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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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21章 アルマンド公爵領  09

 翌朝早く、俺たちは迎えに来たニールセン青年とともに、アルマンド公爵邸を出発した。


 ドルマット子爵領はアルマンド公爵領の南東にあり、さらにそのまま南下するとメカリナン国との国境にたどり着くらしい。


 公爵領の一部もメカリナン国とは国境を接していて、俺がメカリナン国でクーデターを助けた結果、アルマンド公爵が領を離れられなくなったのもそれが理由である。


 子爵領までは冒険者の足で3日かかるらしい。俺たちは馬車を出し、シズナの『精霊』に牽かせて街道を進んだ。


 道中は特になにもなかったが、ただ3日目の朝から、フレイニルがしきりに子爵領の方を気にしているのが気になった。理由を聞くと「あちらの方からよからぬ気配がいたします」とのことで、これから向かう子爵領の町バアラがどうなっているのか、不安を搔き立てることになった。


 なお旅ではニールセン青年も馬車に乗るように誘ったのだが、「悪ぃ、1人にしてくれ」と言われてしまった。父のことで落ち着かないとか、こちらに気後れしていたりとか理由はいろいろありそうだが、この後彼は間違いなく辛い現実に直面することになるだろうと思うと、それ以上俺もなにも言えなかった。


 そして3日目の昼、俺たちはドルマット子爵の治めるバアラの町に着いた。


 国境沿いの町ということで堅固な城壁に囲まれた町であったが、入り口は領主の子息であるニールセン青年がいるので顔パスである。


 バアラの町は、一見するとヴァーミリアン王国によくある町と変わりはなかった。規模としてはバリウス子爵が治めるエウロンの町とほぼ同じで、俺としては親しみが持てる感じはした。


 ただその中央通りを歩き始めてすぐに、フレイニルが、


「やはりあちこちから邪な気配を感じます。もしかしたらアンデッドを召喚する石板が設置されているのかもしれません」


 などと言い、ラーニとカルマが、


「すっごく嫌なニオイがあっちこっちからするわね。これならカルマもわかるでしょ?」


「さすがにこれはアタシでも気付くねえ。敵地の真ん中に飛び込んだ感じもあるね、これは」


 などと言い始めると、俺の感慨など一瞬で飛んでしまったが。


「町の人たちはどうだ? おかしなところはあるか?」


「町の人々は普通の方たちだと思います。ただ時々、邪な気配を持った方がいます」


「そうね、時々すごく臭う人間はいるかな。ただいつもの泥人形じゃないと思う。例えばあそこの屋台の前にいる人とか」


 ラーニの言葉に従って視線をやると、そこには青白い顔をした女性が立っていて屋台で買い物をしていた。灰色のローブを着ていて、確かに少し変わった風体(ふうてい)に見える。


「もしかしたら例の集団の構成員かもしれませんね」


 マリアネがそっと耳打ちしてくるが、なるほどその可能性はある。『冥府の燭台』については、俺たちは『三燭(さんしょく)』と名乗ったイスナーニたちしか存在を知らないが、彼らが構成員を集めて集団を作っている可能性は高かった。『冥府の燭台』は、戦争時には集団であちこちに出没していたとも聞いている。


 俺たちがそんなことを話している一方で、ニールセン青年は険しい顔で、先を急ぎたいようなそぶりを見せていた。だが今の話を聞いた以上、少し待ってもらわないとならない。


「ニールセン君、少しいいか」


「なんだ?」


「館に急ぎたい気持ちはわかるが、行く前にギルドに寄りたい。それと君から見て、この町の様子は前と同じに見えるか?」


「なんで……いや、なんでもねえ。それより町の様子って言われてもな。俺がここを出たのはもう5年も前なんだ。そりゃ多少は変わってるさ」


「君は冒険者としてBランクまで行った人間なのだから、感覚はかなり優れているはずだ。それでもなにも感じないか?」


 青年はもどかしそうな顔をしたが、爵位の上下もあって俺の言うことを聞かないわけにはいかないようだ。しぶしぶと眉を寄せながら周囲を見回した。


「あ~そうだな……。前よりちょっと陰気になった気はするな。なんていうか、昔はもっと通りに人が多かったはずだ。そういや壁外地もなくなってたな。なんでだ?」


「壁外地」というのは、城塞都市の外側に広がるいわゆるスラム街のことだ。こればかりはどれだけ行政を整えてもなくならないというのは、前世の地球でもこの世界でも同じであるようだ。事実俺が訪れた都市は多かれ少なかれ壁外地は必ず存在した。例外はエルフの里くらいだろうが、それを考えると確かに妙な話である。


