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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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24章 異界回廊 08

 オーズ国での3日間はあっという間に過ぎた。


 首都ガルオーズ観光や買い物、食べ歩きにダンジョン攻略と、かなり充実した3日間であったが、メンバーにとってはいい息抜きになったようだ。


 俺はマリシエールたちの服を選ぶのにだいぶ難儀をしたが、選んだものはそれぞれ気に入ってくれたようだ。


 なお買ったのは以前オーズ国に来た時と同じく、浴衣のような衣服であるが、半人半蛇のゲシューラに着せたところ、妙に似合っていて興味深かった。ゲシューラ本人はあまり肌を服などで覆うのを好まないのだが、


「この衣服は悪くない。デザインも『黄昏の庭』にはまったく見られないものだ。特にこの染色技術は見事だな」


 とまんざらでもない様子であった。


 なお、3日目はガルオーズのBクラスダンジョンに潜ったのだが、中ボスのドロップアイテムとして新たに『味噌』が出た。


 ちなみにグランドマスターのドロツィッテの話によると、『霜降り肉』や『石鹸』『シャンプー』、『醤油』、『ソース』などの新たなドロップアイテムは、大陸全土のダンジョンで確認ができるようになったそうだ。ただ全てのダンジョンが変化したわけでなく、またダンジョンによって特定のアイテムだけが追加されたなどのパターンもあるらしい。


 今のところDクラスダンジョン以上から新アイテムの出現が確認されているとのことで、いずれにしても俺とライラノーラの組み合わせによって、ダンジョンにも少なくない変化が訪れそうだ。


 それはともかく、ダンジョンから宿に戻った俺は、宿の主人に『味噌汁』を作ってもらえないか、無理にお願いをしてみた。


 老年にさしかかった主人から、「それならばオクノ様から料理人たちに説明をしていただけますか」と言われたので、取ったばかりの味噌を持って厨房に行き、味噌汁の作り方の説明をすることになった。


 料理人はいずれもプライドを持った人間たちに見えたが、相手が俺だとわかると嫌な顔一つせずに話を聞いてくれた。


 特に一番年かさの料理長が『味噌』を一口舐め、


「これは……なんと素晴らしく豊潤で奥深い味がする食べ物だろうか。確かにこの調味料を使えば、新たな味をひらくことができるでしょう。オクノ様はさきほど汁物を作って欲しいをおっしゃっていましたが、それ以外の料理もご存じなら教えていただけませんか」


 と俺の手を取ってくると、訝しがっていた他の料理人も次々と『味噌』を舐めてその虜になってしまった。さすが『神』謹製の『味噌』だが、このオーズ国がどことなく和風の国であることも、彼らが『味噌』を気に入る理由になりそうだ。


 ともかく『味噌』を使った料理を知っている限り伝えると、料理人たちはすぐにそれを再現してしまった。味見をするとあまりに美味く、さらに前世のころが思い出されて少し涙が出てしまうほどだった。


「オクノ様がお持ちになった材料で、さらにオクノ様の知恵によって作られた料理となれば、これは『精霊女王』様もきっとお気に召すに違いない」


 などとまで料理長が言い出したのには参ったが、止めるのもおかしな話かと思ってなにも言わないでおいた。そういえば味噌を神社に奉納するなんて話は日本にもあったはずだ。もっともダンジョン産のものを奉納するのはどうなんだという気もするが……。


 なおその後、夕食で『味噌』を使う料理がいくつか供された。メンバーの反応はそれぞれだったが、特にシズナとサクラヒメは一発で気に入ったようだ。


「ソウシ殿、この味噌汁は食べるととても気持ちが落ち着くのう。初めての味のはずじゃが、不思議なことがあるものだ」


「うむ、それがしもまったく同じ思いがする。なぜ初めていただく食べ物にこれほど心を動かされるのだろうか」


「多分オーズが俺の国と似ているからじゃないか。生活の中で味に対して似た感性ができ上っているんだろう。サクラヒメの領地でも、遠い時代にオーズから持ち込んだ土地独特の料理とかあるんじゃないか?」


「うむ、ザンザギル領には他の帝国領にはない料理はいくつもある。ソウシ殿の言われる通り、そのせいかもしれん」


 何度もうなずきながら、美味しそうに味噌を使った料理を口に運ぶサクラヒメ。


 この感じだと、オーズ国とザンザギル領では間違いなく『味噌』の需要は高まりそうだ。




 その翌日、『精霊大社』にて褒賞の儀が行われた。


 これは『悪魔』の発生源を止めたことに対するもので、事前にミオナ様とも確認をして、いくばくかの賞金と勲章をもらうに止めた。


 実は、以前シズナが口にしていた『精霊大将軍』なる地位につけるという話まで出たのだが、それは固辞した。


 というもの、今後『大いなる災い』とやらに対応した時に、『ソールの導き』はまた大きくなにかをしでかすことになるはずだからだ。自意識過剰と言われるかもしれないが、その時は『精霊大将軍』の話も受け入れないとならないだろう。


