24章 異界回廊 30
『王家の礎』地下45階。
ここで出現したボスは、3匹のリザードマンだった。
白金色の、オリハルコンの表皮をまとう『深きもの』2匹と、緋色の表皮まとう『昏きもの』1匹。
深きものはメンバーに任せ、俺は、あの『黄昏の眷族』の王・レンドゥルムにも伍すると思われる昏きものへ向かって行った。
すでに構えを取っていた昏きものも、俺を相手と認めたのか、真っすぐに突進してきた。
「むっ!?」
そのスピードは先ほどより格段に速かった。どうやらさっきは他の2匹に合わせていたらしい。俺はカウンターのタイミングを逸し、昏きもののショルダータックルを『不動不倒の城壁』で受け止めた。
先ほどとは桁違いの金属音、いやもはや爆発音に近い音が鳴り響き、それに相応しい衝撃が俺の身体を駆け抜ける。
やはりレンドゥルムに近い力がありそうだ。だが、あの時より俺も力は上がっている。数メートル押し込まれるもそこで踏みとどまり、次に繰り出される連撃を受け止める。
耳をつんざく金属音、昏きものの打撃は『不動不倒の城壁』を揺るがすほどだが、力はわずかにレンドゥルムには及んでいないようにも思える。
「ちィッ!」
十数発目かのパンチに合わせ、俺は『不動不倒の城壁』を前方に一気に突き出した。『翻身』スキルによって一瞬でトップスピードに乗るオリハルコン製の盾は、カウンターで昏きものの拳を砕き、そしてその身体を吹き飛ばした。
シャアッ!
転倒する直前、身体をバネのようにして体勢を立て直した昏きものは、口を開いて声を上げた。その黒い目には闘志と怒気と、そして歓喜の感情が浮かんでいるように見える。俺を好敵手と認めたということか。
再度俺はダッシュする。『疾駆』スキルとは比べるべくもないが、常人とは比較にならない速度は出ている。
昏きものも俺に合わせて前に出てくる。拳とメイスが交錯し、凄まじい音と衝撃と共に双方後ろに弾かれる。さらにもう一撃、さらにもう一撃。
俺は盾で拳を受け、昏きものは身体をくねらせてメイスの直撃を避ける。驚くべきは昏きものの体術と再生能力だ。先ほど砕いた拳はもちろん、何度か骨まで粉砕しているはずなのだが、数瞬の後には回復してしまう。これはクラーケンと同じように再生能力を消耗させるか、一撃で全身を粉砕するしかなさそうだ。
我慢比べのような打撃戦。その繰り返しを嫌ったか、重い一撃を放った後、昏きものは超高速で後ろに下がり、その口を開いた。
喉の奥にチラつく白い光、プラズマブレス。
直後に、昏きものの口から青白いジェット噴射のようなブレスが放たれた。その速度は事実上無限速か。
辛うじて、先読みで構えた『不動不倒の城壁』で受け止められた。驚くことに、そのブレスは上階で戦った双頭のドラゴン、ツインヘッドクイーンのブレスのような重さを兼ね備えていた。さきほどのショルダータックルに近い衝撃と、そして凄まじい熱が俺を襲う。
なんとか数メートル下がるに抑えたが、その時には昏きものは俺の横に回り込んでいた。
シュイッ!!
鋭い呼気とともに放たれた突きが俺の肩口に叩き込まれる。実際は頭を狙った攻撃だが、俺が辛うじてブロックしたのだ。
それでも初めてのクリーンヒットには違いない。『神嶺の頂』越しに伝わる破壊的な衝撃に、俺の脳が激しく揺さぶられる。
シャッ!
