24章 異界回廊 19
『王家の礎』攻略1日目。
10階ボス討伐後、時間と体力に余裕があるのであと5階降りようということになった。
セーフティゾーンで小休止の後、11階へと下りていく。
ここからは出現するモンスターが、物理型から一転して霊体型になる。
アンデッドや精霊系と呼ばれるモンスターで、11~15階で出てくるのは、貴族のような風体の半透明の霊体アンデッド『カウントファントム』、ローブを身に着け、長い魔法の杖を持ったた骸骨『デスリッチ』、死神の鎌を持った骸骨『ソウルリーパー』となる。
いずれも前情報通りだが、出現数がやはり30体前後となる。カウントファントムとデスリッチはどちらも魔法を得意とするモンスターで、30体も出現したらそれだけで小さな町一つが灰になる集団だ。
しかしこちらには、対アンデッドスペシャリストのフレイニルがいる。
「行きます、『昇天』!」
彼女が行使する真聖魔法は、強烈な光でアンデッドたちを包み込み、一瞬で消滅させてしまう。
Aランクのアンデッドの集団すらほぼ一撃で全滅させるフレイニルの殲滅力はやはり凄まじい。辛うじて残ったものがいても、スフェーニアたちの魔法で止めをさされるので結局アンデッドたちが魔法を放つことは一度もなかった。
15階のソウルリーパーも同じだが、こちらはさすがに一撃で昇天しないものも多少は増えた。とはいえ後衛陣の魔法から逃れることはできない。
その大鎌は防具をすり抜けるため防御不可能で、食らうと精力を奪われるという話のモンスターだが、残念ながら(?)それを体験することはできなかった。
15階のボスは、『グランドリッチ』という巨大なリッチのはずだったのだが、出現したのは無数の人骨をまとめて巨大な球体にして、大きな頭蓋骨を10、円周上に並べた形の不気味なモンスターだった。直径で5メートルを超えるその球体型モンスターは、地上数メートルのところに浮かんでいる。
そう、以前メカリナン国で『冥府の燭台』イスナーニが召喚した『リッチレギオン』である。しかも数は3体。1体で町を灰燼に帰することができるモンスターらしいので、かなりの大盤振る舞いだ。
異様なモンスターを前に、ラーニが耳をピクピクさせる。
「これってもしかしてソウシがメカリナンで戦ったってやつ?」
「そうだ。『異界』でも似たようなのを『冥府の燭台』が召喚していたが、あれの元だろう」
「っていうことは、フレイニルの魔法で一発じゃない?」
その言葉にフレイニルが答える。
「『昇天』だと不十分だと思います。『神の審判』を使えば1体は確実に消滅させられるでしょう」
「じゃあ残り2体はわたしたちで倒そう。ソウシ、弱点は?」
「あの頭蓋骨を全部潰せば倒せる」
「オッケー」
ウオオオオォォンッ!!
