22章 異界の門への道標 03
数日後、Cクラスダンジョンを踏破して宿で休んでいると、アルマンド公爵から呼び出しがかかった。
使者からその話を聞いて、ようやく話ができる状態にまで事態が落ち着いたようだと、俺も少し胸を撫でおろした。
なにしろここ数日、街中を歩いていてもわかるくらいには役人などが走り回っていた。
鉱山の警備体制などの構築、仕事のなくなった鉱山の鉱員たちの処遇の決定、解放奴隷たちへの実際の対処、『冥府の燭台』の残党たちの扱いとドルマット子爵領への援助、そしてなにより公爵家自体の再建……アルマンド公爵がやらねばならない仕事はあまりに多かった。それがこの短期間で一段落つくだけでも大したものかもしれない。
呼ばれたのは俺とグランドマスターのドロツィッテの2人だったので、翌日『ソールの導き』の活動は休みにして、2人で公爵邸へと出向いた。
すぐに通された会議の間には、すでにアルマンド公爵とゼオラーナ夫人、それから家臣が数名、そして公爵領に来る時に接触した、王家の調査官であるラグレイ青年と、他にやはり王家から派遣されたと思われる役人が3人揃っていた。
「おおオクノ侯爵、急に申し訳ありません。王家からの調査官も到着したので、一度状況を皆で共有しようと思ったのです」
椅子から立ち上がりつつそう挨拶をする公爵だが、やはり多少なりとも疲れがたまっている顔をしていた。やっている仕事のレベルはあまりに違うが、鏡の中で見た前世の自分の顔に似ている気がして複雑な気分になる。
「お呼びいただいてありがとうございます。こちらも次の行動に入るための情報は知っておきたいので助かります」
ドロツィッテと共に椅子に座ると、お茶が用意され、公爵の挨拶があって会議が始まった。
まずは公爵からの報告が行われるが、大まかには以下のような内容が語られた。
ひとつ、『冥府の燭台』については、2年ほど前にドルマット子爵家そのものを乗っ取ってから、アルマンド公爵領での活動を開始していた。その活動範囲は子爵領、公爵家及び領都、そして鉱山の三カ所。主な活動は、ドルマット子爵領での疫病の拡散、公爵家からの資金の横流し、鉱山での『異界の門』研究ほか、各地で混乱を引き起こそうとしたことなど多岐にわたる。
ひとつ、『冥府の燭台』の残党はドルマット子爵領にいたもの、領都にいたものを合わせて200人弱を逮捕した。尋問は行っているが、今まで『ソールの導き』が関わったもの以外に、なにか計画をしていたという情報はなかった。また『冥府の燭台』の組織の全容を知る者もいなかった。ただし『三燭』と呼ばれる幹部のほかに上位者がいたという情報は一切なかった。
ひとつ、鉱山にある『異界の門』は今のところ大きな変化は見られない。ただし計測器にて大きさを測らせ、5日で半セロ(約5ミリ)の拡大を確認した。
ひとつ、解放奴隷については全員の生存を確認し、必要な路銀や多少の賠償金を持たせて里へと帰した。
「『冥府の燭台』については、結局のところ鉱山での『異界の門』生成を大きな目標としていたようです。構成員たちは子爵領での非道に直接関わった者に関しては死罪とし、それ以外の者も罪状によって相応の刑罰を与える予定です。獄中で自害する者もすでに10名以上出ておりますが、どうやら彼らは死んでも『異界』で復活するという教えを信じているようで、死を恐れていないところが見られます。現在のところ、今回の一連の事件に関しては以上になります」
公爵が一通りの説明を行うと、深い溜息がいくつも漏れた。
俺は溜息こそ漏らさなかったが、ドロツィッテと軽く顔を見合わせて互いに渋い顔を見せあった。
「なお、今回の一連の事件に関しては、私自身の至らなさがその被害を拡大させた面も大きいと考えております。国王陛下にはその旨もすべて奏上し、公爵家の在り様も含めて審議いただく所存です。ただしそれに先んじて、陛下よりまずは領内の復興と、『異界の門』の対策に全力を尽くせとの言葉をいただいておりますので、しばらくは私が中心となって対応をすることになります。以上の点を含みおきいただいて、今回の件に関して様々な意見をいただければと思っております」
さらに公爵がそう述べると、王家の役人らはかすかにうなずいて、すぐに質問などを始めた。
多くは公爵領が受けた被害について、それをどう回復するのか、王家からの援助はどうなるのかといった話である。俺もゆくゆくは関係するかもしれないやりとりなので耳を傾けるが、やはり王家と公爵家の間で微妙な綱引きがあるのが感じられた。
そちらの話が一段落ついたところで、俺の方からも質問をすることにした。
「鉱山に開いた『異界の門』については、具体的にどのような対応をなさるのでしょうか?」
「鉱山には冒険者出身の兵を含めて常時100人ほどを常駐させます。また冒険者ギルドとも協力してBランク以上の冒険者も交代で派遣をしてもらっております。悪魔が出現するなどの緊急時には『転話の魔導具』にてこちらにすぐ連絡が来ることになっており、最終的には領都の軍、及び冒険者で対応をすることになるでしょう」
「わかりました。ドロツィッテ、高ランクの冒険者は間に合っているのか?」
「一応王国内のそれなりの冒険者をこちらに派遣するようには各ギルドマスターに伝えてあるよ。大丈夫、私たちが自由に動けるくらいは担保できるさ」
「グランドマスターの対応には大変感謝しております。『ソールの導き』のご一行がこのタイミングで我が領に来られたことも、僥倖以外の何物でもありませんでした。重ねて感謝いたします」
アルマンド公爵がそう言うと、ゼオラーナ夫人や家臣団も俺たちに向かって頭を下げる。
急にいたたまれなくなるが、そこは抑えて次の話題へと移る。
「それでは我々『ソールの導き』は、こちらでやるべきことは終えたと見て、メカリナン方面へと向かいます。もちろんあの『異界の門』になにかあればすぐに駆けつけますのでご安心ください」
「今回の件の礼については王家とも相談の上でさせていただく予定なのですが、それまでお待ちいただくことはできませんか?」
「礼の方は諸々の処置が終わって、公爵閣下に余裕がおできになった時で十分です」
これはすでにメンバーとも話し合ったことだ。今の俺たちに必要なのは、報酬ではなく次に向かって動き出す時間である。
『天運』スキルの導きを考えるなら、メカリナンにはそろそろ向かっておきたいという判断もある。
「わかりました。その言葉に甘えさせていただきましょう」
公爵がそう言うと、そのあといくつかの事務的な話が続き、そして会議は終わりとなった。
今回アルマンド公爵領では『冥府の燭台』関係で色々動きがあったが、どうやら表面上はこれで一段落ついたようだ。
ただラグレイ青年と、そして公爵はまだこちらを気にしているようなので、もう少し個別の話がありそうだ。
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