表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

410/411

23章 異界と冥府の迷い姫 07

 人型の『悪魔』であるワーヒドゥが呼び出した、7体の『悪魔』アンデッド。


 巨大な球体の上部に灰色の人面が並ぶその姿は、以前遭遇した『リッチレギオン』にも似ていた。 


「まずはあれを叩き潰さないとな。フレイニル、もしあれがアンデッドであればフレイニルの魔法が有効なはずだ」


「はいソウシさま。『神の審判』を使ってみます」


 フレイニルが精神集中の後、『聖女の祈り』を頭上に掲げて魔法を発動する。


 すると天から光の柱が一本さしこみ、リッチレギオン型『悪魔』一体を包み込んだ。


 ヒアアアアァァァッ!?


 背筋を寒くするような耳障りな声が響き、そのリッチレギオン型『悪魔』は光の中で塵になって消えていった。やはりあれはアンデッドということらしい。


 問題は、あれがリッチレギオンと同等の力を持っているなら、凄まじい魔法攻撃を仕掛けてくるだろうということだ。投射系の魔法ならともかく、範囲系の魔法だと後衛陣を守り切れない。だがその対策はすでにパーティ内で考えてあった。


「シズナ、『精霊』を動物型にしてくれ。そして全員その背に乗るんだ。範囲系の魔法が来たらそれで逃げてくれ」


「うむ、了解じゃ! 皆、『精霊』様の上に乗るのじゃ」


 シズナが祈りを捧げると、8体の岩人形はすぐに四足歩行の獣型に変化した。背中部分が鞍のような形状になっているのはシズナがそう頼んだからか。


 フレイニル、スフェーニア、シズナ、ドロツィッテ、ゲシューラはそれぞれ近くの『精霊』に飛び乗った。ちなみにゲシューラは『精霊』の胴体に尻尾を巻き付けて自分を固定している。


 キィエエエェェェ!!


 再び不気味な叫び声が響き渡り、リッチレギオン型『悪魔』の前面から、数千はあるだろう魔法の槍が発射された。


 空を覆いつくすほどの炎や氷や岩の槍が、放物線を描いてこちらに迫ってくる。


 その軌道を、俺は『吸引』スキルで強引に変えさせた。そして『万物を均すもの』を振り回し『圧潰波』の幕を作り出せば、ほとんどの魔法の槍は粉微塵になって消えていく。


 その間にフレイニルが2発目の『神の審判』を発動すると、さらに一体のリッチレギオン型『悪魔』が悲鳴とともに消滅した。


「範囲魔法です! 皆散ってください!」


 スフェーニアの叫びに呼応するように、周囲の地面一帯に、直径5メートルほどの魔法陣が次々と浮かび上がってくる。その数30はあるだろうか。


 フレイニルたちを乗せた『精霊』がバラバラに散って魔法陣の範囲外へと駆けてゆく。


 装備の大きさなどの関係で『精霊』に乗れない俺は自分の足で逃げるしかない。『不動不倒の城壁』を前に構え、前方の『悪魔』の群れに向けて全力で走り出す。


 俺の後方で凄まじいまでの大音声が響き渡った。ちらと後ろを見ると、火柱が上がり竜巻が起こり吹雪が吹き荒れ溶岩が吹き上がったりと世界の終りのような光景がそこにあった。リッチレギオン型『悪魔』の範囲魔法は一帯を自然災害の如くに破壊しつくしている。


 幸いそれに巻き込まれた者はいなかった。いや、俺は結局避け切れずに巻き込まれたのだが、全身を覆う黄金の鎧『神嶺の頂』と各種耐性スキルが、ほぼ完全にダメージをシャットアウトしてくれた。


 正面には小型大型合わせて300匹の『悪魔』が残っていた。だが俺が突っ込んでいくと、そいつらは怯んで逃げる気配を見せた。俺は奴らが動くより先に『圧潰波』を放って、新たに数十体の『悪魔』を押しつぶして粉砕してやった。


『ナントイウ化物ナノカノォ、オクノ侯爵ハ。コレハ儂ダケデハ手ニハ余ルカモ知レンノゥ』


 奥の方でワーヒドゥの間延びした声が聞こえた。


 フレイニルの3発目の『神の審判』が3体目のリッチレギオン型『悪魔』を、スフェーニアたちの魔法の槍の集中攻撃が4体目のリッチレギオン型『悪魔』を消滅させる。残り3体は再度範囲魔法を放ったようだが、残念ながら俺以外のメンバーを捉えることはかなわない。唯一避けきれない俺もほぼノーダメージで済んでしまうので、もはや木偶でくと同じである。


