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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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23章 異界と冥府の迷い姫 11

『造人器』中枢へと続く扉。


 その向こうは広大な空間になっていた。


 天井は空のように高く、一面がぼんやりと光っていてこの空間を明るく照らしている。


 出てきた扉の左右を見ると、壁がわずかに内側に湾曲しながらはるか奥まで続いている。しかもその壁には、俺たちがくぐって来たのと同じ巨大扉が一定間隔で並んでいた。


 もしかしたらこの空間は巨大な円形になっていて、あの長い通路がこの部屋を中心に放射状に広がっているのかもしれない。


 部屋の奥――もしこの部屋が円形であるならその中心方向――には、太い柱が天井に向かってそびえているのが見える。すべてが銀色で、時折赤い光が奇妙な模様を描いて走っているその造形は、見るからにこの施設の『中枢』であるという雰囲気を漂わせていた。


「おほ~、これはまた凄まじい数の『悪魔』が揃っておるのう」


 シズナがそう漏らすが、確かに『中枢』の手前にはおびただしい数の『悪魔』が蠢いていた。


 小型の六本足のものはもはや数えることができないほどだ。


 三つ頭に八本足の巨大クモ型は20体以上、円筒形の身体に巨大な頭と無数の足がついた暴走悪魔も同数ほど、ケンタウロス型の上位悪魔も10体以上いる。


 さらには巨大な頭にツチノコみたいな身体、首の周りには10本の腕が生え、全身鱗のように顔が並んでいる超巨大悪魔までが3体も揃っていて、もはやこの『異界』の悪魔がすべてここに集まっていると思えるほどだ。


 さらにその『悪魔』たちの前には2体の人型『悪魔』の姿が見える。


 先に戦ったワーヒドゥと同じ『悪魔』であり、間違いなく『冥府の燭台』の幹部『三燭』が身体を得たものだろう。


「まあこれくらいなら楽勝よね。ソウシがいればだけど」


「普通に冒険者10人くらいで相手にできる数じゃないねえ。でも例の『大いなる災い』とやらの準備運動には丁度よさそうじゃないか」


 ラーニとカルマが剣を抜きながらうそぶくが、さすがにその表情は多少固くなっている。


 しかし全員の様子を見ても、気後れしているようなメンバーはいなかった。フレイニルですら、しっかりと『悪魔』たちを睨みつけるように前を向いている。


 さて、無数の『悪魔』たちだが、俺たちが近づくのを待ち受けているようで、こちらを向いたまま動きを見せようとしなかった。


 視線を悪魔たちに向けたまま、フレイニルが俺の横に並んでくる。


「私たちを待っているようですね」


「そうだな。俺たちの動きは察知されていたようだ」


「ですがそれなら、全部の『悪魔』たちがここにいることになるのでしょうか」


「下手に表の世界に出られても困るからな、それならありがたい」


 俺の言葉をどうとったのか、フレイニルは微かに笑みを浮かべた。


「このような時まで皆のことを考えるソウシさまはご立派だと思います」


「そんな偉そうな話じゃないさ。さて、じゃあ行くか」


 俺が歩き始めると、皆がその後ろに続いた。


 しかしこの部屋は恐ろしく広い。悪魔たちの最前列まで、500メートルはあるだろうか。そこから奥の銀の柱『中枢』まではさらに1キロくらいありそうだ。


 最前列に立つ人型の『悪魔』まで、あと100メートルほど。


 そこで2体の人型は、滑るような動きでこちらに近づいてきて、10メートルほど手前で停止した。


 無表情な灰色の顔、ピンク色で樽型の身体に細長い手足という体形はワーヒドゥと同じである。そいつらは身体を震わせたかと思うと、口を笑いの形に変形させ、そして右の奴がまずしゃべり始めた。


『クヒィ……ッ、マサカココマデ追ッテ来ルトハナ。オクノ侯爵ハ随分ト執念深イト見エル』


「その話し方はイスナーニだな。そんな姿になることがお前たちの願いだったのか」


『ナニヲ言ウカ。コレコソ正シキ人間ノ姿。「冥府ノ迷イ姫」様ニ頂イタ原初ノ人間ノ姿デアルゾ』


「『冥府の迷い姫』は俺たちもさっき会ったが、彼女はお前たちのような者を作ることは望んでいなかったがな」


『クヒョヒョッ! コノ期ニ及ンデツマラヌ事ヲ言ウモノダ。「冥府ノ迷イ姫」様ハアチラニオラレル』


 イスナーニが指さしたのは、奥に見える銀の柱だった。よく見ると、その柱の地上100メートルくらいの側面に、女性が張り付いているのが見えた。手足の先が柱の中に埋まったように一体化していて、柱に縛り付けられているようにも見える。


「スフェーニア、見えるか?」


「ええ、確かに女性が柱にくくりつけられていますね。眠ったように動いていませんが、確かにライラノーラさんにそっくりです」


「『拘束された』と言っていたのはあれが理由か。ライラノーラはなにかわかるか?」


「あそこにいるのがわたくしと同じ存在であるのは確かでしょう。かすかですが、あの『中枢』を破壊するようにわたくしに伝えてきておりますわ」


 俺に呼ばれて、ライラノーラが前に出てきた。


 その姿を見て動揺をしたのはイスナーニと、もう一体の人型悪魔だった。


『ソノオ姿……ナゼ「冥府ノ迷イ姫」様ガモウ一人イラッシャルノデスカ!?』


 話し方でこちらは『三燭』の一人サラーサとわかる。死ぬときに復活を予言していたが、そちらも無事に果たされたようだ。


「わたくしはライラノーラ、あちらの『冥府の迷い姫』とは別の存在ですわ。ただし、同じ『神』から作り出されたものではありますが」


『同ジ「神」カラ作リ出サレタモノ……。ソノヨウナ話ハ聞イタコトガアリマセン』


「そうでしょうね。わたくしもこちらのソウシ様に語ったのが初めてになりますので」


『シカシ、ソレナラバ貴女モ「冥府ノ迷イ姫」ト同ジ、神ニ連ナルモノデハナイノデスカ?』


「わたくしたちはそのように大したものではありません。あくまで『神』の小間使い、『神』が作った道具にも等しい存在ですわ」


『ナニヲ言ッテ……』


『ヨセ、サラーサ。ソヤツガ「冥府ノ迷イ姫」様ト同ジナド、タダノ戯言デアロウ。見レバ大シタ力モナイ様子。ムシロ「冥府ノ迷イ姫」ガ己ニ似セテ作ッタ偽物ト考エルベキダ』


 イスナーニがサラーサを遮るが、その言葉から『冥府の燭台』が、『冥府の迷い姫』を『神』と同一視していることが感じられた。


 しかも彼らはたぶん『冥府の迷い姫』を宗教的な神とも同一視しているはずだ。なぜならライラノーラが語った『この世界に後からやってきた神』という概念は、この世界には存在しないからである。


 とすればイスナーニたち『冥府の燭台』は、『冥府の迷い姫』を創造神のように思い込んでいるのだろう。

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