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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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20章 『龍の揺り籠』、そして獣人の里へ  16

 先導するマリアネについていくと、見えてきたのは食堂と言うより、レストランと呼びたくなるような上品な店だった。


 中に入ると店員が迎えてくれるレベルの店だ。しかも11人が入れる個室もあるとのことで、俺たちはそちらに案内された。


「ソウシさま、このお店はかなり上等なお店のような気がしますね。他のお客様も身なりのよい方が多いようです」


 フレイニルの言葉にスフェーニア達もうなずいている。ただラーニとカルマは微妙に居心地が悪そうだ。俺としても気持ちはわからなくもない。


「フレイの言う通りだな。マリアネ、この店はどういう店なんだ?」


「この町の有力な商人が経営している店ですね。父母はそこの食堂部門を任されています」


「なるほど……それは結構な立場だな」


 俺の感覚だと、部門長というのは実力がなければつけない地位だ。マリアネの両親は料理の腕だけでなく、経営者としての力もある人たちなのだろう。


 とはいえ立場としてはスフェーニア、サクラヒメたちの親御さんたちよりはずっと庶民寄りだ。元会社員としては親近感も感じなくはない。


 個室は16人まで入れる広さの部屋であった。2列になっているテーブル席に適当に座る。メニューは見慣れた品が揃っていたので各自好きなものを頼んだ。


 ウェイターが去って、代わりに一組の男女が入ってきた。俺より少し年上と思われる、一見して夫妻とわかる男女である。男性はスーツ姿の髭の紳士、女性は上等な店員服を着た美人だ。どちらもどことなくマリアネと似た面影があるので、マリアネの親御さんで間違いなさそうだ。


 丁寧に一礼をしてから、男性が先に口を開いた。


「本日は当店にお越しくださいましてありがとうございます。高名な『ソールの導き』の皆様をお迎えできて、大変光栄に思います。私はそちらのマリアネの父のランベルと申します」


「マリアネの母でランベルの妻のアリアナです。娘が大変お世話になっております」


 続いて女性もお辞儀をする。


 特に名乗ったわけでもないのに支配人自ら挨拶に来るのは驚きだが、もしかしたら店員にマリアネの顔を知っている者がいたのかもしれない。


「初めまして、『ソールの導き』でリーダーをしておりますソウシ・オクノと申します。マリアネさんにはこちらこそ大変お世話になっております」


 俺がつい前世の感覚で立ち上がって対応すると、ドロツィッテが小さく吹き出し、スフェーニアがふふっと含み笑いをした。


 お辞儀をする俺を見て驚いた顔をしたのはランベル、アリアナ夫妻であった。慌てて背筋を伸ばしたかと思うと、90度近くまで腰を折って礼をした。


「こっ、これはオクノ侯爵閣下。このような店に来ていただきありがとうございます! 大変光栄でございます!」


「まさか侯爵様がいらっしゃっているとはつゆ知らず、大変失礼いたしました!」


 2人の態度に、俺は自分の立場を思い出した。


 帝都の店は貴族相手も慣れていて、こちらも自分の地位をあまり意識することなく利用できていたのだが、普通はこういう対応になるのが当たり前であった。


 というか、普通は侯爵となるとこの店レベルでも来るのは非常識ということか。俺の目から見て結構上級のレストランに見えるのだが。


「ああ、いや……お気になさらないでください。お忍びということで、あまり仰々しくしないでいただけると助かります」


「はっ、かしこまりました。なにかありましたら遠慮なくお申し付けください」


「わかりました。今はこちらの店の通常の食事ができれば十分ですので、それ以上のことは気にされなくて大丈夫ですよ」


「はっ!」


 まあたしかに侯爵というのは貴族の中でもトップに近い地位だから、一般の人から見ればある意味恐ろしい存在なんだろうな。身分制社会の肌感覚を理解するのはもう少しかかりそうだ。


「ソウシさん、ちょっと話をしておきます。ここは任せてください」


 カチコチになっている両親の姿を見かねたのか、マリアネが席を立って両親ともども部屋を出て行った。娘が俺を「ソウシさん」呼びしたことにご両親は目を丸くしていたようだが……まあマリアネがうまく話をするだろう。


 俺が席に戻ると、ドロツィッテがさも楽しそうに笑った。


「ふふふっ、マリアネのご両親はソウシさんに驚くあまり、マリシエール殿下にも気付いていなかったみたいだね。もし気付いていたら気を失っていたかもしれないよ」


「わたくしも旅に出ている時はこういったことはよくありましたわ。顔を隠して対処をしていましたけれど、『ソールの導き』はあまりに目立つパーティですから、誤魔化すことはできないかもしれませんわね」


 マリシエールがそう言いながら、口の周りを隠すように巻いた布を取った。その顔には、諦めの表情にも見える苦笑いを浮かべている。


「こういう時、普通は貴族はどうやって食事を取るものなんだ?」


「宿で食べることがほとんどだと思いますわ。基本的に自分から出歩くということはしませんの。身の安全を守るという意味合いもありますが、特に上位の貴族が町を出歩くのは市民に色々と迷惑をかけますし」


「なるほど……。これからは俺も顔を隠して、偽名でも名乗ることにするか?」


「そうですわね。こちらが身分を隠しているという素振りをすれば、向こうもそれを察して気付かないふりをしてくれますわ」


「気付かれないというのは無理か」


「ふふっ、それは不可能ですわ。『ソールの導き』もソウシ様も、あまりに有名になってしまいましたから」


「……そうだよな」


 と答えつつ、俺は軽く天を仰いだ。


 この後マリアネのご両親とは話をしなければならないのだが、余計に気が重くなってしまった。もともと気軽な話をするわけでもないだけに、どんな態度をとっていいかどうかもわからない。


「俺はもう少し偉そうにしゃべった方がいいんだろうか……?」


「ソウシさまはそのままでいいと思います。言葉遣いなどで装わずとも、ソウシさまのお人柄とお力とお立場は自然と伝わりますから」


 俺の独り言に近い問いにフレイニルが即答してくれる。


「まあそうだね。庶民相手に丁寧な言葉遣いをする貴族もいないわけじゃないし、ソウシさんはそのままでいいと思うよ」


 ドロツィッテがそう付け足すと、スフェーニアも深くうなずいた。


「その通りですね。ソウシさんは自然のままでいていいと思います。そうしないといつか疲れてしまいますから」


「今さらソウシが偉そうにしゃべると違和感がすごいと思うわよ。だからそのままでいいんじゃない?」


 とラーニが気楽そうに言うと、皆も同調してくれた。


「わかった、そうさせてもらう。余計なことは考えないようにしたほうがよさそうだ」


 俺がそう言うと、フレイニルは嬉しそうな顔をした。他のメンバーも同様なので、彼女らも俺が貴族らしく振舞うことは望んでいないのだろう。


 俺自身、必要がなければこんな地位など願い下げなのだ。必要がない限りは今まで通りでいかせてもらおう。

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