 褒賞の儀の後は『精霊大社』で祝宴も開かれたが、午後の早い時間にお開きになった。


 メンバーはそのまま宿に帰し、俺は大巫女のミオナ様から話があるとのことで1人執務室へと向かった。


「出発前の忙しい時に申し訳ありませぬ。しかしどうしてもお話をしておきたいことがございましてのう」


 俺が執務室に入ると、ミオナ様は立ち上がって頭を下げてきた。


「私自身は明日の出発まではすることがありませんから大丈夫です。しかし首都を見て回りましたが、早くも復興が進んでいるようで安心しました」


「すべてはソウシ殿たちのお陰でございまする。『悪魔』も現れなくなりましたゆえ、民も安心して生きていくことができるようになりましたしのう」


「しかしまだ安心はできません」


「そうですのう。『大いなる災い』は南から来るとのことですからの。今は兵を整え、冒険者も多く受け入れるようにはしておりまするが、不安は尽きぬものでございます」


 そんな話をしながら、俺とミオナ様は応接セットに腰を下ろす。


「首都の南側には砦などを築いたりしているのですか?」


「できることはすべて行っております。幸いと言っていいのかどうか、この首都ガルオーズより南には人が住む場所は少なく、この都自体がオーズ国の守りの要となりますゆえ」


「なるほど。しかしそれは心配になりますね。グランドマスターのドロツィッテがこちらに多く上位冒険者を移動させているようですから、十分に対応は可能と思いますが」


「ええ、それを願うのみでございまする。しかし驚きましたな、冒険者ギルドのグランドマスターまでも『ソールの導き』に引き入れられるとは」


 そう言って、ミスリルの扇子で口元を隠しながら笑うミオナ様は、大事を前にしてもどことなく余裕があるように感じられる。


『大いなる災い』の話があるせいか、実は『精霊大社』にいる他の神官たちはどこか思いつめたような表情をしている者も多かった。


 しかしミオナ様がそういうそぶりを見せたことは一度もない。それが上に立つ者として当然の態度なのだろうと思うが、その心構えには敬服するしかない。


「ドロツィッテについては私が引き入れたというより、向こうが押しかけたという面が強いのです。もっともそれが悪いということはなく、私としてもとても助かっておりますが」


「ほほほ。ソウシ殿の元へなら多くの女性にょしょうが集まるでしょうぞ。ゲシューラ殿でしたか、『黄昏の眷族』の女性までもが来るくらいでありますからのう」


「いや、彼女については私の元でないと生きづらいという理由がありまして……」


「いきさつはシズナから聞いておりまする。しかしかの女性も、シズナと《《同じ》》なのでありましょう?」


 扇子で口もとを隠しながら、ミオナ様は顔を横に向け意味深な流し目を向けてくる。その所作があまりに色っぽいので、俺は少しばかり言葉に詰まってしまった。


 しかもシズナと「同じ」というのは、つまり俺がゲシューラをめとるつもりがあるのだろうと、そう言っているのである。


 正直なところ、ゲシューラが俺に好意らしきものを持っているというのは感じていなくもない。種族的な壁もあるにはあるが、『黄昏の眷族』自体が様々な容姿を持った者たちの集まりで、ゲシューラによると容姿が多少異なっても「なんとかなる」のだそうだ。そうなるとあとは俺の側の心持ち次第ということになるのだが、ゲシューラが俺の元でなければ生きづらいというならまあ……というくらいの気持ちはある。


 という俺の考えを見抜いたように、ミオナ様は再び「ほほほ」と笑った。


「その分だと聞くまでもなさそうですのう。話をしていると、シズナもソウシ殿を心から慕っている様子。不肖の娘ではありますが、どうかよろしくお願いいたしまする」


 そう言って頭を下げられると、俺も頭を下げざるをえない。


「私に出来る限りのことをしてシズナ様は大切にいたします」


 などと答えるしかないのだが、俺の中で心が固まりつつあるせいか、以前より言葉がすんなり出てきてしまう。


 俺がはっきり口にしたことで安心をしたのか、ミオナ様はそこでニコリと微笑み、そして一度席を立った。

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