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21章 アルマンド公爵領  01

 獣人の里から南西に続く道は、石畳が敷かれていない土の道だった。


 道幅もそこまで広いわけではなく、俺たちの乗る馬車だと幅がギリギリということもあり、途中石畳の街道にぶつかるまでは徒歩での旅となった。


 右に森、左に耕作地帯というのどかな風景が続く道を、メンバーとともに歩いていると、どことなく落ち着く自分がいる。


 これから向かう先は明らかに一波乱ある土地なのだが、トラブルにはすでに慣れてしまっているのかそれほどの不安はない。


 おっさんと美女美少女10人の冒険者パーティである『ソールの導き』は歩いていても目立つことこの上ないのだが、幸いこの道は時折獣人族の冒険者や旅人が通りかかるくらいであった。


 アルマンド公爵領の領境までは4日、そこから領都までは2日とのことだが、3日目には(りょう)(ざかい)の関所に到着した。


 もちろんヴァーミリアン王国伯爵かつアルデバロン帝国侯爵である俺をリーダーとする『ソールの導き』は番兵たちに最敬礼をされながら通過、アルマンド公爵領へと入った。


 特に景色などが変わるわけでもないが、ずっと避けてきた土地であったので自然と身が引き締まる。フレイニルはと見ると表面上はなにごともなさそうに振舞っているが、やはり多少の緊張は見えた。


 関所を通過し、精霊の()く馬車に揺られること半日。領都まであと1日の距離にある宿場町にたどり着いた。


 宿場町は人口500人ほどと思われる、低い石壁に囲まれた町であった。


 町に入り通りを歩くが、いくつかの店がある以外は特に見るほどのものはない。もっとも宿場町というのはそういうものではある。


 俺たちは立場上上級の宿に泊まることになるが、当日行って11人分の部屋を取るのはなかなかに難しく、結局は野宿になることも多い。貴族は基本的に宿を予約するものだが、俺たちは冒険者であるので先触れを出すなどということもしない。


 それでも一応は宿を探そうと通りを歩いていると、旅人風の青年がすっと俺の方に近づいてきた。身のこなしに隙がなく、恐らくは『覚醒者』と思われる青年である。


 彼は目の前にくると、(うやうや)しく一礼をし、周囲には聞こえない程度の声で話しかけてきた。


「オクノ侯爵様、お待ちしておりました。私はヴァーミリアン王家よりアルマンド公爵領に派遣されている者でございます」


「初めまして、オクノです。調査官が派遣されているというお話はうかがっております」


「公爵領での調査の結果を侯爵様にお伝えせよとの指示を受けております。つきましては宿にてお話をさせていただきたいのですが、宿はお決まりでしょうか?」


「いえ、これから決めるところです」


「それでは宿にご案内します。まずはそちらに」


 ということで、その宿場町でも最上級の宿へと案内された。


 しかも宿泊費は王家持ちらしい。国王陛下の心遣いに頭が下がるが、それだけ俺たちになにかを期待しているということでもありそうだ。


 各自それぞれの部屋に入って身体を休め、半刻の後、貸し切りの食堂で夕食を取る。食事が終わったタイミングで例の調査官の青年がやってきて、そのまま報告を聞くことになった。


 俺が席に着くように促すと、青年は一礼して座り、そして話を始めた。


「改めまして、私はヴァーミリアン王国で調査官をしておりますラグレイと申します。ただしこの名は仮のもので、職務上本名を明かせないことをお許しいただきたいと思います」


「承知しました。ところでラグレイさんはお一人で調査を?」


「いえ、ほかに2名おります。ただし人前に出るのは最少人数にしたいのでこの場は私一人となります」


「徹底しているんですね。では報告をお聞かせ願えますか」


「はい、ではまず解放された奴隷の件なのですが、実は昨日大きな進展がありました。アルマンド公爵領にある鉱山に、解放された奴隷と思われる獣人族がいるという情報が入ったのです」