「君の父上は壁外地についてなにか言っていたか?」


「昔一度、俺と兄貴に壁外地をなくせるのが理想の領主だと言ってた時はあったな。ただそれはあくまで理想で、人間が集団として生きる限りなくなることはないだろうなんてことも言ってた」


「そうか……。その話だけでも素晴らしい父上だというのはわかる気がするよ」


「まあ、確かに口うるさいが尊敬はできる親父だったよ。それが……」


 と館の方を睨む青年の肩を叩いて、俺はフレイニルに向き直った。


「フレイ、召喚の石板の反応はあちこちにあるのか?」


「はい。あそこの物置の中に一つ、それとそちらの土の地面の中に一つ、それから……」


 フレイニルが示す場所を見ていくと、中央通りの左右にだいたい100メートル間隔くらいで設置されているようだった。


 ただ通りから外れると無いようなので、そこだけは助かったかもしれない。


 俺がどうしたものかと考えていると、ニールセン青年が怪訝そうな顔をしてこちらにきた。


「なあオクノ侯爵、今のはなんの話なんだ?」


「ああ、『冥府の燭台』は、アンデッドを召喚する道具を持っていて、それをこの町にも持ち込んでいるようだ。恐らくはいざという時に発動させて、自らの身を守るつもりなんだろう。もちろんそうなったらこの町の住人にも大きな被害が出る」


「なんだと?」


「もし君の家に『冥府の燭台』がいるとして、それを下手に追い詰めたらこの町はアンデッドだらけになるということだ。住人を人質にされているに等しいな、これは」


「マジかよ……。そんな奴らなのか、『冥府の燭台』っていうのは」


「人の命と引き換えに力を使う連中みたいだからな」


 あの『イスナーニ』は時折そんなことを口にしていた気がする。帝都の闘技場で『異界の門』を開いた時も多くの命と引き換えにした、などと言っていた。


 しかしそう考えると、青年の言っていた「壁外地がない」「住人が少ない」という言葉は恐ろしい想像を掻き立てる。


 ともかく、召喚の石板への対策は事前に必要だ。幸い『ソールの導き』にはこの事態に対応できるメンバーがいる。


「ドロツィッテ」


「わかっているよ。これからギルドに行って対応できるよう取り計らおうじゃないか」


「ギルドまで『冥府の燭台』の手が入ってなければいいんだがな」


「一応全員で行ってみようか。フレイとラーニに一通りのチェックはしてもらいたいからね」


 バアラの町の冒険者ギルドはやはりエウロンの町と同等の規模であったが、冒険者の数がやや少ないように見受けられた。話によると周辺にダンジョンがFからDまでのクラスしかないらしく、C以上の高ランク冒険者は一組しかいなかった。


