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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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21章 アルマンド公爵領  02

 翌朝ラグレイ青年に見送られ、俺たちは宿場町を発った。


 領都まではほぼ一日と言われたが、馬車が使えたので昼過ぎには領都の城門前に到着した。


 公爵領の領都はヴァーミリアン王国第二の都市ということで、その規模は王都に次ぐものだ。


 大陸一の規模を誇る帝都を見慣れてしまった俺たちではあるが、それでも城壁に近づけば圧倒されるくらいの都市である。


 俺たちの馬車は目立ちすぎるので、途中で徒歩に切り替え、跳ね橋前の検問所へ向かう。


 貴族用の入り口に向かう途中で、隊長らしき壮年の番兵が、部下2人とともにこちらに走ってきた。


「失礼いたします! もしや『ソールの導き』のご一行様でしょうか?」


「ええそうです。私がリーダーのオクノです」


 と応えると、隊長と2人の兵士は背筋を伸ばして敬礼をした。


「遠路はるばるお疲れ様であります! アルマンド公爵閣下より、『ソールの導き』ご一行様がいらっしゃった時には、最優先で対応するよう指示されております。すぐに公爵閣下からの迎えの馬車が参りますので、あちらの休憩所でお待ちくださいますようお願い申し上げます」


「それはご苦労様です。わかりました、お世話になります」


「はっ! ご案内いたします」


 どうやら俺たちについては、すでにアルマンド公爵は手ぐすねをひいて待ち構えていたようだ。


 もっとも俺たちほど目立つ一団はないから、動きが知られてしまうのはどうしようもない。まあ元から公爵邸には行かねばならないのだから早い方がいい。


 兵士に先導されて跳ね橋を渡り、城門をくぐって領都へと入る。


 待合所となっている建物で待っていると、程なくして数台の馬車がやってきた。きちんとゲシューラ用の荷馬車まで用意されているので、こちらの情報はしっかりとつかまれているようだ。


 その馬車には、花と月をあしらった家紋が記された小さな旗が掲げられている。


 その家紋をじっと見ているフレイニルの肩を、俺は軽く叩いた。


「行こう。大丈夫、今のフレイニルならなにがあっても乗り越えられる。俺も皆も手伝うからな」


「ありがとうございますソウシさま。前はこの家紋が不思議と大きく見えていたのですが、今は逆に小さく感じるのです」


「それはきっといいことだな。そういえば俺もいつかは家紋とか考えないとならないのか」


「オクノ家の家紋ですね。それはもう決まっているのではありませんか?」


「そうか……?」


 俺が首をひねると、後ろからラーニが肩を叩いてきた。


「どう考えてもソウシのメイスで決まりでしょ。剣とか家紋にしている貴族もいるんだし」


「それはいいでござるな。ザンザギル家は刀とヒイラギであるが、ソウシ殿の家ならそれしかあるまい」


 サクラヒメが同調をすると、なんとなくその場の空気がゆるくなる。上位貴族との対面を前にして余裕があるのはいいことだ。もっとも『ソールの導き』に関しては、向こうの方がむしろ緊張をしているかもしれないが。


 ともあれフレイニルと出会ってから、ずっと避けていたアルマンド公爵である。


 どのようななりゆきになるのかまったく分からないが、こちらもあの頃とは立場がまるで違う。俺は気後れする必要はないと改めて自分に言い聞かせながら馬車に乗り込んだ。




 公爵邸は、領都の中央やや北にある、地形として一段高くなっている土地に燦然(さんぜん)とそびえる城であった。


 フレイニルの話だと、もともとは王国に併呑された小国の城だったらしい。


 馬車は城門の中に入り、そして城の玄関の前で停車する。御者がドアを開けてくれるのを待って、フレイニルとともに馬車を下りる。


 玄関の前には20人ほどの人々が出迎えに出ていた。


 その最前列に立つのは、洒落た貴族服に身を包んだ、30代後半と見える、まるで映画俳優のように顔立ちの整った金髪の男性だ。どことなくフレイニルに面影があるので、間違いなく彼がアルマンド公爵だろう。公爵というので勝手に自分より年上を想像していたが、フレイニルやミランネラ嬢の年齢を考えれば40前後であるのはおかしなことではない。


 その公爵の隣には、銀髪を結い上げた派手目の美人が立っている。その横にはミランネラ嬢が不機嫌そうな顔で立っているので、彼女がアルマンド公爵夫人ということか。じっとこちらを見ている夫人の顔からはなんらの感情も読み取ることはできない。


