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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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24章 異界回廊 10

『精霊大社』で大巫女ミオナ様との対談を終えた俺は、そのまままっすぐ宿へと戻った。


 通りを歩いている時に思い出されるのは、託された国宝『招精の笛』のことと、俺の胸に残るミオナ様の手のひらの感触であった。


「ラーニの鼻を誤魔化すのは無理……だよな」


 半ば諦めてはいたが、宿に戻ってロビーで少し時間を潰していると、果たしてラーニが一人で俺の正面に座ってきた。


「ソウシさあ、そういうのはちょっと良くないと思うわよ?」


「なんの話だ?」


「それってミオナさんのニオイでしょ。しかも発情させてるし」


「させてる」というのは冤罪もいいところだが、やはり匂いでわかってしまったようだ。相変わらずラーニの鼻と勘の良さは恐ろしい。


「……ちょっと相談に乗ってもらえないか?」


「え、なに?」


 俺の反応が予想外だったのか、ラーニは少し驚いた顔をして椅子に座った。


 ミオナ様とのやりとりを、なるべく彼女に対して失礼にならないように簡単に説明する。


 ラーニは溜息をつきながら、納得したような顔でうなずいた。


「まあミオナさんがそうなっちゃうのもわからなくはないけどね。実はシズナもそうなるんじゃないかって言ってたんだよね」


「そうなのか?」


「ソウシって、オーズ国の上流階級の女から見るとかなり魅力があるんだってさ。まあ獣人族から見ても別の意味で魅力はあるけど」


 そう言って、ラーニは両肘を机について頬杖をつき、俺のことをじっと見てくる。


「でもソウシは、シズナのことはもらうつもりあるんだよね?」


「本人さえよければだけどな」


「ということはウチのパーティメンバーについてはもう全員確定だからいいよね。まあ本当はあんまり増やしてもらうのも困るんだけど、でもソウシだから仕方ないか」


「ソウシだから仕方ない」と言われると少し反論したい気持ちもなくはないが、しかし実際、拒まない俺の方に問題があると言われればその通りなのでなにも言えない。


 そもそも拒める相手なのかという問題もなくはないが、ミオナ様については向こうが身を引こうとしたのを止めたのは確かである。


 俺がなにも言えないでいると、ラーニはまた「はあ」と溜息をついた。


「わたしとかカルマは獣人族だから、ソウシくらい強い男だったら100人くらいお嫁さんをもらってもおかしくないとか思っちゃうけど、他のみんなは違うからほどほどにね。それはそれとして、もしミオナ様もってなると、オーズとメカリナン両方をくっつけて王様にでもなっちゃったほうがいいんじゃない?」


