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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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23章 異界と冥府の迷い姫 16

 足にダメージを受け、体勢をわずかに崩した『悪魔アンデッド』。


 だがさらに攻撃を加えようとする前衛陣を、甲羅の外周に並ぶ無数の腕が邪魔するようになった。


 近づこうとすると、即座に複数の鋭いパンチが飛んでくる。しかもその拳は赤、青、黄、緑の光をそれぞれまとっており、魔法属性が付与されているようだ。


「これは厄介ですね。先にこの腕を斬り落としていくしかありませんわ」


 そう言うのは、銀髪をなびかせ空を舞う女吸血鬼ライラノーラだ。『装血術』により作り出した翼を背に、さらに二本の赤い鎌状の武器を作り出して、『悪魔アンデッド』の腕を斬り落としにかかる。


 腕の骨は足ほどの硬さはないようで、ライラノーラだけでなく、ラーニの斬撃などでも斬り落とせるらしい。ただ斬り落とされた直後から腕が再生していくのも見えている。


 先ほどカルマに斬り落とされた足も、すねの先が徐々に盛り上がってきているようだ。


『クヒャヒャッ! そのような攻撃はいくら繰り返そうとも無駄だ。そうら、また魔法がゆくぞ』


 耳障りなイスナーニの声と共に、甲羅上面に並ぶ顔が口を開いた。再び射出される、紫の光を伴った黒い球体。


 俺は走る途中で『吸引スキル』を全開にして、『不動不倒の城壁』で受け止める。凄まじい衝撃と共に後ろに数メートル押し戻されるが、攻撃が止まったところで再び前に走っていく。


 後衛陣から2回目の魔法射撃が行われ、甲羅上面の顔を数十吹き飛ばした。顔の再生速度を見る限りこちらの攻撃力の方が勝っている様子はある。


 前衛陣は腕を斬り落とす者と、足を攻撃する者に分かれて攻撃を始めた。このあたりの連携はもう俺が指示する必要もない。


 俺はようやく『悪魔アンデッド』の足の近くまで辿りついた。周囲の腕が一斉に殴り掛かり、掴み掛かってくるが、『圧潰波』の一撃でまとめて吹き飛ばす。


『まったくふざけた力ですね、オクノ侯爵』


 サラーサがそう言うと同時に、目の前にあった足が大きく振り上げられた。どうやら俺を踏み潰すつもりらしい。


「学ばないな」


 頭上から迫る巨大な足裏。俺はそれに、振りかぶっていた『万物を均すもの』を叩きつけた。


 瞬間的に最大速度に達した黄金の槌頭は、俺が持つ複数のスキルによってそのエネルギーを数十倍数百倍にまで増加させる。俺を踏み潰すつもりだった『悪魔アンデッド』の足は一撃で膝のあたりまでが爆散し、さらにその衝撃は太ももまでも伝播していき足を完全に破壊した。わずかに揺らぐ『悪魔アンデッド』の巨体。


『なんという破壊力かのぅ~。やはり侮ってはいかんのぅ、オクノ侯爵は』


『ならば攻撃をさせねばよいだけよ。クヒャッ!』


 俺が次の足の元に向かおうとすると、イスナーニの顔が口を開いた。そこから発せられたのは、巨大な黒い火球である。イスナーニと初めて対面した時に、似た魔法を使ってきたのを思い出す。


 だが今俺に向けて放たれているそれは、大きさが桁違いであった。その威力は以って知るべしだろう。


 俺は咄嗟とっさに『不動不倒の城壁』を構えて受け止める。が、その火球はまるでそれ自体が恐ろしいほどの質量を持っているかのように俺を押し潰そうとしてくる。


「ぬう……ああッ!」


 だがそれでも俺を圧するほどではない。膝を付きかけたところから一気に『不動不倒の城壁』を押し上げると、黒い火球は自らの威力と盾の圧に挟まれて、弾けるように爆発を起こした。


 その威力はそれなりに強力だったが、至近距離に放つ攻撃だったためか爆発自体はそこまで広がらず、他のメンバーにダメージが及ぶほどではなかった。俺自身も過剰な耐魔法スキルと鎧『神嶺の頂』のおかげで、多少の火傷以外のダメージはない。


