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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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20章 『龍の揺り籠』、そして獣人の里へ  27

『ワーヒドゥ』がアンデッドを召喚した気配を受けて、俺は通りに出て里の住民に避難を呼びかけた。


 散っていく住人の代わりに路地から出てくるのは獣人族の冒険者たちだ。50人以上はいるだろうか。


 フレイニルはすでに真聖魔法『昇天』の精神集中を始めており、ラーニも剣に火属性魔法の付与を完了している。


「ソウシ様、こちらはお任せくださいませ!」


 通りの奥からマリシエールの声が聞こえた。『ソールの導き』のメンバーが走ってくるが、その手前の地面にいくつかの魔法陣が浮いているのが見えた。


「なんだいこれは!?」


「おうおう、こりゃあ大層なモン残していきやがったな!」


 家から出てきたマーリさんは弓を手に持っていた。ゼンダル氏が握っている斧はマーリさんの家にあったものだろう。


 その時、魔法陣が強い光を放ち、そして地中から染み出てくるように多数のアンデッドモンスターが出現した。


 そのほとんどは剣と盾を持った骸骨戦士『スケルトン』と、貴族服をまとった骸骨魔導師の『バロンファントム』。王都の大聖堂前で出てきたものと同じである。


 数は見えているだけでも100体は超えているだろうか。ここが里の中心部に近いことを考えれば、これだけで大惨事となりうる状況である。本意ではないような言い方をする割に『冥府の燭台』は手加減をしない。


 集まった冒険者たちも一瞬その数に気圧されている。『スケルトン』はともかく『バロンファントム』はBランクモンスターだ。里の冒険者の最高ランクはCという話なので、彼らからすればかなり絶望的な状況である。


 だがまあ、こちらにはアンデッドには無類の強さを誇るフレイニルがいる。


「『昇天』いきます!」


 フレイニルが『聖女の祈り』を掲げると、里全体を覆うほどの光のヴェールが天から降り注ぐように現れる。


『範囲拡大』に『充填』、『多重魔法』まで使ったようだ。


 その神聖な光の前に、『スケルトン』も『バロンファントム』も、声すら上げることもできずに等しく塵となって消えていく。王都の時と同じようなシチュエーションだが、あの時はまだモンスターたちは苦しみながら消えていったはずだ。フレイニルの力がさらに増していることがうかがえる。


 一瞬の出来事にゼンダル氏も斧を構えたまま目を丸くして叫んだ。


「おいおい、一体なにが起きたんでぇ!? さっきのモンスターは幻だったってのか!?」


「いえ、今のはフレイの魔法によって弱いモンスターがすべて消滅しただけです。まだこれから、本命のモンスターが出現するはずです。ご注意を」


「いや弱いって、さっきのはBランクの『バロンファントム』だろ……」


「まあまあ、私たちにかかればAランクのモンスターだって雑魚だから」


 ラーニが鼻をヒクヒクさせて答えると、ゼンダル氏だけでなく、マーリさんも「とんでもない冒険者だね……」と絶句した。


「ソウシさま、強力なアンデッドが出現します。数は……5体、です」


「わかった。皆、あと5体強力なモンスターが出てくる! 注意してくれ!」


 俺が叫ぶと、一瞬遅れて再び地面の魔法陣が発光、地面からせりあがって来るように、5匹の大型のモンスターが出現する。


「こいつぁ……ドラゴンのアンデッドか!?」


 ゼンダル氏の叫びの通り、それはなんと骨だけのドラゴンであった。


『スケルトンドラゴン』とでも呼ぶべきか。大きさは頭部から尻尾の先までは20メートルほど。


『スモールドラゴン』級だが、もちろんこんな大型モンスターが里の中で暴れれば木造の家屋など簡単に破壊されてしまう。事実尻尾の一撃で一軒の家が半壊していた。


「ソウシさま、『神の後光』いきます!」


「頼む。一体は俺がやる。ラーニは一体を引きつけてメンバーが合流したら一気に倒せ」


「了解ソウシ! 任せて!」


 通りには3匹、これはマリシエール率いるメンバーの前に出現していて、とりあえず彼女らと獣人の冒険者たちに任せるしかない。


 俺たちの目の前に2匹いるが、俺は前に出て1匹の注意を引きつける。


 ラーニがもう1匹の目の前に出て、上手く誘い出してくれた。


 直後に周囲が光に包まれたのは、フレイニルの『神の後光』だ。スケルトンドラゴンは巨体を一瞬硬直させ、己が弱体化したことを報せてくれる。


 俺が引きつけたスケルトンドラゴンは、尻尾の一撃を加えてきたが、俺がカウンター気味に『不動不倒の城壁』を前に押し出して受け止めると、それだけで尻尾の骨が砕け散ってしまった。


