22章 異界の門への道標 13
50を超える『デュラハン』の一団、しかもその中の3匹は『デュラハンロイヤルガード』という上位種であった。
とはいえフレイニルの『絶界魔法』やシズナの『精霊』、として『ソールの導き』のメンバーたちの力によって、瞬く間に20匹のデュラハンが駆逐された。
そこで相手も学んだのか、続く30匹は様子を伺うようにゆっくりとこちらへ進んでくるようになった。
「投射系魔法の一斉射撃準備。通常射撃の後は先制スキルで連続射撃。後は前衛で行く。フレイニルは『絶界魔法』を後衛の前に張り直してくれ」
「了解っ」
「はいソウシさま」
「お任せを」
スフェーニアたち後衛陣が炎や岩や氷の槍を合計で100本以上放つ。ゆるい放物線を描いて降り注ぐ魔法の槍を、前に並ぶデュラハンたちが槍で払おうとする。しかしすべてを防げるはずもなく、5、6匹のデュラハンが10を超える槍に貫かれて崩れ落ちた。
さらに間を置かずに『先制』スキルによって放たれた100本の槍が、10匹近くのデュラハンを仕留めた。『先制』スキルは魔法使用時の精神集中時間をゼロにするスキルなので、使いようによって魔法の連続発動が可能になるのである。ただししばらく魔法が発動できなくなるので、使いどころは考えないとならないのだが。
残り15匹になったデュラハンたちは、魔法が来ないと察したか、そこから一気に『疾駆』スキルで突撃を開始した。
後はラーニ達前衛陣の出番である。
ラーニ、カルマ、マリシエールの三人は『飛刃』スキルによって斬撃を飛ばし、それぞれ一匹ずつに大ダメージを与えている。サクラヒメは『繚乱』スキルによって3人に分身をした。マリアネはすでに『隠密』『隠形』スキルを使って姿を消している。
俺は『圧潰波』はあえて封印し、単騎で前に突っ込み、『万物を均すもの』を横一閃、2匹のデュラハンを馬ごと爆散させた。
デュラハンに接近したラーニ達は、それぞれの戦い方で次々と首無しの騎士たちを切り裂いていく。ラーニは『空間跳び』で瞬間移動をしながら死角から切りつけ、カルマは正面から『虎牙斬』で真っ二つにし、サクラヒメは分身しつつ『幻刃』スキルで三重の刃を出現させ、『舞踏』スキルで目にもとまらぬ連続攻撃を仕掛けている。マリシエールは『告運』スキルによってデュラハンの体勢を崩し、一太刀で袈裟に切り捨て、さらに知らぬ間にデュラハンたちの背後に回ったマリアネが、後方から鏢を連続投射してデュラハンたちの動きを妨害している。
いずれもあまりに強力な突破力、制圧力、援護力を備えた前衛陣である。デュラハンたちは瞬く間にその数を減らし、残るは双頭の馬にまたがるデュラハンロイヤルガード3匹のみになった。
「中央は俺がやる。右はラーニとカルマ、左はマリシエールとサクラヒメで相手をしてくれ。マリアネは援護を頼む」
「了解っ!」
「わかりましたわ」
初めて戦う上位種だが、俺たちの相手にならないというのは対峙してすぐに理解できた。俺もいつの間にか創作の世界の強者になってしまったものだと苦笑が漏れる。
俺が『誘引』スキルを向けると、中央のデュラハンロイヤルガードは一瞬にしてトップスピードに乗せ、俺に向かって突進してきた。『翻身』『疾駆』使った騎馬による突撃。しかも双頭の馬はそれだけで暴走トラック並の圧力がある。騎上には漆黒の鎧をまとった首無し騎士、こちらは禍々しくねじれたランスをこちらに突き出してくる。
どんな冒険者でも一撃で致命傷を受けるであろう攻撃。だが俺は、その攻撃を正面から『不動不倒の城壁』で受け止めた。それだけで双頭の巨馬は首がひしゃげ、騎乗の騎士はその身体を鞍から浮き上がらせた。その無防備な一瞬を、『万物を均すもの』がとらえれば、デュラハンロイヤルガードは跡形もなく砕け散った。
