24章 異界回廊 18
クラスレスダンジョン『王家の礎』の攻略1日目。
推定Aクラスダンジョンとはいえ、俺たちにかかると地下1~5階のザコ戦は一気である。
出現する『オーガアデプト』は、地下2階では40匹にまで増えた。3、4階では高級豚肉をドロップする『タイタンボア』が出現し、肉大好き獣人族のラーニとカルマの目の色が変わった。出現数も30~40匹と多いので、得られた肉の総量は恐ろしいことになっている。1年分は手に入ったと思われるが、さすがに少し市中に回してもいいだろう。
地下5階は通路が一気に幅、高さともに30メートル以上になり、そこに全長15メートルはある『スモールドラゴン』が登場した。
しかも通路の奥から次々と飛んできたり走ってきたりと大変な騒ぎだったのだが、それも完全に力押しで勝ってしまう。とはいえさすがに俺の『圧潰波』を数回使わせてはもらったが。
「ボスは『ケルベロス』であったな。ソウシ殿が入った時は希少種だったとか」
ボス部屋の扉前で、サクラヒメが真剣な面持ちで薙刀『吹雪』を握り直した。皆も気を緩めている様子はない。
「そうだな。お陰で『不動不倒の城壁』を得ることができたが、今回はどうなるか」
「腕が鳴るでござるな」
俺は気合を入れるサクラヒメにうなずいてみせ、ボス部屋の扉を開いた。
広大な空間、俺たち全員が入ると扉がひとりでに閉まり、そして部屋の中央あたりに黒い靄が巻き起こる。その大きさからいって3匹だろう。ボスの複数出現はもう当たり前なので驚きはない。問題はレアボスだが、
「一匹だけ色が違うゆえ、あれが希少種ということでござるな」
出現した3匹の三つ首巨犬『ケルベロス』のうち、中央の一匹は俺が以前戦った、漆黒の毛皮をしたレアボスだった。他の2匹の毛皮は灰色で、身体もわずかに小さいようだ。
さて、Aランクボス3匹との戦いだが、それ自体はほぼ一瞬で決着がついてしまった。
ノーマルケルベロス1匹は俺の『圧潰波』の一撃で潰れ、他の2匹も魔法の斉射を受けた時点で大きく怯み、その隙に距離を詰めた前衛陣が斬りかかると後は一方的な戦いになった。なにしろ得意の火球ブレスを吐く暇すら与えられなかったのだ。
「う~ん、ソウシの話よりずっと弱い感じだったわね。これなら一人でも戦えそう」
ラーニが物足りなそうな顔で戻ってくる。
「あの時に比べて俺もラーニたちも別人のように強くなってるからな。今のラーニなら確かに一人で勝てるんじゃないか」
「だよね~。まあでもわたしたちの目的はダンジョンの深くまで潜ることだし、時間はかけられないわよね」
殊勝なことを言うラーニの方をカルマがバシンと叩く。
「へぇ、ラーニも随分と大人になったじゃないか」
「少しはそっちも成長しないとね。それよりお宝は少し楽しみ。1匹レアだったし」
さて、その肝心の宝箱の中身だが、銀箱の2つにはそれぞれ『ミスリルの腕輪(金剛力+2)』『魔力の指輪(魔法力+3)』というアクセサリーが入っていた。
どちらもかなり強力な付与効果があるものだが、腕輪は前衛扱いだが力が比較的弱いマリアネが使うことになった。なおマリアネはすでに『剛力+1』の腕輪を着けているが、『剛力』とその上位スキル『金剛力』は同時に効果があるそうだ。
指輪の方は話し合って、後衛でも比較的魔法がまだ弱いシズナが着けることになった。
さて気になるのはレアボスから出た金の宝箱だが、出てきたのは、大きなミスリル製の樽であった。その横には径の大きな蛇口がついていて、見た目はスポーツやレジャーで使われていたウォータージャグに近かった。
ドロツィッテが目を輝かせたので、どうやら初めて出るようなものらしい。
「マリアネ、『鑑定』の結果はどうだい?」
「『不尽の水瓶』という魔導具です。魔石を入れることで水が湧き出るものだそうです」
「給水の魔導具ということならそれほど珍しくはないね。他になにか情報はないのかな?」
「この魔導具は非常に効率がいいようですね。Fランクの魔石1つで樽50本分の水が出るそうです。さらにお湯を出すこともできるようですね。お湯にするとさすがに効率は半分になるようですが」
と答えると、ドロツィッテの他、スフェーニアやシズナ、サクラヒメなどが大きく反応した。
「それが本当なら従来品の50倍の効率ということになるね。もしこれが解析できて量産できれば人々の生活が大きく変化するほどのものだ」
そう言って、ドロツィッテは俺の方を見てくる。その前にチラッとゲシューラのほうも目を送ったので、ゲシューラに解析を頼めということなのだろう。