「ソウシ、ワーヒドゥをやっちゃうね!」


 左右両翼の『悪魔』たちを平らげたラーニ達が、正面の『悪魔』を左右から次々と斬り捨て始めた。


 ラーニとマリアネが凄まじいスピードで走っていき、一番奥にいるワーヒドゥに斬りかかっていく。


『野蛮ナ肉弾戦ハ好マヌノジャガナァ』


 ワーヒドゥは再度アンデッドを召喚しようとしてか、腕を左右に広げて妙な構えをとっていた。

 

 が、ラーニの斬撃とマリアネのひょうの投擲を回避するために、恐ろしく機敏な動きで後ろに下がった。


『クギィッ!!』


 不気味な叫びとともに、ワーヒドゥが広げた両腕を振って前方で交差させた。その手の先から、赤黒い三日月の刃が無数に放たれる。見たことのない技だが、その危険度は見るだけでわかる。


 だがラーニは『空間跳び』スキルの瞬間移動で躱し、マリアネは『予知』スキルを使っているのだろう、刃の飛ぶルートをすべて知っているような動きでその間を抜けた。


『ナントイウ奴ラカ! オクノ侯爵ノパーティハ怪物揃イナノジャナァ!』


「怪物はアンタでしょ!」


 ラーニが『紫狼』で斬り付ける。ワーヒドゥはその腕で刃を受け止め払いのける。その瞬間鳴り響くのは破裂するような金属音だ。


「硬っ! なんなのコイツ!」 


 大型『悪魔』の表皮すら切り裂くラーニの一撃を耐えるのは大した防御力だ。だが無傷でもないらしく、ワーヒドゥの腕には浅く傷がついている。


「休まず攻めましょう!」


 ワーヒドゥの背後を取り、その延髄を『龍尾断ち』で斬るマリアネ。急所のはずだがやはり響くのは金属音。


『ムギィッ!』


 ワーヒドゥは振り向きざまに手刀を放つが、マリアネはすでにそこにはない。代わりに鏢がワーヒドゥの胸に当たって凄まじい音を立てる。マリアネの放つ鏢は音速を超え、他のスキルの恩恵もあってその威力は大口径のライフル弾以上のものがあるはずだ。だがそれでもワーヒドゥの表皮は貫けない。


 さらにリッチレギオン型『悪魔』2体が魔法によって消滅し、残りの2体も時間の問題となった。『精霊』に乗った後衛陣がリッチレギオン型『悪魔』の魔法を食らうことはないだろう。


 正面の『悪魔』たちもマリシエールたちによってすでに全滅寸前だ。俺は全力ダッシュに切り替えて『悪魔』たちの真ん中を突っ走り、立ちふさがる『悪魔』は体当たりで粉砕しながらワーヒドゥへ距離を詰めていく。


 ラーニ、マリアネ組とワーヒドゥは依然として2対1の接近戦を繰り広げている。


 2人の機動力と多彩な攻撃は目を見張る、というより目で追うのすら不可能なくらいだが、それを受けているワーヒドゥの反応スピードも並ではない。ワーヒドゥが突き出す手刀や、時折四方に飛ばす赤黒い刃は時としてラーニ達をかすめる時もあり、互いに小さな傷が増えている状態だ。


 ただその均衡が崩れるのは時間の問題だった。それはワーヒドゥの身体に、マリアネの攻撃がすでに十以上刻まれているからだ。逆に言うと、それほどの攻撃を受けても『状態異常付与』が効いていないわけだが、しかしいつかは限界が来るはずだ。


 そしてその限界は唐突に訪れた。


『ギイッ!? 身体ガ動カヌッ!?』


『麻痺』か『行動停止』か。ワーヒドゥの動きが完全に止まった。


 それを狙ってラーニが『魔法剣』で斬りつけるが、首をわずかに切り裂くにとどまった。


「ああもう! 結局ソウシに取られちゃう」


「ソウシさん、お願いします」


「任せてくれ」


 俺は『万物を均すもの』を大上段に振りかぶり、ワーヒドゥの脳天に狙いを定めた。


『ギキキッ! マタ会ウ時ヲ楽シミニシテオクカノゥ』


 ワーヒドゥの笑い顔は、黄金の槌頭が触れた瞬間液体のように歪んで弾け飛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