23章 異界と冥府の迷い姫 09
『異界』を調査する俺たち『ソールの導き』は、『悪魔』を作り出す『根源』の流れを追い、ついに巨大な塔がそびえたつ場所へとたどり着いた。
塔の下部は岩山になっていたため、まずは入口を探すことにした俺たちだが、そこで奇妙な現象に遭遇する。
それは岩山の壁面が変形して、人の顔が現れるというもの。しかもその風貌は『彷徨する迷宮』の主、ライラノーラによく似ていた。
俺たちが固唾を吞んで見守っていると、壁面に現れた人面は、唇を動かしてしゃべり始めた。
『――そちらに、わたくしと同じ波動を感じます。もしや『太古の摂理』によって生み出された者でしょうか?』
人面には瞳がなかったが、その目がライラノーラを見ているのはなぜか理解できた。
全員の視線を受けながら、ライラノーラが人面の前に進み出る。
「ええ、わたくしはライラノーラ。『太古の摂理』によって生み出された存在ですわ」
『貴女はなんのためにこの『異界』へと足を踏み入れたのでしょうか?』
「こちらで作り出されている『人間』の生成を止めるためですわ」
ライラノーラが『悪魔』を『人間』と呼んだのは、『悪魔』がもとは『人間』として造られていたからだろう。もしこの壁面の顔が俺たちの考える通りの存在なら、そう呼ばないと齟齬を生みかねない。
その答えに、壁の顔はわずかに目を見開いた。
『それはとても望ましい答えです。わたくしはこの『異界』全体を管理するもの。今こちらを占拠している者たちには、「冥府の迷い姫」と呼ばれております』
「そうでしたか。貴方に接触できたことは、わたくしたちとしてもとても好都合なことですわ」
そう応じながら、俺に目配せしてくるライラノーラ。
まさかこんな形で『冥府の迷い姫』と接触できるとは思っていなかったが、当然ここは色々と交渉をするべきところだろう。
「横から口を出して申し訳ありません。私はソウシ・オクノと申します。こちらのライラノーラと契約をしている人間です。お話をさせていただいてよろしいでしょうか?」
俺が声を掛けると、人面――『冥府の迷い姫』は、顔を微妙にこちらに向けた。
『貴方は……とても強大な力を感じますね。「神」の恩寵を極めて強く受けた存在……。話を聞きましょう』
「貴方はこの『異界』を管理しているとおっしゃっていましたが、現在『悪魔』……ではなく、『人間』の生成を多く行っているのは貴方の意思によるものではないのですね?」
『はい。現在「造人器」が稼働しているのは、「造人器」がわたくしの管理を離れてしまったことが理由です』
どうやら『造人器』というのが『悪魔生成装置』の正式名称らしい。正直人間の立場で聞くと、『悪魔生成装置』よりも不気味な響きがある。
「貴方はその『造人器』を止めることはできないのですか?」
『はい。「造人器」は現在、わたくしの管理を完全に拒否しています。その稼働を止めることはできません』
「『造人器』がそうなった理由はわかっているのでしょうか?」
『簡単に言えば、「造人器」が暴走を始めてしまったのです。力ある「根源」が多く集まりすぎた結果、その「根源」の一部が「造人器」の中枢部に入り込み、「造人器」を再稼働させたのです。さらに元の管理者である私を拘束し、「造人器」を操れないようにしたのです」
「なるほど。ところで先ほどライラノーラに対して『望ましい答え』とおっしゃっていましたが、貴方もその『造人器』を止めたいと考えているのですか?」
『もちろんです。わたくしを作り出した者は、わたくしにこの「異界」の管理を命じました。その命令の中には、「造人器」の永遠の停止も含まれています』
「では私たちは協力し合えると思います。『造人器』を停止させるにはどうしたらよいかお教えいただけますか」
『「造人器」の中枢に入り込んだ「根源」を、本来還るべきところへ送っていただければ、わたくしが「造人器」を止めることができるようになります。方法はただ一つ、「造人器」の中枢を破壊してください。そうすれば、「根源」は行き場を失い自然と本来還るべきところへ還ります』
「破壊してよろしいのですね」
『ええ。破壊しても「造人器」はいずれ再生しますので。ただし中枢までは、多くの「人間」がひしめいております。その中には、極めて強い力を持つ「根源」から作られた者もいます。ご注意ください』
そう言うと、壁の人面はすうっと上に移動した。
すると今まで人面があった壁面が奥へと引っ込んでいき、人が通れるくらいの通路が出現した。
『こちらから「造人器」の中へと入れます。内部は空間が拡張されていて非常に広くなっておりますが、奥へと進めば必ず中枢へと至ります。どうかよろしくお願いいたします』
こうあっさりと『冥府の迷い姫』に会えるとは思っていなかったが、これも『天運』の導きだろうか。
とはいえこの先強力な『悪魔』や『冥府の燭台』が待ち構えていると考えると、単純に幸運だと片づけられる話でもない。
しかし俺たちの目的がこの『造人器』の中にある以上、進むしか選択肢はない。
振り返ってメンバーを見ると、不安そうな表情を浮かべている者はいない。むしろラーニやシズナ、ドロツィッテなどは早く入りたくてウズウズしているようだ。
ライラノーラに目を向けると、彼女は微笑みながらうなずいた。『冥府の迷い姫』の言葉が信用できると知らせているのだろう。
「では中に入ろうと思うが、準備はいいか?」
確認すると、皆は一斉にうなずいた。
俺は入口へと向き直り、そして中へと足を踏み入れた。
【『おっさん異世界最強』コミカライズ1巻発売のお知らせ】
11月21日に『おっさん異世界最強』コミカライズ1巻が発売になっております。
コミカライズのお約束(?)として、巻末にSSもございます。
是非ともよろしくお願いいたします。
【『勇者先生』5巻発売のお知らせ】
11月25日、『勇者先生』5巻が発売となりました。
アメリカンな転校生レアが目立つ表紙が目印です。
イラストレーターの竹花ノート様のイラストがいつも以上に美しい一冊ですので是非よろしくお願いいたしいます。




