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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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22章 異界の門への道標  24

 夜までにメンバーを動員してAランク魔石の数を数えた結果、2300あまりのストックがあることがわかった。


 あと200個分を得られれば『異界の門』を5つ開くことができることになる。Bランク魔石2,000個なら王都メッケナ近くにあるBクラスダンジョンで十分収拾できる数だろう。5回『異界の門発生装置』を稼働させられれば、回数としてはとりあえず十分だろう。


 そして夜になり、俺はギルドマスター・ダンケン氏に教えてもらった酒場を訪れていた。


 中央通りから一本離れた通りにある高級そうな酒場で、入ってみると明らかに客層が一般の店とは違った。


 名前を告げても店員は驚いたような態度は見せず、黙って深々と頭を下げたのみであった。つまり著名人でも特別扱いはしない店ということである。ダンケン氏がこの店を選んだのもうなずける。


 案内されたのは個室であった。部屋には丸テーブルが一つ、椅子が4つ用意されていて、すでにダンケン氏、ドゥラック将軍、そしてアースリン氏が席に着いていた。


 卓上にはすでに酒とコップが用意されているが、まだ始めてはいないようだ。


「済みません、お待たせしました」


「いやいや、こっちが楽しみでちょっと早く来ただけだ。さあ座ってくれ」


 ダンケン氏に促され席に着くと、私服姿のドゥラック将軍が手を差し出してきた。


 ドゥラック将軍は、いかにも武人といった引き締まった顔つきの男である。茶色の髪を後ろに流し口ひげを蓄えている。見た目は40前後なのだが、実際は50を超えているらしい。


 俺がメカリナン国の内戦において戦に参加した時に、最初は敵となり、後に味方となった人物である。妻子を人質に取られてなお将軍としての職責を全うしようとした姿は今でも忘れられない。


 握手を返すと、ドゥラック将軍はニッと白い歯を見せた。


「式典の場では顔を合わせたが、こうして話すのは久しぶりだな。立場は多少変わってしまったが、今日は色々と話を聞かせてもらうとしよう」


「こちらこそよろしくお願いします」


「ソウシ殿、こちらも言葉を砕いているのだから、貴殿も平素の言葉を使ってもらいたいのだが?」


「……わかった、そうさせてもらう。ただ敬語はくせになってるところがあって、つい出そうになるのは許してくれ」


「うはは、英雄たるものその言葉遣いでなければな。おっと、アースリンも挨拶したそうにしているな」


 水を向けられて、アースリン氏も手を伸ばしてくる。


 アースリン氏は、ミュエラ・ラーガンツ侯爵の右腕として長年仕えている人間である。もと冒険者であるが、今は秘書官のような役割を担っているようだ。なので彼とはすでに王城内で何度か言葉は交わしている。


 30過ぎにくらいに見えるが、実年齢は俺とほぼ同じらしい。グレーの頭髪を短く刈り揃えた、こちらも歴戦の戦士といった佇まいの人間だ。


「ソウシ殿は本当に信じられぬほど出世したな。一年前に会った時からただ者ではないことはわかっていたが、まさかここまでの人間になるとは想像もしていなかった」


「すべては巡り合わせの結果なんだよ。正直今でもなにがどうなっているのかよくわかってないくらいだ」


「しかし我が主人の心を射止めていたというのは今まで自分も気付かなかった。いったいいつそんな話になっていたのだ?」


「メカリナンでの戦いが終わって、俺がオーズへ向かう前日だな。といってもミュエラ……ラーガンツ侯爵からそれらしいことをほのめかされただけで、別になにかあったわけではないんだが」


