24章 異界回廊 21
『王家の礎』攻略二日目は地下16階からのスタートだ。
11~15階までは霊体系、アンデッド系だったが、ここからは帝都のクラスレスダンジョン『龍の揺り籠』にも出てきた虫系モンスター『ヒュージワーム』『オリハルコンバグ』との戦いになる。
前者は巨大ミミズ、後者は白金色に輝くオリハルコンの外殻を持つ巨大ダンゴムシだ。
もはや広めの通路であっても身動きが取れないほどの数が現れるのだが、俺たちの前では敵にはならない。ヒュージワームが落とす珍味の謎肉や、オリハルコンバグが落とすオリハルコン塊を拾いながらの行軍となる。
地下20階は下りると直接ボス部屋になっている仕様である。目が眩むほどの広大な空間に、『レギオンアント』という軽自動車くらいの大きさの巨大アリの軍団がたむろしている。『龍の揺り籠』の時は500匹くらいだったが、今回はその3割増しくらいに見える。もちろん最奥にはボスである、全長10メートルを超える女王アリの姿がある。
と、そこまでは予想通りなのだが、気になるのは元々黒だったはずのレギオンアントがすべて金色に光っていることであった。
マリアネによると、
「『ゴールドアント』という名で、レギオンアントの上位種のようです。奥の女王アリも金色ですからレアボスということでしょう」
ということだった。
後ろでシズナとラーニが、
「もしやあのアリを倒したら金が出てくるのかのう」
「だったらすごいよね。金ぴかダンジョンになりそう」
などと言っていてつい吹き出してしまう。
「レアボスだから弱いということはないだろう。気を引き締めていくぞ」
と注意をして戦闘を始めるが、最初にフレイニルに弱体化魔法『神の後光』をかけてもらったこともあって、また俺たちの実力が格段上がっていることもあって、以前の『レギオンアント』戦よりも楽に戦えてしまった。
最後、一匹残った女王アリは子どもたちを全滅させられて怒って暴れたが、もともと女王アリ自体の戦闘力は高くないのであっさり討伐されてしまう。しかも俺に『強奪』までされていたので、さすがに多少の憐憫の情が湧いてしまった。
さて、戦場を振り返ると、床の上には無数のAランク魔石と、そしてピンポン玉くらいの大きさの金塊が散らばっていた。
「思ったより金ぴかじゃないね」
「この部屋が広いからのう」
という2人のやりとりに脱力しつつも、これほどの量の金が一度に得られることに、ダンジョンと俺たち『ソールの導き』の組み合わせの危険度を再確認する。
マリシエールとドロツィッテが、
「さすがにこの量の金を一度に市場に流したら困る者が出てくるかもしれませんわね。帝都や王都くらいなら影響は小さいでしょうが」
「その前に冒険者ギルドが困ってしまうよ。王都のドワイトが泣き顔になるから、しばらくはソウシさんの『アイテムボックス』にしまっていて欲しいね」
と言うのももっともだが、ミスリルやオリハルコンもすでにトン単位で入っていたりする。
もっともゲシューラによるとこういった貴金属は魔導具作成には欠かせないそうなので、後々そちらで使うことになるかもしれない。
金の宝箱からは、黒い重装の鎧が出てきた。全体的に曲線を主体とした有機的なデザインの鎧で、縁や要所要所が金で飾られている。形状から女性用と思われるものであった。
「『孤高なる女王』という武具ですね。『金剛体+3 金剛壁+3 全属性魔法耐性+3』の効果があります」
間違いなく国宝級の一品だが、もはや誰も何も言わない。
なお装着者だが、『ソールの導き』で重装の鎧を着けるのは俺とカルマしかいないので、自動的にカルマのものになる。
カルマはその戦闘スタイルから攻撃を食らうことはそれなりにあり、今着けている『ダークフレアドラゴンアーマー』もかなり傷だらけであった。
「いや、連続でアタシの装備品がでちまって悪いね」
と言いながら、新しい鎧にご満悦な表情のカルマ。なお、黒に金の模様が入った鎧が、微妙に虎の毛皮を連想させる点は俺の胸の裡にしまっておいた。
それから『強奪』で得られたものは、白に金の刺繡がされた美しいマントだった。
「『精霊姫の愁い』という防具です。『矢止め+3 全属性魔法耐性+3 全属性魔法力+3』の効果があります」
ということで、これはマントを常用しているスフェーニアのものとなった。
「これほど美しい刺繍は見たことがありませんね。美術品としても価値がありそうです」