言うまでもなく、この世界でも水のあるなしは生活や農耕など、様々な分野に大きくかかわる要素である。確かに解析して量産できれば大きな話ではあるが、ただこの世界、魔導具の大量生産が実現するにはまだ時間が必要そうだ。ドロツィッテが言うほどの変化はすぐには起きないだろう。
ともかく新しい魔導具についてはそれくらいにして、俺たちは先に進むことにした。
地下6、7階は『オーガアデプト』の上位種で、両手に斧を持った『バーサーカーオーガ』が出現する。
数はやはり20匹~50匹くらい一度に出てくるが、俺たちにとっては物の数ではない。
地下8、9階は『タイタンバッファロー』という、やはり3、4階で現れた『タイタンボア』の上位種が出てくる。身体が一回り以上大きい、凶悪なツノ付きの四足獣で、出現数も多く面倒なので俺が相手をすることにした。『不動不倒の城壁』を構えて『誘引』スキルを発動すると、勝手に突進してくる。直前で俺が『不動不倒の城壁』をカウンター気味に突き出すと、それだけで片が付いてしまう。作業とも言えるような酷い討伐である。
素材としてやはり食肉が出てくるが、こちらは高級牛肉である。以前出た『霜降り肉』と違ってこちらは赤身なので、これはこれで美味そうだ。もちろんラーニとカルマが小躍りしていたのは言うまでもない。
地下10階は『タイニーグランドドラゴン』という、翼のない四足歩行のドラゴンが出現する。これはBクラスボス『グランドドラゴン』の小型版だが、それでも全長20メートルを超えるものである。とはいえ、ブレスを俺が受け止めている間に前衛陣が首をスパスパと斬り落としてしまう。自慢のドラゴンの鱗も俺たちの前では紙同然である。
さて、10階のボスだが、現れたのは『ハイキマイラ』という、Bクラスダンジョンボスで出現した『キマイラ』の上位種であった。
ゾウくらいの大きさのライオンに、ドラゴンと山羊の首が追加され、尻尾が大蛇になっている姿だが、さらに蝙蝠の羽根が生えた上に、身体の一部が甲羅のようになっている。しかもその甲羅はミスリル製らしく青銀に輝いていて、見るからに防御力が高そうだ。
レアボスがいない代わりに数が4匹になっていてなかなかの迫力だが、場数を踏んだ俺たちを驚かせるほどではない。
「ソウシさん、2匹お願いしていいいでしょうか」
スフェーニアが珍しくそんなことを言ってくる。
「なにか気になることがあるのか?」
「いえ、多分普通に戦っても相手にはならないでしょう。今日はあと5階潜れると思いますので、ここは手間をかける必要はないと思います」
しれっと凄まじいことを言うが、それもそうかと思ってしまう俺も大概かもしれない。他のメンバーも賛同するふうなので、俺は前に出て行って『誘引』スキルを発動、襲い掛かってきた2匹をそれぞれ一撃ずつで粉砕した。
残り2匹は飛び上がって炎のブレスを連射してきたが、俺が2匹を倒している間に勝負は決していた。
宝箱は銀が四つ。うち2つは宝石とオリハルコン、残り二つは『ミスリルスピア+3』と『ミスリルグリーブ+2』だった。スピアは槍、グリーブは脛当てのことだが、いずれも俺たちには必要ないものなので売ることになるだろう。
ドロツィッテも、
「ミスリル製の『+2』『+3』の武具なんてそれだけでかなり貴重なんだけどね。本当に『ソールの導き』にいると感覚がおかしくなるね」
と、何度目になるかわからない呆れ顔をしていた。
なお、1匹は久々に『強奪』できそうな感覚があり、『強奪』スキルを使ったところ、『縛鎖の首輪』というチョーカーを得た。見た目はそのまま首輪であり、『金剛幹+2 金剛体+2』の効果が付いた強力なものである。
首輪側のアクセサリは以前ラーニとカルマが欲しがって、ラーニが勝ち取った経緯があり、今回はカルマのものとなった。なお、獣人族には首輪というのは婚約指輪のような意味合いがあるらしいのだが、
「これはソウシさんが着けておくれよ」
ということで、皆の見ている前で着けることとなった。正直カルマという美人に首輪をつけるという行為は、俺にとってあまりに抵抗が大きいのだが、獣人族ではむしろ重要な行為らしいので断ることもできなかった。
首輪をつけたカルマは頬を染めてニヤニヤと笑いだし、ラーニと肩を組んで妙に浮かれた状態になっていた。やはり見た目は気になるが、彼女らが喜んでいるから良しとするしかない。
細かいところですが、『タイタンボア』は、以前『ティタノボア』と表記していましたが、書籍に合わせて『タイタンボア』に改称しました。
『ケルベロス』も三つ首にしています。