 フレイニルもラーニも、ギルド内に関しては特に気になることはないとのことで、ドロツィッテとマリアネはそのままギルドの奥へと入っていった。


「あれ? ニールセン坊ちゃまじゃねえか」


 冒険者の一人、若い男がそう口にして、ニールセン青年の方に歩いてくる。


 青年は片手を挙げて応えた。


「おうゾーラか、久しぶりだな。まだ生きてたんだな」


「そんな簡単には死にませんや。これでも一応Dランクまでは来たんで、この町だとそこそこ有名なんですよ」


「へえ、あの逃げ腰ゾーラがな」


「そのあだ名はもうなしで頼みますわ。坊ちゃんはBランクまで行ったって聞いてますけど、今日はどうしたんで?」


「兄貴が死んで親父が倒れたって聞いて、冒険者はやめて戻ってきたんだ。こっちは俺がいた時とくらべてなんか変わったことあったか?」


「ああ、もしかして跡を継ぐんですかい? この町はちょっと人が減りましたね。一時期病気が流行ってバタバタ人が倒れたりしたんで」


「おいおい、それは大丈夫なんだろうな」


「もう一年以上前の話でさ。それで壁外地は全滅しちまったんですがね。おかげでゴミ処理とかする奴がいなくなって、ちょっと大変だったらしいですわ」


「それで壁外地がなくなってたのか。それとなんか変な奴がうろついてる気がするんだが、ありゃなんだ?」


「ああ、あのローブの連中ですかい? 坊ちゃんが町を出てから来た奴らで、何してんのかよくわからない奴らです。たださっき話した病気にかかってた人間の面倒みたりはしてくれてたみたいですぜ」


「物好きな奴らがいたもんだな」


「まったくで」


 そこでニールセン青年は俺の方をチラリと見た。


 彼なりに情報収集してくれたといういうことだろうが、なかなかいい話が聞けた気がする。


 俺が彼にうなずいていると、掲示板を見ていたカルマとシズナが戻ってきた。


「特に変わった依頼とかモンスターの情報はないねえ。ただなんか、冒険者を集めとくための依頼が多いかもね」


「冒険者を集める依頼?」


「モンスター対策のために長期間この町のまわりを警備する依頼とか、森でモンスターを間引く依頼とか、なんかそういうものが結構多いね。そういう依頼で領主が一時的に冒険者を自分の土地にとどめとくっていうやり方があるんだよ」


「なるほど、低ランク冒険者向けの依頼を出して、外に出ないようにするってわけか」


「そうそう。ソウシさんの勘になんか引っかからないかい?」


「そうだな……。それは鋭い指摘かもしれない」


 どうもキナ臭い話が一気に集まってくる。というより、この町がずっとそういう状態にあったということだろう。


 嫌な予感が膨らんできているところで、ドロツィッテとマリアネが戻ってきた。


「ソウシさんちょっといいかな。とりあえずここのギルドマスターに話を通して、これから緊急に冒険者に招集をかけることになったよ。私はなにかあった時のためにここに残って陣頭指揮をとることにするから了解してほしい。ああ、マリアネは連れて行ってくれて構わないよ」


「わかった。町の方が人手は必要だろうから、こちらも何人かここに待機していてもらおう。マリシエール」


「なんでしょうか?」


「すまないが、こちらに何人か残すから、街中のアンデッドの対応を頼みたい」


「わかりましたわ。被害が出ないように上手くやりましょう」


「頼む。残るのはシズナ、カルマ、サクラヒメ、ゲシューラとする。フレイニルを残しておきたいが、フレイニルの能力は向こうでも必要だからな」


「大丈夫ですわ。それだけいれば十分対応できると思います」


 戦力を分断することにはなるが、一般市民に被害が出るのを見過ごすわけにはいかない。


 まあ『冥府の燭台』の『三燭』の一人くらいなら、俺とフレイニルとラーニ、スフェーニア、マリアネの五人でなんとかなるだろう。


「よし、では子爵邸に向かうか。ニールセン君、待たせて済まなかったな」


「ようやくか。まあアンタがやってることが必要なことだってのはわかるから文句は言わねえよ。むしろこっちの領地のためにやってくれてることだしな」


 そう言いながらも、ニールセン青年は表情を厳しくする。


 まあこれから何があるかを考えれば、自然とそんな顔になるだろう。


 家族がもしかしたら『冥府の燭台』に……などと思えば、すぐにでも駆けつけたいはずだ。むしろ以前の彼ならば、俺の言うことなど聞かずに独断で行ってしまったかもしれない。


 ともかくこれで事態は間違いなく大きく動くはずだ。あとは奴らがどこまで悪辣なことをこの町で行っているかだが、さきほどの話を聞く限り、それに関してはかなりの覚悟を決めなくてはならなそうだ。

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