と満足そうなスフェーニアだが、いつものことながらハイエルフの彼女が装飾品を身に着けるとその美しさは圧倒的である。俺は未だに直視できない時があるくらいなのだ。
確実に装備をレベルアップさせつつ、地下21階へと進む。
この階から出現するのは不定形モンスターの代表格『スライム』である。帝国の『龍の揺り籠』でも同じスライムだけの階層があったが、こちらのスライムたちは微妙にランクが上がるようだ。
今、目の前には幅10メートル以上ある広めの通路が真っすぐ奥へと続いている。
その床にも壁にも天井にも、びっしりと半透明のゲル状モンスターが張り付いている。『パラサイトスライム』という名前のスライムだが、自身がなにかに寄生するのではなく、ゲル状の身体に別のモンスターを寄生させているスライムらしい。
よく見ると、半透明の身体の中に線虫のような細長いモンスターがいて、それが時々表面からニョロッと顔を出す。スライムだけでも見た目の破壊力が高い上にそれなので、ラーニやシズナが「気持ち悪っ」とか「これほど気色の悪いモンスターは初めてかもしれんのう」と口にする。
普段無表情なマリアネが、わずかに顔をしかめつつ俺の横に来る。
「パラサイトスライム自体は、強い物理、魔法耐性を持つだけのモンスターですね。あの中にいる『ポゼッションワーム』がかなり厄介なようです」
「人間にも寄生するんだったか」
「はい。寄生された場合、最終的にはその人間は操られることになります。もっとも私たちくらいのレベルであれば、寄生されることはないでしょうが」
「それでも気味が悪いことには違いないな。念入りに潰していこう。スフェーニア、魔法で完全に焼き払ってくれ」
と指示しながら見ると、スフェーニアも美しい顔を眉間の皺で台無しにしていた。
「わかりました。火属性魔法で部屋ごと完全に焼き払いましょう。シズナ、ドロツィッテ、ゲシューラ、いいですね?」
「了解じゃ」
「私も全面的に賛成するよ」
「火属性魔法を使うのは久しぶりだな」
魔導師系の4人もやる気になっていて、文字通りダンジョンの通路を火の海にするほどの火力でパラサイトスライムを焼き払ってしまった。
残されたのは大量の魔石と、それから透明のガラス玉だった。
ガラス玉は溶かしてそのままガラス製品にするそうだ、このスライムのガラス玉は透明度が極めて高く、高級品となるらしい。市場の引き合いが強そうだが、
「うむ、これほど不純物の少ないものは見たことがない。これは我の製作物に使えそうだな」
とゲシューラがまたも上機嫌なので、半分はストックしておくことになるだろう。
なお、魔石はパラサイトスライムとポゼッションワーム二匹分が一気に出るので、床に散らばっている数はめまいがするほどである。
23階24階では『ラーヴァスライム』という、溶岩がそのままスライムになったようなモンスターが出現した。
もちろん数えきれないほどに出現するので、ダンジョンの通路がすべて溶岩になってしまったかのように錯覚するほどだ。眩しい上に熱量もすさまじく、まるで超高温のサウナで、『火属性耐性』『暑気耐性』スキルがなかったら耐えられなかっただろう。
高温の身体をもつスライムなので直接攻撃は危険、魔法も『水属性魔法』以外は効果が薄いので、スフェーニアたちに頑張ってもらうことになる。
一応俺の『圧潰波』やラーニ達の『飛刃』なども試してみたが、そちらでも問題なく倒すことはできた。
ドロップする素材はミスリルやオリハルコンといった希少金属の塊だ。マリアネに『鑑定』してもらうと、チタンや白金と思われるものも含まれていた。中には、
「粉末などを吸引すると危険とのことです」
というものもあり、どうやらコバルトやらニッケルのような取り扱い注意な希少金属もあるようだ。ただ、そういった希少金属をこの世界で扱えるようになるにはかなりの時間がかかるだろう。
やはりゲシューラが目を輝かせていたので、基本的には『アイテムボックス』にストックしておくことになる。
ちなみに、魔石などの回収量があまりに多いので、『精霊』のミスリル人形たちに野営で使う仕切板を渡し、箒で掃くようにして魔石や素材を集めさせ、床に開けた『アイテムボックス』の穴に落とさせることにした。もはや素材回収ではなくダンジョンの清掃である。
「普通の冒険者がこの光景を見たらショックを受けるだろうね。いや、誰が見ても同じかな」
そんな感想を述べるドロツィッテが一番渋い顔をしているのは、指摘しない方がいいのだろうな。