 と答えていると、ダンケンが驚いたように目を丸くした。


「ちょっと待ってくれ。今の話って、ソウシさんがウチの国の宰相とデキてるってことか!?」


「そういうことだが、少しは言葉を選べダンケン」


 アースリンがたしなめると、ダンケンは肩をすくめた。


「しっかし、それはめでたいことだが、いったいどういう扱いになるんだ? ソウシさんがウチの国に来るってことか?」


「いや、俺は将来的にはどこか辺境の方に土地でも貰ってそこで暮らすつもりだ。だからミュエラには俺のところに来てもらうことになると思う」


「とんでもない引き抜きじゃないか。今この国は宰相様でもってるようなものだぞ」


「そこはいずれ引き継いでもらうしかないが、まあ解決法も考えてなくはない。それはちょっと話せないが」


 さすがに『異界』ショートカットで通勤させようとか、そんな話はまだできない。


「ソウシさんならそこは考えてるんだろうとは思うけどな。しかしウチのグランドマスターもソウシさんの嫁になるんだろ。他にもパーティにはとんでもない美人が揃ってるって話だが」


 ダンケンの言葉に、ドゥラックが腕を組んでうなずく。


「それは私も聞きたいのだ。式典の場でも目にしてその美しさや可憐さに驚いたが、彼女らの素性を聞くとそれ以上の驚きを覚えた。まさかあれだけの女性にょしょうたちをパーティに入れて、なにもないということはあるまい?」


「そうだな……。俺自身どうかと思うところもあるんだが、どうやら彼女らとは関係を結ばないとならないようだ」


「その言い方だとソウシ殿自身は乗り気ではないように思えるな」


「年齢が離れているし、俺自身おかしいだろうという感覚がどうしてもな。自分のやってきた事や立場とかいろいろ考えると、仕方ないというのもわかってはいるんだが……」


 俺がため息交じりにそう言うと、ダンケンが酒を注いできた。


「だが別に嫌ってわけじゃないんだろ?」


「俺にとってはもったいない娘ばかりだよ。だから余計にな」


 それは偽らざる本心なのだが、今さら彼女たちの前では口にできないことでもあった。


 さすがに同年代の3人はその気持ちは多少理解してくれたようで、アースリンはうなずきながら酒をあおり、そして口を開いた。


「ソウシ殿の言うことは理解できる。が、それだけソウシ殿が各国、各集団から無視できぬ存在となっているということでもある。自分もそれを理解しているなら、腹をくくって彼女らを幸せにすることだけを考えればよいのではないか」


「そうだな。俺に足りないのはそこかもしれない。いや、一応すでに腹はくくっているつもりなんだが、現実感の薄さはどうにもならないんだ」


「冒険者になって一年ちょっとで今の状況じゃなあ。仕方ないと言えば仕方ないか」


 ダンケンが肩をすくめて言うと、他の2人もうなずいた。


 どうもこのままだと俺の話に終始してしまいそうなので、俺は別の話題を出すことにする。


「それは自分でなんとかするしかないからなんとかするさ。ところでこの国に来て前とは全然違うと感じたんだが、宰相閣下もさることながら、国王陛下の力も大きいんだろう? アースリンから見てどうなんだ」


「陛下はとても献身的にお仕事をなさっている。『覚醒』をなさってからは、何度かダンジョンに行ってみたいと宰相閣下に話はされているようだが」


「そうそれだ。王が『覚醒』するなんて初めてのことだろう? 冒険者にはならなくていいって扱いらしいが、他の貴族とかはなにも言ってこないのか」


「それはなにもないな。そもそも、リューシャ王はそれ以外に大変な身であるからな。今国内の貴族たちが子弟を連れてひっきりなしに王の元を訪れていて、かなり時間を取られているのだ」


 アースリンが溜息まじりにこぼすと、ドゥラックがもの知り顔でうなずいた。


「その話は相当に酷いと聞いたぞ。しかも元ジゼルファ派の貴族すら話を寄越しているとか。厚顔無恥にもほどがあるのではないか」


 アースリンとドゥラックがなんの話を始めたのか一瞬わからなかったが、ダンケンの皮肉げな笑い顔を見てピンと来た。


「今のはもしかしてリューシャ王の結婚相手の話か?」


「そうだ。リューシャ様はまだそのつもりはないと答えているのだがな。まったく気の早いことよ」


 アースリンはうなずきながら、苦い顔で酒に口をつけた。

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