「なにを言ってるんだ」


「だってリューシャ女王にも手を出してるでしょ?」


「いや、そんな覚えはないが」


「ニオイでわかる……って言っても、ソウシが気付いてないだけの可能性もあるか。ソウシってそのあたり鈍いもんね」


 ラーニは呆れたような、なにか憐れむような目で顔で俺を見ると、「頑張ってね」とどう取ったらいいのかわからない言葉を残して部屋を出ていった。


 しかしリューシャ女王は確かに別れ際に妙な態度は取っていたが、あれは『依存』スキル発現の兆候ではなかったのだろうか。


 ラーニの嗅覚の正確さをよく知っているだけに、俺は急に重い悩みが2つ増えたことに頭を抱えるのであった。




 翌日、俺たちはミオナ様、セイナ、ほか多くの神官たちに見送られて、オーズ国を出発した。


 出発したといっても、『精霊大社』付属の倉庫に開いた『異界の門』へと入っていっただけであるが。


 出発時は特になにかあったわけではないが、心なしかミオナ様の俺を見る目に熱がこもっているように見える。


「ソウシ殿が戻って来ることを心よりお待ちしておりまする」


 という言葉は、オーズ国が『大いなる災い』の前線となることを考えれば当たり前の言葉であるが、俺の耳には別の意味に聞こえてしまう。


「必ず戻って参りますのでご安心ください」


 と答えた時見せたミオナ様の笑顔もいつもと違うように見えたが、きっと気のせいだろう。


 シズナが俺の方をじっと見ている気もするが、それも気のせいだと思いたい。


 それはともかく、『異界の門』をくぐった先の『異界』の様子はまったく変化はなく、相変わらず無辺の荒野が広がっているだけであった。


 空は紫がかっていて、ひび割れた大地だけでなく、メンバーの顔の色まで紫に染まってしまうのも相変わらずだ。


 まず向かう先は、アルマンド公爵領の鉱山につながっているはずの『異界の門』だ。


 場所は確認済み、印も途中まではつけてあるので、馬車をシズナの『精霊』に牽かせて一路そちらへ向かう。


「フレイ、なにか感じることはないか?」


 いつもの通り俺と相席になっているフレイニルに聞いてみる。『異界』で『悪魔』が再び生まれることはもうないだろうが、以前生まれていたものがまだ残っている可能性はある。


「いえ、なにも感じません。この『異界』も、以前に比べて嫌な気配が薄らいでいる気がいたします」


「ああ、言われてみれば、なんとなく感じていた嫌な雰囲気がなくなった気がするな」


「『悪魔』が消えたこと、そしてあの『造人器』に憑りついていたものが消えたのが大きいのではないでしょうか」


「かもしれないな。今後人が多く通ることを考えれば、さらに雰囲気は変わっていくかもしれない」


「そうですね。『異界』を通路として使うのであれば、道も整備しないとなりませんし」


「実際に使うとなったら、やらないとならないことは多いな」


『異界回廊』なんて意気込んでやろうとしているが、本格的に運用するとなったら大変なことになるだろう。


 もっとも各国が『異界回廊』を一般人まで通行可能にするかどうか、それすらまだ決まっているわけではない。今悩むのは気が早すぎるのも確かだ。


 さて、アルマンド公爵領へつながっているはずの『異界の門』までは、印となる杭を打ちながら移動して、体感で10時間ほどかかった。


 といっても『異界』は朝夜の変化がないので、その感覚はかなり曖昧である。


 本来なら一泊をする距離だが、俺たちが冒険者であること、そして馬車を牽くのが疲れを知らない『精霊』であることから一気に移動をしてしまった。


 そして今、目の前に人が一人通れるくらいの『異界の門』がある。確かアルマンド公爵領の鉱山に開いた『異界の門』は、地面に穴が開くような形で開いていたはずだが、目の前の穴は他の『異界の門』と同じように地面に垂直に開いている。


 実は事前に冒険者ギルド経由でアルマンド公爵領の『異界の門』の様子を聞いているのだが、向こうもいつの間にか地面に垂直に穴が移動をしていたらしい。どうやらそれが正しい(?)開き方なのだろう。


 ともかく棒を出し入れしても問題はなさそうなので、俺がまず『異界の門』をくぐってみる。


「おお……!」


 と声が聞こえてきたのは、出た先に10名を超える兵士がいたからだ。


 外は夕方に近い時間帯だったが、周囲を見ると見覚えのある、すり鉢状の鉱山の底だった。どうやら間違いなくアルマンド公爵領へと出たようだ。


「『ソールの導き』のオクノ侯爵でいらっしゃいますか?」


 と兵士の一人が聞いてくる。


「ええそうです。お務めお疲れ様です。すみませんがメンバーを呼びますね」


 メンバー全員が出てくると、兵士たちは驚いたような顔になった。


 美女美少女とさらには『黄昏の眷族』や女吸血鬼が11人も出てきたら普通はそうなるだろう。


 兵士たちは事前に連絡を聞いていたらしく、隊長格の男性が俺たちを鉱山の外まで案内してくれた。


 なお鉱山だが、『悪魔』によって壊された建物や柵は多少修復がなされていた。


 ただそれは兵士が駐屯するためのもので、鉱山として再び稼働させるためのものではないらしい。


 ここを鉱山として再稼働するかどうかは公爵の考え次第だが、もし『異界回廊』が使えるとなったら、この場所もまた違ったものになるだろう。



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