24章 異界回廊 02
その夜、リューシャ女王が内々の祝宴を開いてくれた。
今回俺たちが『異界』で行ったことは、結局こちらの世界では、『悪魔』たちの出現がなくなるという、一見地味な成果としてしか現れない。
もちろん『冥府の燭台』の存在を知る人間にとって、俺たちはある意味この世界を救った冒険者ということになる。だが、その実態を本当に知る者は俺たち以外いないという奇妙な状況でもあった。
だからこそ大っぴらに俺たちを称揚するわけにもいかないという話にもなるのだが、むしろそれは俺には都合がよかった。『ソールの導き』はやっていることが大きすぎて、これ以上各国に『貸し』を作るのも問題があるような状況なのである。
という話を宴の席ですると、まずマリシエールが困ったような表情をした。
「ソウシ様はとても難しいことをお考えになっているのですわね。たしかに『ソールの導き』の今回の働きは、正当に評価をすれば並ぶものがないどころか、各国の代表者が揃って頭を垂れるくらいの功績になります。その功績が、かえって自らを損なうのではないかとお考えになっているのですね」
「考えるだけ無駄な気もしているが、もとが小心者なのでどうしてもな。もはや俺みたいな人間では測りようもない話になっているのも理解はしているんだが」
「おっしゃることはわかりますわ。ですが、だからこその『わたくしたち』なのではありませんか?」
「ああ……まあ、そうなんだが」
散文的な話になるが、『ソールの導き』に各国の王族につながる女性がいるというのは、確かに《《そういう意味》》で安全弁になる。
「それに」
と、次に口を開いたのはドロツィッテだ。
「確かに『異界』についての出来事や、『冥府の燭台』の本当の危険性を理解できているのは私たちだけかもしれないが、私やマリシエールやフレイやシズナは、それぞれの国や組織の代表者でもある。その代表者が直接見聞きしているのだから、少なくとも各国の長が『ソールの導き』の功績を見間違うなんてことはありえないよ」
「そういう考え方もあるか」
「もっとも一般市民のレベルだと、今回なにが起きたのかはまったく知らされないで終わるだろうけどね。せいぜい『悪魔』発生の原因を『ソールの導き』がうまく処理した、くらいの話にしかならないだろう」
「俺個人としてはその方がありがたいけどな。皆には申し訳ないが……」
言おうとすると、横に座るフレイニルが言葉を被せてきた。
「いえソウシさま、私はいたずらに名誉を求めないソウシさまのお考えは素晴らしいと思います」
「まあ『黄昏の眷属』の大軍を追い返した時点で私たちは十分すぎる功績上げてるしね」
「それに、次の『大いなる災い』でも、ソウシさんや私たちはまたなにかを成し遂げることになるでしょうし」
ラーニとスフェーニアがそう続けると、リューシャ女王やミュエラも含めて皆うんうんとうなずいた。俺の勝手な考えにも同調してくれるのはありがたいが、その分彼女らが正当な評価を受けられないというのはリーダーとして気に留めておく必要があるだろう。
「ところでソウシ殿、明日からはどうするつもりなのでござるか?」
サクラヒメの質問に、皆の視線が俺に注がれる。
「今、例の『異界の門』を使った短絡路の設置について、ヴァーミリアン王国とアルデバロン帝国、それからオーズ国に問い合わせをしているところだ。2、3日で返答が来ると思うが、それによって動きを決めようと思う」
「つまり、各国の許可が下りれば、『異界の門』を設置しに各国を回るということでござるな?」
「そうなる。考えているのは、まずオーズ国へと行って『異界の門』を設置、そこから『異界』を通ってアルマンド公爵領へ行き、そこから王都に向かって、王都でAランクの魔石を集め、許可が下りれば王都周辺にも『異界の門』を設置、さらに北上して帝国へ入って帝都へ向かう感じだな」
「なるほど。最終的には帝国から直接メカリナンに戻る感じになるのでござろうか」
「『大いなる災い』が南から来るということだから、メカリナンかオーズかということになるだろう。それは状況次第だな」
行く先を確認できて皆納得したのか、俺たちはしばし料理に向かった。
その後のドロツィッテやマリアネの話で、メカリナンのダンジョンでは『霜降り肉』『醤油』『ソース』など、俺の前世の知識とライラノーラの相乗効果で新たに取得できるようになったドロップアイテムが、他の冒険者でも取得できることを聞かされた。
しかもBクラスダンジョンだけでなく、他のダンジョンでも取れるようになったということで、この大陸のダンジョン全体に影響を与える可能性もあるらしい。
ともかくも、今回の料理にはそういった食材も使われていて、自分としては少し懐かしさを覚える味が増えていた。とはいえこちらの世界の元の料理もそれはそれで美味しいので多少複雑な心境ではある。
「そういえばドロツィッテ、新しく取れるようになった『醤油』などギルドでの買取りとか値付けはどうなるんだ?」
「今のところ類似品に近い値段で買い取るようにしてるね。調味料ならダンジョン産の塩と同等、とかね。ただ『石鹸』とか、今までダンジョンで類似品がでなかったものは難しいかな。一応これくらいの値段で流通するだろう、という値段で買い取ってるけど、実際流通を始めたら大きく値段は変わるかもしれないね」
「あの『石鹸』は使ってみましたが、たぶん貴族の女性が全員欲しがると思います。取れる量によっては一時的に値段は高騰すると思いますよ」
とリューシャ女王が言うと、ミュエラも隣で「あれは貴族女性の必携の品となるでしょう」と付け加えた。
「そうなると、ヘアケア関係の美容品などが出たらさらに大変なことになりそうだな」
とつい口を滑らせてしまうと、ほぼ全員の目が輝いた……というより、獲物を狙うそれに変わってしまった。
「それはどのようなものなのでしょうか?」
普段無表情なマリアネの目の力がやけに強く、俺は少したじろぎつつも答えた。
「ああ、まあ、髪の毛を美しく整えたりする薬剤、だな。俺の国ではそういうものがあったんだ。こっちでも髪に油をつけるだろう?」
「そうですね。ですがソウシさんの国のものだとよりいいものなのでしょう。それは是非手に入れたいものです」
「ダンジョン次第だな」
「じゃあ明日はダンジョンに行くかい? もしかしたらソウシさんの知ってる美味い酒も出るかもしれないしさ」
カルマのその言葉で、どうやら休みにしようと思っていた明日もダンジョン行きとなりそうだ。
まあ『異界の扉』を開くために魔石も必要なので、ダンジョンに入ること自体はいいのだが、やはり『ソールの導き』に休むという言葉はないらしい。
せめて狙ったものがお宝で出てくれるといいのだが。