3体のリッチレギオンが一斉に叫び声を上げた。使ってくるのは範囲攻撃魔法だろう。
こちらの後衛陣はすでに全員、獣形態の『精霊』に騎乗している。前衛陣は俺以外『疾駆』持ちなので、範囲魔法は見てから回避可能だ。
見ると俺たちがいた辺り一帯の床に魔法陣が浮かび上がっている。俺以外の全員が周囲に散っていき、俺だけが前方、リッチレギオンに向かって走って突進する。
俺の身体を炎や吹雪や真空の刃の竜巻が襲うが、極まった物理耐性スキル、魔法耐性スキル、そして各種アクセサリーと鎧『神嶺の頂』が、ダメージを無視できる程度にまで抑え込む。
その間に、リッチレギオンのうち右の一体がまばゆい光の柱に包まれた。フレイニルの『神の審判』は、アンデッド一体を確実に消滅させる強力な魔法だ。光に包まれたリッチレギオンは、叫び声を上げる間もなく消滅した。
それとほぼ同時に、残り2体のリッチレギオンに数百の岩の槍と雷と、そして光線が突き刺さる。
その攻撃でリッチレギオンは浮かぶ力を失い、地面にグシャリと落ちた。そこにラーニ達が集まっていき、頭蓋骨を一つづつ潰していった。リッチレギオンは長い腕を出現させて対抗したが焼け石に水、すぐにすべての頭蓋骨が砕かれて、2体のリッチレギオンは崩れて消えていった。
「ま、アタシたちの相手にはならないねえ」
カルマが大剣を肩に乗せながら欠伸をする。
『精霊』から降りてきたスフェーニアも、
「古に町一つを滅ぼしたモンスターも、私たちにかかればこの程度なのですね」
と、今さらながらに感心をしていた。
「おや、ソウシさん、どうかされましたか?」
「ああいや、俺の出番がまったくなかったなと思って」
「ソウシさんは深い階層で必ず出番がありますから、それまでは大きく構えていてください」
「それはそれで落ち着かないんだけどな。まあ、俺の出番がないのはいいことだと思おう」
宝箱は全て金箱だった。こちらも大盤振る舞いだ。
一つは『精霊女王の涙』という、涙滴型の宝石がついたネックレスだった。
マリアネの『鑑定』によると、
「『精霊再生+3』という効果のあるアクセサリーのようです」
とのことだった。初めて聞くスキル名だが、すぐにドロツィッテが捕捉してくれる。
「『精霊再生』というのは、確かシズナが使っている『精霊』が倒されてもすぐに復活できるようにするスキルのはずだね。昔オーズ国出身のAランク冒険者が持っていたスキルのはずだ。強くなるほどに復活できる回数が増えるんじゃなかったかな」
「それは心強いスキルじゃのう。『+3』というなら、3回まで回復するということかのう」
「そうじゃないかな」
シズナの『精霊』は時々捨て身の攻撃などをさせることもある。その時に一度倒されると復活まで2時間ほどかかるのだが、それが回数限定でもすぐに復活できるとなると長期戦などでは有用だろう。
もう一つの宝箱からは『極点の隠者』という、黒光りする短杖が出た。『全属性魔法力+5』という強烈な武器で、装備を好まないゲシューラが強い興味を抱いた。
すでのスフェーニアもドロツィッテもも同じAAランクの杖を持っているので、自然とゲシューラのものとなる。
「うむ、持った瞬間にしっくりとくる杖だ。このような出会いはそうはあるまい」
彼女はすでに『極点の賢者』という黒いマントを気に入って装備しているのだが、もしかしたら『極点の』という名が付く武具は『黄昏の眷族』用なのかもしれない。
さて、最後の宝箱だが、こちらはビール瓶ケースほどの大きさの木の箱が10個現れた。
一つを開けてみると、やはりビール瓶くらいの大きさの瓶がひと箱につき12本入っている。蓋は前世で見たネジ溝が切られた金属製のキャップで、ラベルこそ貼ってないが、見た目は完全に前世の酒そのものである。
キャップを開けて匂いを嗅ぐ。
「やはりウイスキーか……」
中身が琥珀色だったのでまさかと思ったのだが、やはりそれはウイスキーだった。俺の少ない贅沢の経験からいって、間違いなく高級品である。
アルコールの匂いに気付いたのだろう、酒飲みカルマの反応は早かった。
「ウイスキーってのは酒のことかい?」
「そうだ。麦芽などから作る酒で、多分この国にも近いものはあるだろう。ただこれは相当な高級品だな」