 俺たちが揃って歩いていくと、アルマンド公爵は一歩前に出て軽く礼をした。


「オクノ侯爵、そしてマリシエール皇妹殿下、オーズ国の巫女姫様、そして『ソールの導き』の皆様、ようこそアルマンド公爵領へ。私がアルマンド家当主のオブライト・アルマンド、こちらが家内のゼオラーナ、そして娘のミランネラでございます。皆様のご来訪を心よりお喜び申し上げます」


 俺が今まで出会った貴族の中でも、とりわけ洗練された物腰であると感じられる挨拶であった。アルマンド公爵領は芸術芸能に優れた地という話であったが、公爵はまさにその領主に相応しい雰囲気がある。


「お初にお目にかかりますアルマンド公爵閣下。帝国侯爵、そして王国伯爵のオクノと申します。この度はお出迎えいただきありがとうございます。こちら冒険者としての旅の途にあったものですから、なんらの用意もしておりませんことをお詫び申し上げます」


「こちらが無理を言ってお呼びしているところですので謝罪をいただく必要はございません。()()()もお世話になっているのですから、むしろこちらから礼を言うべきところでございます」


「ご令嬢のミランネラ様もお元気そうで安心いたしました」


 俺が即座に答えると、アルマンド公爵はわずかに眉を動かした。


「ええ、そちらも大変にお世話になったとうかがっております。おお、こちらで立ち話はこれくらいにいたしましょう。どうぞ我が館へ。すでに救世の冒険者と噂される皆様を十分におもてなしができるかどうかはいささか心もとないのですが」


 腹の探り合いを避けるように公爵は話を切り上げ、俺たちを館の中にいざなった。


 さて、彼がフレイニルに用があるというのは十分に感じられた。とすると、やはり多少のトラブルは避けがたいだろうか。


 しかし第一印象から言うと、公爵は抱いていたイメージよりはずっと線が細い人物に見える。しかもフレイニルやラーニが反応していないので、少なくとも目の前の一団に『冥府の燭台』関係者もいないようだ。


 そこだけは一安心をしながらフレイニルの顔を見ると、彼女もまた俺の顔を見ていた。俺は彼女にうなずいてみせてから、公爵の後に従って館の中に入っていった。




 公爵邸では『ソールの導き』はそれぞれ個室と使用人があてがわれた。


 風呂などの世話もされたが、そういった点だけを見れば確かに賓客としての待遇であり、怪しいところやおかしなところはなにもない。


 今のところはフレイニルも俺たちと同じ待遇を受けているようで、一人別に呼び出されたりもしていない。


 俺が風呂から戻り一服するタイミングで公爵から呼び出しがかかった。使用人について応接間へと入る。


「おお、オクノ侯爵、お疲れのところとは思いますが、夕食前に少しお話をしたいと思いましてお呼びいたしました」


「私も公爵閣下とお話をしたいと思っておりましたのでお気遣いはいりません。こちら元はお城だそうで、とても立派なたたずまいのお宅ですね」


「はは、古いものを再利用しているだけですよ。ただ作りが非常に堅牢でして、壊すのも非常に手間がかかるので使い続けているのです」


「なるほど。しかし元の作りの良さというのは得難いものがありますから、続けて使うというのは正しいことではないでしょうか」


 などと当たり障りのない挨拶から始まり、互いにソファに座っての対談となった。


 最初は公爵が『ソールの導き』の話を聞きたいということで、俺がフレイニルに出会ったあたりから、かなり端折はしょって話をした。


 公爵はフレイニルについてはそこまで興味がなさそうに振舞っていたが、やはり王都での聖女交代の儀の件になると、身を乗り出して色々と質問をしたりしてきた。


「……なるほど、そのようないきさつがあったのですね。ミランネラからも話は聞いていたのですが、フレイニルが……いや、フレイニル様が悪いというばかりで要を得ずに困っていたのです」


「ミランネラ様とは、『至尊の光輝』というパーティで活動していた時から何度か顔だけは合わせる機会がありましたが、その時にこちらに対する印象が良くなかったこともあるのでしょう。どちらにしても、少し不幸な行き違いがあったとは思っています」


「いえ、オクノ侯爵はかなり穏やかな言い方をなさっていますが、ミランネラの性格を考えれば彼女の方が一方的に被害者意識を持っているだけと思います。オクノ侯爵のお話は教会の方から聞いた話とも同じですから」


 と言って、公爵は目の間の鼻筋を押さえながら溜息をついた。


 その顔に、玄関前では見られなかった疲れが見て取れる。どうもミランネラ嬢に色々言われて対応に苦慮しているなどということがありそうだ。 



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大国である帝国の侯爵当主が、いくら公爵の娘だからって当主でもない娘に様付けはしなくてよいかと
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