22章 異界の門への道標 26
男同士の飲み会の翌朝。
俺は少し寝坊をすることを許してもらい、その日パーティメンバーと顔を合わせたのは昼食の時だった。
「昨日は随分と遅くまで飲んでたんだねえ。男同士でそんなに話が盛り上がったのかい?」
テーブルで最初に声をかけてきたのはカルマだ。
ちなみに食堂に入った時に、ラーニのにおいチェックは受けている。
「ああ、まあ色々とな。年の近い男同士でないと話せないことも多いし、お陰で重要な話も聞くことができたよ」
「へえ? それは興味あるけど、ここで話せることかい?」
「全部は無理だな」
王城の食堂なので、もちろん給仕をしてくれるのは王城の人間である。例えばリューシャ王が女性などという話は、公然の秘密としても大っぴらにするのは抵抗がある。
「皆の方はなにもなかったのか? 夕食は城で食べたんだろう?」
「ええ、リューシャ王とラーガンツ侯爵が一緒でしたわ。他にも何名か貴族家の奥方がいらっしゃって、色々とお話も聞くことができました」
マリシエールの言葉に合わせてドロツィッテが意味深な笑みを漏らしたので、男には聞かせられない話も出たのだろう。そこはお互い様ということだ。
「それとゲシューラとライラノーラが、例の魔導具の起動実験をしたいと言っておりました。ですわよね?」
「うむ。起動できる目途が立ったのでな。一度起動をしてみたいのだが、どうだろうか?」
俺の方を見てくるゲシューラは、いつになく訴えかけるような目をしていた。
しかしすぐに許可を出せる案件ではない。なにしろ今『異界の門』を開くということは、そこから『悪魔』が出てくる可能性があるということでもある。
しかもあの『異界の門』生成の魔導具は、定在型の『異界の門』を作るものだ。つまり一度開いたら閉じられない可能性がある。
「実験をするのはいいが、問題がいくつかあるな。まず一度開いた『異界の門』は、あの魔導具で再び閉じることはできないんだろう?」
「あの魔導具に閉じる機能はない。我が時間をかけて分析すれば、閉じる魔道具も作り出せる可能性はあるが」
「すると開く場所が重要になるな。『悪魔』を呼び寄せることにもつながるから、そのへんに勝手に開くわけにはいかないしな」
「だが大きさはある程度指定できるようだ。人が一人通れるほどの穴にすれば、『悪魔』は通れぬのではないか?」
「なるほど。ただ俺は、『異界』で『悪魔』たちが自分たちの身を犠牲にして穴を広げる行動をとっていたのを見てるんだ。今思えば、あれもまた『根源』を差し出す行為だったのかもしれない」
「むう……。しかしどうせ『異界』に行くのであれば、速やかに入って『悪魔』の発生を止めればいいだけではないのか。結局『異界の門』を開くことは避けられぬと思うが」
そのゲシューラの言葉に、マリシエールやスフェーニア、シズナたちも賛同をした。
確かにその通りであるのだが、やはり『異界の門』を開くのにはその土地を治める者の許可がいるだろう。そして『悪魔』が出てくる可能性があるとなれば、その人間はよほど俺たちの行動について理解をもっていることが必要となる。いや、理解するだけでなく、『悪魔』の出現に備えられる人間でないとならない。となると、結局はその国の長の許可が必要となるわけだ。
もちろん俺たちが言えば、ヴァーミリアン王国の国王陛下や、アルデバロン帝国の皇帝陛下は許可してくれる気はする。ただ、今から王都や帝都に行く時間はあまりに惜しい。
とすると、結局はリューシャ王に頼むしかない。
「……そうだな。どちらにしろ『異界』には早急に行かなければならない。この後リューシャ王やラーガンツ侯爵に相談してみよう」
ということでその場はまとまった。
もともとアルマンド公爵領の鉱山まで引き返すつもりもあったのだが、あの『異界の門』が十分に広がっていなければ、結局は新しく『異界の門』を開くしかない。
後々『異界ショートカット』が現実のものとなるなら、メカリナン国に『異界の門』を作ることはマストになる。
まあ他にも『異界の門』を開くことで自然環境に影響があるのではなど他にも懸念はあるが、いざとなったらゲシューラに閉じる方法の研究をしてもらうしかない。
今『冥府の燭台』を放置しておけば、それ以上のなにかが起きることは確実であるのだ。
「わかりました。その件については大臣たちを集めて急ぎ検討をします。三日後には結論を出しますので、それまでお待ちいただいていいですか?」
「もちろんです。ご対応いただき感謝します」
昼食後すぐにリューシャ王にアポイントメントを取ろうとしたら、俺については最優先らしく、すぐに執務室に案内された。
そこで俺はリューシャ王とミュエラを相手に『異界の門』を開くことについて一通り説明をした。それに対するリューシャ王の回答が先のもので、事実上ほぼ最速で対応してくれるということになる。
その後部屋にメンバーを集めてその話をしたところ、ラーニが手を上げた。
「じゃあ結論が出るまでこのあたりのダンジョンをどこか入らない? あ、でもソウシは一人で入っちゃったんだっけ?」
「いや、王都のダンジョンはどこも行っていないんだ。マリアネ、王都の周囲のダンジョンはどうなっているかわかるか?」
「FからBクラスまで揃っています。ただEからCクラスのダンジョンは少し離れた所にあって、現地で野営するのが前提ですね」
いつものことだが、即答するところはさすがの専属職員マリアネである。
情報を聞いて、ラーニは少しだけ考えてから口を開いた。
「じゃあ明日Bクラス行ってみる? 低いクラスのダンジョンは入ってもあまり意味はないから後回しでいいよね」
「Bクラスは20階層です。私たちであれば2日でいけるかと」
マリアネの追加情報にうなずきつつ皆を見回すと、全員問題なく賛意を示した。
リューシャ国王の許可待ちの間のダンジョン行きが決定し、その後は各自で過ごすことにした。
といっても部屋で過ごすか、町に出るか、練兵場でトレーニングをするか、やれることは多くはない。
俺は練兵場に行ってトレーニングをすることにしたが、そこでは冒険者出身の兵士たちが、俺が伝えたトレーニングを実践している姿もあった。
練兵場から戻る時に、リューシャ王が『ソールの導き』のメンバーの何人かと楽しそうに話をしながら歩いているところを見かけた。
そういえば一年前に会った時、彼……ではなく彼女は、『ソールの導き』の女子メンバーの話を聞きたいと言っていた。
その時は少年だから女性に興味があるのかと失礼なことを考えていたのだが、彼女自身が女性であればそれも当たり前のことだったのだ。今さらながらに自分の見る目のなさに落胆してしまう。
リューシャ王ともダンジョンに入る約束をしていた。さすがに明日明後日は無理だろうが、それも守らなければならないだろう。『将の器』スキルのレベルも上がっているので、リューシャ王、ミュエラともどもボス部屋に一緒に入ることも可能である。
以前は『ソールの導き』のメンバーが持つ一部スキルなど、その特殊性は隠さなければならなかったが、いつの間にかその必要もなくなってしまった。
そんな変化をしみじみと感じながら、俺は自分の部屋に戻っていった。
【ご報告】
近況ノートでも報告いたしましたが、「おっさん異世界最強になる」の3巻が1、2巻に続き重版をいただくことができました。
これも応援してくださっている皆様のおかげです。心より感謝いたします。
3巻ですでに最強に近い存在になっているソウシ氏ですが、まだまだパワーアップをしていきます。
最強おっさんの物語を書籍でも皆様と共有できたらと思います。
今後とも応援よろしくお願いいたします。