そう答えると、カルマは「うひょうっ!」と飛び上がった。
ちなみに、近くで話を聞いていたマリアネの目がキラリと光ったのを俺は見逃していない。
「そりゃ早速この後飲まないとねえっ! いやあ、ソウシさんが高級品って言うくらいなんだからさぞかし美味いんだろうね!」
「多分な。ただ味は合う合わないがあるからあまり期待はしすぎないほうがいいぞ」
と答えたが、推定Aクラスダンジョンのレア宝箱から出てきた酒が美味くないはずはないだろう。
俺もひさびさに心躍らせつつ、木箱を『アイテムボックス』にしまって、皆をセーフティゾーンに促した。
『王家の礎』攻略1日目。
10階ボス討伐後、時間と体力に余裕があるのであと5階降りようということになった。
セーフティゾーンで小休止の後、11階へと下りていく。
ここからは出現するモンスターが、物理型から一転して霊体型になる。
アンデッドや精霊系と呼ばれるモンスターで、11~15階で出てくるのは、貴族のような風体の半透明の霊体アンデッド『カウントファントム』、ローブを身に着け、長い魔法の杖を持ったた骸骨『デスリッチ』、死神の鎌を持った骸骨『ソウルリーパー』となる。
いずれも前情報通りだが、出現数がやはり30体前後となる。カウントファントムとデスリッチはどちらも魔法を得意とするモンスターで、30体も出現したらそれだけで小さな町一つが灰になる集団だ。
しかしこちらには、対アンデッドスペシャリストのフレイニルがいる。
「行きます、『昇天』!」
彼女が行使する真聖魔法は、強烈な光でアンデッドたちを包み込み、一瞬で消滅させてしまう。
Aランクのアンデッドの集団すらほぼ一撃で全滅させるフレイニルの殲滅力はやはり凄まじい。辛うじて残ったものがいても、スフェーニアたちの魔法で止めをさされるので結局アンデッドたちが魔法を放つことは一度もなかった。
15階のソウルリーパーも同じだが、こちらはさすがに一撃で昇天しないものも多少は増えた。とはいえ後衛陣の魔法から逃れることはできない。
その大鎌は防具をすり抜けるため防御不可能で、食らうと精力を奪われるという話のモンスターだが、残念ながら(?)それを体験することはできなかった。
15階のボスは、『グランドリッチ』という巨大なリッチのはずだったのだが、出現したのは無数の人骨をまとめて巨大な球体にして、大きな頭蓋骨を10、円周上に並べた形の不気味なモンスターだった。直径で5メートルを超えるその球体型モンスターは、地上数メートルのところに浮かんでいる。
そう、以前メカリナン国で『冥府の燭台』イスナーニが召喚した『リッチレギオン』である。しかも数は3体。1体で町を灰燼に帰することができるモンスターらしいので、かなりの大盤振る舞いだ。
異様なモンスターを前に、ラーニが耳をピクピクさせる。
「これってもしかしてソウシがメカリナンで戦ったってやつ?」
「そうだ。『異界』でも似たようなのを『冥府の燭台』が召喚していたが、あれの元だろう」
「っていうことは、フレイニルの魔法で一発じゃない?」
その言葉にフレイニルが答える。
「『昇天』だと不十分だと思います。『神の審判』を使えば1体は確実に消滅させられるでしょう」
「じゃあ残り2体はわたしたちで倒そう。ソウシ、弱点は?」
「あの頭蓋骨を全部潰せば倒せる」
「オッケー」
ウオオオオォォンッ!!
3体のリッチレギオンが一斉に叫び声を上げた。使ってくるのは範囲攻撃魔法だろう。
こちらの後衛陣はすでに全員、獣形態の『精霊』に騎乗している。前衛陣は俺以外『疾駆』持ちなので、範囲魔法は見てから回避可能だ。
見ると俺たちがいた辺り一帯の床に魔法陣が浮かび上がっている。俺以外の全員が周囲に散っていき、俺だけが前方、リッチレギオンに向かって走って突進する。
俺の身体を炎や吹雪や真空の刃の竜巻が襲うが、極まった物理耐性スキル、魔法耐性スキル、そして各種アクセサリーと鎧『神嶺の頂』が、ダメージを無視できる程度にまで抑え込む。
その間に、リッチレギオンのうち右の一体がまばゆい光の柱に包まれた。フレイニルの『神の審判』は、アンデッド一体を確実に消滅させる強力な魔法だ。光に包まれたリッチレギオンは、叫び声を上げる間もなく消滅した。
