24章 異界回廊 37
50階での戦闘が終わり、魔石などの回収も済んだ。
床からせり上がって来た円筒形の岩のオブジェクトには、地下51階へ続く階段が備わっていた。やはり『王家の礎』は、50階より下があるらしい。だが今回はここまでだ。俺たちはそちらに向かわず、階段の脇にあった転移装置を起動し、『王家の礎』を後にした。
転移先は王城の地下、『王家の礎』の入口がある部屋だ。部屋には誰もいなかったが、部屋を出ると扉の脇には衛兵が2人立っていた。
彼らのうち一人はすぐに国王陛下のもとに、俺たちの帰還を伝えにいった。もう一人に時刻を聞くと、そろそろ陽が沈み始める頃だという。
とりあえず全員自分の部屋に戻ることにする。
俺は風呂で汗を流した後、国王陛下の執務室へ行き正式に帰還の報告を行った。
俺の顔を見ると、国王陛下は厳めしい顔をわずかに緩めた。
「『ソールの導き』の無事な帰還を嬉しく思う。して、この度は地下何階まで辿りついたのであろうか」
「地下50階までとなります。さらに下る階段がありましたので、『王家の礎』はより深い階層があるようです」
「気が遠くなるような話だ。貴殿も疲れているだろうが、詳しい話は夕食の場で聞かせてもらえるだろうか。それから明日、『王家の礎』にて取得したものについては記録を取らせてもらいたい」
「承知しました。こちらではなにか大きな変化などはありましたでしょうか?」
「いや、特に大きな動きがあったという報告は聞いてはおらぬ。ただ、やはりモンスターの出現数はわずかばかり増えてきているようだ。特に南方ではその動き大きいと報告されている」
国王陛下の言葉には『大いなる災厄』の確実な接近を感じとることができた。
今俺たちがやるべきことは、まさにその『大いなる災厄』に備えることである。今回の『王家の礎』もあくまでその一環に過ぎない。
もちろん対策のメインとなるのは、南方で起こるであろう『大いなる災厄』に備え、冒険者の動きを円滑にするために『異界の門』を開いて『異界回廊』を整備することだ。
「陛下、今回『王家の礎』にて十分な魔石が得られましたので、速やかに『異界の門』を設置したいと思います」
「うむ。すでに場所は決まっておるので、速やかにというのであれば明後日から行ってもらっても構わぬ。我が国にはすでアルマンド公爵領に一つ開いているが、それ以外に我が国の南端となるバリウス子爵領、それからその間にあるロートレック伯爵領の領都周辺に設置を頼みたい」
「かしこまりました。『聖獣ガルーダモス』の協力が得られますので、場所などが決まっていればそちらも3日から4日で対応が可能です」
「驚くべき話だが、今はその力に頼るしかない。バリウス子爵とロートレック伯爵にはすでに話は通っており、場所などの選定も済んでいる。よろしく頼む」
ということでかなり慌ただしい日程になるが、明日一日メンバーは休んでもらって、その後はヴァーミリアン国内で3カ所の『異界の門』設置。そしてそのまま一気に帝国領へ向かうということで国王陛下とも話がまとまった。
「しかし、『聖獣』に乗った冒険者パーティが大陸各所を飛び回るというのは、この大陸の歴史上でも初のことだ。貴殿らの活躍は当然後世に記録を残すが、正確な記録が残せるよう時々は王城を訪ねてもらいたい」
と最後に言われたが、俺にとってはそれが一番ありがたい言葉だったかもしれない。
今回『王家の礎』で、ますます『ソールの導き』は力をつけてしまったが、どうにか疎まれることのないよう身を処していきたいものである。
翌日の午前は、『王家の礎』での取得物の記録を行った。
国王陛下、宰相のジュリオス氏、護衛役の親衛騎士ハーシヴィル青年、同じく護衛役兼鑑定役の親衛騎士メルドーザ女史が立ち合い人となる。
取得した物が多かったので場所は会議の間にて行われたが、実際に今回手に入れた数々の防具やアクセサリー類、それからモンスターの素材などを並べていくと、いかに充実した5日間であったかがよく分かった。
もっともそう安楽に感じているのは俺だけで、国王陛下やジュリオス氏は何度も溜息をついていたし、鑑定をしているメルドーザ女史などは鑑定するごとに息が止まらんばかりに驚いていた。
「……すべてが神話か伝説からそのまま生まれ出たような武具ばかりです。世が世であれば、この武具を巡って国同士が争いになってもおかしくはないでしょうね」
とメルドーザ女史が言い、ジュリオス氏も、
「まったくその通りです。オクノ侯爵、申し訳ありませんが、これらの武具は必ず行方がわかるようにしておいてください。散逸するとなにが起きるかわかりませんので」
と俺に釘を刺しにくるほどであった。
フレイニルの杖『母なる星の祈り』などは、持っているだけで聖女となれるアイテムらしいので、トラブルのもとになりそうというのはすでに『ソールの導き』内でも語られたことである。
なお、取得した武具の中に、メンバーが誰も使わないオリハルコン製の槍があった。
実はこちらも『円環の錐』というAAランクの『名付き』の武器であり、槍使いであるハーシヴィル青年がその槍を手に取って、まるで魅入られたようにじっと眺めていた。
「よければお譲りしますよ」
「よろしいのですか!? 是非ともお譲り下さい、我が家の家宝といたしますので!」
普段冷静なハーシヴィル卿が子どものようにはしゃぐ姿に、国王陛下とジュリオス氏が苦笑いしていて、メルドーザ女史は羨ましそうな顔をしていた。
さらにその後、『王家の礎』で新たに見つかったモンスター素材も報告をした。
いずれも貴重品であるが、特に国王陛下や宰相閣下の反応が大きかったのは、『回春』効果のある油、『精神安定』効果のある毛皮、『強壮剤』になる睾丸、『毛生え薬』になる角、『整腸剤』になる角、そして神謹製のプラスティックと化学繊維である『万能樹脂』『万能布』だ。
『鑑定』をしていたメルドーザ女史が「この角は毛生え薬になるそうです」と報告した時、国王陛下がピクッと反応したのを俺の鋭敏な感覚は捉えていた。やはり王となるとストレスは半端なものではないのだろう。
もちろんいずれも貴重かつ有用なものということで、一部を王家に献上することがその場で決定した。
最後、会議の間を出る時に、宰相のジュリオス氏がススッと近づいてきて、
「この度はとても素晴らしいものを拝見させていただきました。ところで、『グレートアームズ』の睾丸とベアオーガの角ですが、個人的にお譲りいただくことはできないでしょうか……」
とささやいてきた。
彼は若くして宰相を務める俊英だが、すでに2人の女性を娶っているらしい。もちろん政務のストレスも相当なものなのだろう。『回春剤』と『整腸剤』を求めるのは当然なのかもしれない。
「もちろん構いませんよ」
と快諾するとホッとした顔をしていたのだが、彼も彼なりにプレイベートな悩みもありそうだ。
そのあたり他人事ではなくなりそうなこの身であるので、自分用にも取っておくことにしよう。