「鉱山、ですか。どういうことでしょう」


「まだそこまでは調べてはおりません。というよりも、私たちの権限では調べられないと言った方が正しくなります。実は解放奴隷が行方不明であることについては一度公爵に事情を聞いているのですが、本人はその時は行方不明であったことも知らなかったようです。そこでご自分の方でも兵を出して、周辺の山野などを調査させるとおっしゃっていました」


「ふむ……」


「それとは別に鉱山の件が判明したのですが、その件に関しては公爵本人が関わっている可能性もあり、我々だけでは扱いきれない事案なのです。人数が足りないこともありますが、そもそもそこまでの力を我々は与えられておりません」


「なるほど。ということは、この後王家から正式に監察官が派遣されるということになるのでしょうか?」


「そのことなのですが、実はオクノ伯爵閣下がいらっしゃったら、そちらに情報をすべて渡してお任せするように王家からは言われているのです。こちらをご覧ください」


 ラグレイ青年は、バッグから一通の書簡を取り出して差し出してきた。


 受け取って開いて確認をすると、それは王家からの俺宛の書状であった。


 目を通していると、ラーニが横からのぞき込んでくる。


「なにが書いてあるの?」


「『ソールの導き』にアルマンド公爵領に関する調査を依頼するという依頼書のようだ。王家の監察官と同等の権限を付与するので、調査をしてほしいというものだな」


「え~、冒険者にそんなこと頼むことがあるんだ」


「それは私たちの特殊性を踏まえての依頼でしょうね」


 と俺の代わりにスフェーニアが答えた。


 ラグレイ青年もうなずいて、もう一通の書簡を取り出した。


「もし依頼をお受けいただけるなら、こちらの王家の委任状をお渡しいたします。いかがでしょうか?」


「そうですね……俺は受けたいと思うがどうだ?」


 その場でメンバーたちの顔を見ると、全員がうなずいた。


 まあ最初からそのつもりなので、むしろラグレイ青年の話は渡りに船の話でもあり当然ではあるのだが。


「どうせ最初からそのつもりだしいいんじゃない? 報酬ももらえるんだよね?」


「そう書いてあるな」


 ラーニに答えつつ、俺はラグレイ青年に向き直った。


「この依頼をお受けいたします」


「ありがとうございます。ではこちらを」


 俺は委任状を受け取り、中身を確認して『アイテムボックス』にしまった。


 そのままメンバーの方に目を向ける。


「さてと、皆、なにか気になることはあるか?」


「ソウシさま、『冥府の燭台』についてもお聞きした方がいいのではないでしょうか?」


 フレイニルが即答するので、俺はうなずいてラグレイ青年に向き直った。


「実は今回の件、我々は王都でも騒ぎを起こした『冥府の燭台』が関係しているのではないかと睨んでいます。その辺りでなにか気になることはありませんか?」


「国王陛下もそれを気にされておりまして、今回調査官の中には聖属性魔法に堪能な者も派遣されております。彼が領都を一通り調べたのですが、邪な気配のある場所については他の町と同程度ということで、特に強く感じることはないとのことです。気になるのは公爵邸で、近くに行って調べたところ、かすかに不浄な気配が漂っていると言っておりました」


「不浄な気配、ですか」


「アンデッドモンスターに近い気配がうっすらと感じられるそうです。ただこの件に関しても陛下から深入りはするなと言われておりまして、それ以上の調査は行っておりません」


「賢明な判断でしょう」


『冥府の燭台』に関しては、半端につつけば逃げられるか暴発されるかでロクなことにはならないだろう。


 実は俺の方から国王陛下に、『冥府の燭台』に関してはスペシャリストであるフレイニルがいる『ソールの導き』で対応した方がいいと伝えてあった。陛下もそれは納得しており、だからこそ今回のような対応となったはずだ。


 その後もいくつかのやりとりをラグレイ青年と行い、事前にいろいろと情報を得ることができた。


 あとは実際にアルマンド公爵領の領都に乗り込んで調べることになるわけだが、雰囲気としてはやはり公爵の周りが怪しいということになりそうだ。


 フレイニルの件を含めて面倒事があるのは確定しているだけに、上位貴族が相手とは言えしっかりと対応できるよう、心を決めておかないといけない。

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