ラーニとカルマの2人だが、ラーニが変幻自在の動きでデュラハンロイヤルガードを幻惑し、突進攻撃を許さない。動きあぐねるデュラハンロイヤルガードに一気に近づいたカルマが、大剣『獣王の大牙』で馬の首を二つとも斬り落とす。馬が崩れ、地面に投げ出されるデュラハンロイヤルガード。そこをラーニが魔法を付与した長剣『紫狼』で滅多斬りにして勝負が決した。
マリシエールとサクラヒメだが、デュラハンロイヤルガードが突進してきたところを、マリシエールが長剣『運命をささやくもの』の一振りで軌道を逸らして翻弄していた。もちろん巧みな剣技によってすれ違いざまに一撃を与えるのも忘れない。何度か交錯すると、目に見えてデュラハンロイヤルガードの突進が鈍り、そこをサクラヒメが分身による怒涛の攻撃で圧倒し、反撃を許さずに倒してしまった。
「いやいや、推定Aランクを超える上位モンスターも相手にならないね。しかし次は私たちにも見せ場がほしいな」
「そうですね。ライラノーラ戦の前に、できるだけ身体を温めておきませんと」
魔石やドロップアイテムを拾ってメンバーが再集合すると、ドロツィッテとスフェーニアが気軽そうに言う。フレイニルとシズナもうなずいていて、ゲシューラは相変わらず反応は薄いが反対ではないようだ。
上位Aランクモンスター50匹との戦いがウォーミングアップに過ぎないことに俺は再び苦笑いをしつつ、ダンジョンの奥へと足を向けた。
その後、同じような戦いが2度あり、全員が満足できる程度に身体を動かすことができた。
この後に控えているボスのライラノーラだが、過去の戦いを振り返れば、間違いなく最強クラスの敵になることは間違いない。
恐らくは『黄昏の眷族』の王レンドゥルムと並ぶか、それ以上の相手となるだろうか。
地下5階へ下りる階段の前で大休止を取り、体力を完全に回復させ、装備を確認してから俺たちは階段を下っていった。
下りるとそこは常識的なサイズの通路であった。
壁面には円柱が並び、神殿の中のような荘厳な雰囲気を醸し出している。皆には間違っても言えないが、ゲームの最終ダンジョンのような、歩く者の気分を盛り上げる造りである。
やがて目の前に、複雑な模様で装飾された、重厚な両開きの扉が現れる。真紅を基調とした配色に、この奥にあの真紅の女吸血鬼、ライラノーラがいることを強く意識させる。
「皆、準備はいいな?」
「はいソウシさま。ライラノーラ様を倒して、お話を聞かせていただきましょう」
「今度はどれだけ強くなってるんだろうね。最後ソウシに任せちゃうのは悔しいから、今度こそ最後まで戦いたいな」
「しかしソウシさんが本気を出すと近づくだけで危険ですからね。見守ることも大切ですよ」
「スフェーニアはあの荒っぽいソウシが好きだからいいよね」
「そ、そういうお話ではありませんから!」
「あら、わたくしもあの荒々しいソウシ様は好きですわ。でもそれとは別に、ライラノーラさんとはきちんと戦いたいですわね。あれほどの強者とは滅多に出会えませんもの」
「私はライラノーラとは一度時間を取ってじっくり話をしたいね。ソウシさん、どうにかならないかな?」
最奥部の扉の前でする会話としては、だいぶ緊張感がない気がするが、堅くなっているよりははるかにマシだろう。
俺はドロツィッテに「話ができるように交渉はしてみるが、まずは『冥府の迷い姫』の話をしてからだな」と返しておいた。
俺としてもライラノーラにはこの世界のことをもっと聞きたい気もするが、だからといって第一の目的は忘れてはならない。
「さて、じゃあ中に入るとしようか。いざとなれば教会で借りた『還りの鈴』を使うからな」
『還りの鈴』は、ダンジョンから一気に地上まで転移できる驚異の魔道具である。使用する時は事前に地上に移動先を指定しておかなければならないのだが、それはダンジョンに入る前は毎回行っている。もっとも今まで一度も使用したことはないし、使用しないに越したことはない道具ではある。
俺は全員の表情を確認して、重厚な真紅の扉を押し開いた。