嵩にかかって攻めてくる昏きもの、一切の無駄と容赦を削ぎ落した攻撃を、次々と俺に叩きつけてくる。
撃ち込まれる衝撃に、俺の全身が軋む。何カ所か骨にひびが入ったような感じもあった。だが俺の『再生』スキルも大したもの。昏きものと同等以上の回復力で、瞬時に身体を元に戻してくれる。
「シッ!」
何十発目かの蹴りに合わせ、『万物を均すもの』を振り上げる。それを読んだかのように躱した昏きものはさすがだが、逆からの『不動不倒の城壁』の一撃はそうはいかない。横殴りの白金色の盾にぶち当たり、細い身体が吹き飛んでいく。
俺はダッシュで接近、跳ね起きた昏きものにメイスの連撃を食らわせる。
それを躱してカウンターを狙う昏きものだが、再び盾の一撃を食らって後ろに下がった。口を開いたのはプラズマブレスの予備動作。
受け止めれば同じことの繰り返しだ。俺は『神嶺の頂』と自身の耐性スキル、そして『再生』スキルを信じることにする。
「だァッ!」
ブレス噴射には一瞬の溜めがある。その一瞬間に距離を詰め、大上段から『万物を均すもの』を振り下ろす。
プラズマブレスの噴射と、白金色の光芒と化した槌頭が昏きものの頭部をとらえるのはほぼ同時だった。
凄まじい熱と衝撃が俺を包む。だが俺の右腕は、確かに昏きものの頭部を砕く感触を伝えていた。
「俺の勝ちだッ!」
プラズマブレスの威力が半減したのは、昏きものの頭部が砕けたからだろう。俺もかなりの火傷を負った気がするが、すんでで顔を背けたので視力は失われてはいなかった。
目の前には、頭部が破壊されてなお崩れぬ昏きものの身体。俺はその身体に向けて、渾身の力で『万物を均すもの』を叩きつけた。
「ソウシさま、回復いたします」
後ろからフレイニルの声が聞こえ、久しぶりに命属性魔法の光が俺を包んだ。
酷く焼けていたはずの身体が、急速に癒えていくのが分かる。やはりフレイニルの魔法は強力だ。もしかしたら『エリクサー』に近い回復力があるのではないだろうか。
「助かった」
「ソウシさまが炎に包まれた時は心臓が止まるかと思いました」
「あれくらいでは死なないさ。フレイの魔法もあるしな」
「ですが、ソウシさまがあそこまで追い詰められるのは驚きました」
「レンドゥルムと同じで、微妙に相性が悪い相手だったからな。まだ向こうも格闘にこだわってくれたからよかった」
実際高速移動で動き回られブレスで攻撃を続けられたら面倒だった。とはいえ、こちらは仲間がいる。長期戦は向こうも不利と読んでいたはずだ。
その肝心の仲間たちだが、フレイニルがここにいる時点ですでに優勢であることは知れた。
それぞれが5体1の戦いであり、連携にも慣れ切った『ソールの導き』だ。しかも前衛は全員『疾駆』持ち。いくら強力なボスとはいえ、スピードで拮抗し数で勝れば勝てない道理はない。
思った通り、前衛3人の連携は完全に深きものを圧倒している。1匹を三方から囲み、1人が攻撃を受ければ別の2人が攻撃し、こちらが攻撃する時は他の2人が深きものの退路を防ぐ。
ブレスの動作が見えれば離れたところにいる後衛陣の魔法が刺さり、後は完全に深きものの再生能力が尽きるのを待っている状態だ。
見ていると、マリアネ、マリシエール、ライラノーラ組の方は、マリアネの『状態異常付与』が効果を発揮したのか、深きものの再生能力が先に尽きたようだ。スフェーニアの雷属性魔法『ライトニング』が決まって動きが止まったところを、マリシエールとライラノーラが切り刻んで止めをさしていた。
一方ラーニ、サクラヒメ、カルマの方だが、やはり追い込んだところをゲシューラの『ライトニング』で動きを止めて、前衛三人が最大攻撃を叩き込んで終わりになった。盤石ともいえる戦いだが、今回は数が少なかったのが幸いしたということだろうか。
全員が満足したような顔で戻ってきたので、いい戦いができたのだろう。逆に言えば、あのボスたちはそれだけの強敵だったということである。
「まだ一対一だと手こずりそうな相手ですわね。私が戦ってきた中ではライラノーラさんに次ぐ強さでした」
マリシエールがそう言いながら、長い銀髪をかき上げる。
すべての能力が高く、強力な特異スキルを持つマリシエールは『ソールの導き』の中でもトップクラスの実力者だ。彼女の言葉は重みがある。
全員が同意してうなずいていたが、カルマとサクラヒメが特に思うところがあったようだ。
「ボスっていうのは4対1、5対1で戦うのが当たり前だけど、やっぱり1対1で戦ってみたいっていうのはあるさね。まあさっきの奴はちいとキツそうだけど」
「2対1なら辛うじていけるかもしれぬな。だが我らは冒険者ゆえ、必ず勝つ態勢で望むのが常道。個人の武勇は2の次にせねばならぬ」
「それもわかってるけどねえ。ま、余裕ができたらってことにするさ」
「ところでソウシ殿の相手はいかがでござった」
サクラヒメの問いに、皆の視線が俺に集まった。
「身体能力と格闘の力はレンドゥルムより劣るかな。ただあのブレスは厄介だった。総合力なら上回っていたかも知れない」
「あのブレスは直撃したらかなり危なそうだったね~。シズナの『精霊』が何人か溶けちゃったし」
ラーニの言葉を聞いて、俺は確かに『精霊』の数が足りていないことに気付いた。
今日最後の戦いなので影響はないが、あの強力なミスリルの『精霊』が溶けるのだから、やはりあのプラズマブレスは危険なものだったようだ。
今さらながらに、捨て身でブレスを受けた自分の戦い方を反省する。
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