『クヒョッ! 我が「闇星」ですらほとんど傷も負わぬとは、なんと頑丈な男よ』


『しかし足止めはできているようですね。ふふっ、その間に我々の身体は再生してしまいますよ、オクノ侯爵』


 俺が吹き飛ばした足が、根元から盛り上がるようにして再生していっているのが見えた。再生スピードは絶望するほどではないが、足止めがしつこいと面倒なことになりそうだ。


 だが戦っているのは俺だけではない。


 後衛陣は3発目の魔法斉射を行った。甲羅に並ぶ顔は確実に数を減らしている。その証拠に、直後に放たれた黒い光球の数は最初の四分の三ほどになっている。


 前衛陣は連携に慣れ始め、動きが洗練されてきている。そして今まさに、ラーニの援護を受けて、カルマの一撃が一本の足を切断したところだ。


 ライラノーラとマリシエールが援護に回っているほうは、サクラヒメが凄まじいまでの連続攻撃で足の骨を削り切って切断していた。


 これで『悪魔アンデッド』は足を四本失ったことになる。ただ最初にカルマが斬り落とした足はもう少しで元に戻りそうであった。こちらは俺が働かないと千日手になりそうな予感がある。


 俺はすぐに次の足を潰しに向かうが、再度人面たちが魔法を放ったのでその対応をするために足を止めざるを得なかった。さらにイスナーニが再度『闇星』なる魔法を放ってきて押し戻される。


 そうしている間に、再度後衛陣の魔法斉射、そしてカルマとサクラヒメがさらに一本ずつの足を切断した。


 だがその間に2本の足が再生を完了していた。前衛陣も多くの腕の激しい打撃攻撃の前に、完全に無傷ではない。そちらは機を見てフレイニルが回復をしているが、その分フレイニルがそれ以外の動きを取れないのが厄介だ。


「ソウシさま、私も攻撃に参加したほうがいいと思います!」


 後ろでフレイニルがそう叫ぶ。確かに『悪魔アンデッド』がアンデッドである以上、フレイニルの魔法が効く可能性は高い。


 サラーサの『影獄』を警戒してフレイニルを回復に回していたが、作戦を変えてもいいかもしれない。


「そうだな。フレイは『神霊魔法』を、シズナは回復に回ってくれ!」


「はいソウシさま」


「了解じゃ。回復はわらわに任せるのじゃ」


 フレイニルとシズナが返事を聞いて、俺は頭上に『圧潰波』を放った。


 丁度イスナーニが三発目の『闇星』を放ったところだったのだ。不可視の力の波は巨大な黒い球体を圧し潰し、その場で強烈な爆発を生じさせた。


 その衝撃で『悪魔アンデッド』の巨体が揺らぎ、イスナーニらの頭部を大きくのけぞった。最初からこうしていれば良かったな。


「行きます、『神の戒め』!」


 フレイニルの掛け声と同時に、『悪魔アンデッド』の甲羅の中央部に、純白の光の柱が突き刺さった。フレイニル最強の対アンデッド攻撃魔法『神の戒め』だが、その強烈さは以前より格段に増しているように見えた。


『クヒョォッ!? なんと恐るべき魔法か!?』


『グググッ、やはり聖女は危険ですね……!』


『ムギギギッ、あのお嬢ちゃんはよろしくないのぅ~』


 その一撃で『悪魔アンデッド』の巨体がさらに大きく揺らいだ。甲羅に並んだ人面も数十が消滅し、しかも全体の動きが一瞬止まったようだ。


 その隙に前衛組がさらに足を2本切断、俺も1本を粉砕した。


 過半数の足を失った『悪魔アンデッド』はグラリと斜めに体勢を崩すと、その巨大な甲羅の一方を地面に墜落させた。


 凄まじい大音声が響き、地震が起きたかのように床が激しく揺れる。


「ソウシ、チャンスだよ!」


「ああ!」


 ラーニの声に答え、俺は『悪魔アンデッド』の甲羅へと肉薄した。


 無数の腕が殴りかかり掴みかかってくるが、『圧潰波』の一撃ですべて吹き飛ばす。


『クヒョッ! これはうまくないな』


「もう遅い! おおッ!!」


 俺は大上段に振り上げた『万物を均すもの』を、甲羅の横っ面に渾身の力で叩きつけた。


 上限に達した各種物理攻撃強化スキル群によって凄まじい破壊力を上乗せされた黄金の槌頭が灰色の甲羅にめり込んだ。


 瞬間、その部分から波が広がるように、甲羅の表面が同心円状に崩壊していく。その破壊の波は甲羅の3割ほどを完全に粉砕し、灰色の破片とピンク色の肉片と、そして赤い飛沫が爆発したように周囲に飛び散った。


「思ったより強いな。半分は砕けると思ったが」


『ムギィッ!? なんたる威力か。これが偽りの生命が出せる力だとは到底信じられぬのぅ~。ここは少し時間を稼がせてもらおうかのぅ』


『これ以上はやらせられませんね。使うならここですか、「影獄」!』


 俺がもう一撃、と踏み込もうとしたところで、サラーサの頭部が口を開き、周囲におびただしい量の黒い炎の球を撒き散らし始めた。

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