それとほぼ同時に、残り2体のリッチレギオンに数百の岩の槍と雷と、そして光線が突き刺さる。
その攻撃でリッチレギオンは浮かぶ力を失い、地面にグシャリと落ちた。そこにラーニ達が集まっていき、頭蓋骨を一つづつ潰していった。リッチレギオンは長い腕を出現させて対抗したが焼け石に水、すぐにすべての頭蓋骨が砕かれて、2体のリッチレギオンは崩れて消えていった。
「ま、アタシたちの相手にはならないねえ」
カルマが大剣を肩に乗せながら欠伸をする。
『精霊』から降りてきたスフェーニアも、
「古に町一つを滅ぼしたモンスターも、私たちにかかればこの程度なのですね」
と、今さらながらに感心をしていた。
「おや、ソウシさん、どうかされましたか?」
「ああいや、俺の出番がまったくなかったなと思って」
「ソウシさんは深い階層で必ず出番がありますから、それまでは大きく構えていてください」
「それはそれで落ち着かないんだけどな。まあ、俺の出番がないのはいいことだと思おう」
宝箱は全て金箱だった。こちらも大盤振る舞いだ。
一つは『精霊女王の涙』という、涙滴型の宝石がついたネックレスだった。
マリアネの『鑑定』によると、
「『精霊再生+3』という効果のあるアクセサリーのようです」
とのことだった。初めて聞くスキル名だが、すぐにドロツィッテが捕捉してくれる。
「『精霊再生』というのは、確かシズナが使っている『精霊』が倒されてもすぐに復活できるようにするスキルのはずだね。昔オーズ国出身のAランク冒険者が持っていたスキルのはずだ。強くなるほどに復活できる回数が増えるんじゃなかったかな」
「それは心強いスキルじゃのう。『+3』というなら、3回まで回復するということかのう」
「そうじゃないかな」
シズナの『精霊』は時々捨て身の攻撃などをさせることもある。その時に一度倒されると復活まで2時間ほどかかるのだが、それが回数限定でもすぐに復活できるとなると長期戦などでは有用だろう。
もう一つの宝箱からは『極点の隠者』という、黒光りする短杖が出た。『全属性魔法力+5』という強烈な武器で、装備を好まないゲシューラが強い興味を抱いた。
すでのスフェーニアもドロツィッテもも同じAAランクの杖を持っているので、自然とゲシューラのものとなる。
「うむ、持った瞬間にしっくりとくる杖だ。このような出会いはそうはあるまい」
彼女はすでに『極点の賢者』という黒いマントを気に入って装備しているのだが、もしかしたら『極点の』という名が付く武具は『黄昏の眷族』用なのかもしれない。
さて、最後の宝箱だが、こちらはビール瓶ケースほどの大きさの木の箱が10個現れた。
一つを開けてみると、やはりビール瓶くらいの大きさの瓶がひと箱につき12本入っている。蓋は前世で見たネジ溝が切られた金属製のキャップで、ラベルこそ貼ってないが、見た目は完全に前世の酒そのものである。
キャップを開けて匂いを嗅ぐ。
「やはりウイスキーか……」
中身が琥珀色だったのでまさかと思ったのだが、やはりそれはウイスキーだった。俺の少ない贅沢の経験からいって、間違いなく高級品である。
アルコールの匂いに気付いたのだろう、酒飲みカルマの反応は早かった。
「ウイスキーってのは酒のことかい?」
「そうだ。麦芽などから作る酒で、多分この国にも近いものはあるだろう。ただこれは相当な高級品だな」
そう答えると、カルマは「うひょうっ!」と飛び上がった。
ちなみに、近くで話を聞いていたマリアネの目がキラリと光ったのを俺は見逃していない。
「そりゃ早速この後飲まないとねえっ! いやあ、ソウシさんが高級品って言うくらいなんだからさぞかし美味いんだろうね!」
「多分な。ただ味は合う合わないがあるからあまり期待はしすぎないほうがいいぞ」
と答えたが、推定Aクラスダンジョンのレア宝箱から出てきた酒が美味くないはずはないだろう。
俺もひさびさに心躍らせつつ、木箱を『アイテムボックス』にしまって、皆をセーフティゾーンに促した。
別に連載している『悪役公爵』の書籍が昨日発売となりました。
ご興味のあるかたはお手に取っていただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。




