきています。街道の警備を増やして対応してますが、数が次第に増えてるようです」
「そうですか……」
俺がパーティの方を振り返ると、3人は俺の考えを汲んでくれたのかコクンと頷いた。それを確認して俺はミーラン女史に提案をする。
「調査依頼や討伐依頼を出していただければとりあえず我々で調べてみますがどうでしょう。アンデッドの調査は得意ですので」
「本当ですか? ではすぐに依頼処理をしますのでお願いします」
ミーラン女史はそう言うと、台帳を出して事務処理を始めた。
俺はパーティの方に向き直る。
「なにか気になることはあるか?」
「一昨日見たパーティはどうしたのかな? 昨日も今日もいないよね」
ラーニの言葉が聞こえたのか、ミーラン女史が答えた。
「そういえばあのパーティは確かにここ2日ギルドには見えていませんね……っと、これでよしと。一応調査・討伐依頼としました。急ぎなので報酬はとりあえず所定の額としますが、調査依頼ですので調査結果によって増えることもあります」
「わかりました。ありがとうございます」
ということで依頼を受け、里の西に広がる森へと向かった。
さて、『悪運』スキルがどんな仕事をするのかお手並み拝見といくか。