「思ったより弱いな。いや、弱体化が効きすぎているのか?」


 俺はバランスを崩している骨の龍の懐に入りこんで、斜め上に『圧潰波』を放った。スケルトンドラゴンの上体の骨格がすべて粉々に砕け散って上空に飛び散り、残った下半身はバラバラになって崩れ落ちた。


 メンバーたちが相手をしていたスケルトンドラゴンだが、こちらはもっと簡単にケリがついてしまったようだ。


 後衛陣の魔法一斉攻撃で全身の骨が一気に粉砕され、あっという間に原型をとどめることが不可能になった。地面に落ちた巨大な頭部はそれでも下顎を開閉させて噛みつく仕草を見せたが、カルマの大剣に叩き潰されて砕け散った。獣人族の冒険者たちはほとんど出番もなかったようだ。


「ソウシ、こっちは私一人で大丈夫だから!」


 残るはラーニが釣り出した一体だが、尻尾や前足の鉤爪、そして噛みつきの連続技を出すものの、ラーニの動きにはほとんどついていけていなかった。


 今気づいたが、スケルトンドラゴンはブレスを吐けないようだ。そうするとそこまで強力なモンスターではないのかもしれない。などと口にするとまた呆れられてしまいそうだが。


 ラーニは巨大な骨の竜を翻弄するように動き回りながら、要所要所で『空間跳び』、即ち瞬間移動スキルで横や後ろに回り込み、後ろ足や尻尾を切断していった。『空間跳び』は障害物をすり抜けて動けるわけではないのだが、スケルトンだと隙間があるので容易に死角に移動できてしまう。


 結局スケルトンドラゴンが横倒しになったところで首を斬り落とし、頭蓋骨を何度も切り裂いて勝利していた。


「見た目だけで大したことないわね。これならデュラハンのほうが強いかも」


 ラーニが物足りないといった顔をしながら戻ってくる。


「確かに王都や帝都での騒ぎに比べるとな。ただこの獣人の里の規模を考えると今ので十分に脅威だろう」


「あ~まあそうか。王都と同じに考えたらダメだよね。『冥府の燭台』だって無限にアンデッドを呼べるわけじゃないみたいだし」


「そうだな」


 これだけ強力なモンスターを対価なしで呼び出せるなら、『冥府の燭台』はすでに国の一つ二つ滅ぼしていてもおかしくはない。そうしないのは召喚になんらかの制限があるからだろう。そう考えると、彼らも今までの騒ぎで力をかなり消費してきている可能性もある。


 などと考察をしているうちに他の『ソールの導き』のメンバーも集まってきて、とりあえず一件落着といった雰囲気になった。


 ただどうも、この場はそれで収まらないようだ。


「おう、ソウシさん。やっぱり俺が思った通りソウシさんも『ソールの導き』もとんでもねぇんだな。カルマがあんな強くなってるなんて俺もさすがに思わなかったぜ」


 ゼンダル氏が俺の背中をバンバンと叩いてきて、さらにその太い腕を肩に回してきた。


「ところでソウシさん、今回の件はこれで終わりってことでいいのか?」


「ええ、そうだと思います。フレイ、なにか感じるものはあるか?」


 俺とゼンダル氏の姿を不思議そうに眺めていたフレイニルが、こくんとうなずいた。


「はいソウシさま、邪な気配は全く感じられません。『冥府の燭台』に関しては、もうなにもないのだと思います」


「ありがとう。ゼンダルさん、そういうわけでこれ以上はなにも起きないと思われます」


「おおそうかい」


 そこでゼンダル氏は、俺の肩に回した腕に力を込めた。


「じゃあやるしかねえな、勝利の宴をよ!」

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