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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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20章 『龍の揺り籠』、そして獣人の里へ  10

 セーフティゾーンでの野営はいつも通りであった。


 食後に今日とれた『レギオンアントの蜜玉』を使ったお菓子が出されたが、前世で一度だけ買ったことのある高級ハチミツに近い味がした。ただハチミツよりもさらにクセがなく、確かに色々な料理にも使えそうな感じである。もちろんメンバー全員が高評価を下していて、特にフレイニルの強い要望により、今回入手した分は買取りに出さないということが満場一致で決まった。


 お茶を飲んで一服着くと、ラーニがニヤニヤしながら俺の方を見てくる。


「じゃあそろそろソウシがあの鎧を着たところが見たいかな。ね、ソウシ?」


「そうじゃのう。あの鎧とメイスと盾と、すべてを備えたソウシ殿の雄姿を早く見てみたいのう」


 シズナが笑みの浮かんだ口元を隠しながら同調すると、全員の目が俺に向けられた。一部からかっているような表情が見え隠れしている者もいるが、全体としては本気で見てみたいという感じの視線である。ダンジョンの中では娯楽もないから、当然かもしれない。


「どうせ使うものだからつけてはみるが……。期待はしないでくれ」


 と答えて立ちあがるが、俺としてはあの金ピカ鎧をつけるのはかなり気が重い。


『アイテムボックス』から『神嶺の頂』を取り出す。ちなみにこの鎧、胴の部分だけでなく、腕につける籠手と、足をふとももまで守る足鎧までセットになっている。飾りのついたヘルメットがないのだけが救いだが、それ以外はまさにマンガで見たアレそのままである。


 スフェーニアとサクラヒメが手伝ってくれて、装着自体はそれほどの苦もなく完了した。というよりオーダーメイドであったかのように俺の体にピッタリと合う感じで、正直かなり複雑な気分になる。なお重量は数百キロありそうで、冒険者であってもこれを着て戦おうと思える者は少ないと思われるほどだ。


 とりあえず鎧姿になったところで、メンバーに見てもらったのだが……。


「ソウシさまのお姿は、まさに救世主としてふさわしいものだと思います。この鎧姿を見た者は、皆間違いなくソウシさまを英雄として(あが)めることでしょう」


 とフレイニルが両手を合わせて祈り始めたのは恥ずかしいが仕方ないとして、ラーニやスフェーニアが、


「確かにこれをソウシ以外がつけたらちょっと恥ずかしいかな~」


「これだけ立派な鎧ですと、中身が追い付かなければただの派手好きで片づけられてしまうでしょうね」


 などと評してきて、さらにシズナとサクラヒメが、


「オーズの感覚で言うと相当に傾奇者(かぶきもの)の装いということになるかのう。サクラヒメはどう思う?」


「それがしの目には、並の武人では着こなせぬ鎧に見える。ソウシ殿以外、身に着けられるものはいないであろうな」


 と気になる発言があり、カルマとマリアネも、


「いやあ、これは皇帝さんでも着られない鎧だねぇ。ソウシさんじゃなきゃ許されないよ、こんな恰好は」


「伝説の冒険者となるならこれくらいの見た目は必要だと思います。戦いの場にこの姿があれば兵の士気は上がる一方でしょう」


 とかなり気を使った言い回しをしてきて、ドロツィッテとマリシエールが、


「ふふふっ、この姿は高名な画家を呼んで絵に描かせないといけないね。この記録を後世に残すのがグランドマスターの務めだと確信したよ」


「絵として残すのは私も賛成ですわ。兄上に相談をしておきます」


 などと恐ろしいことを言ってくるに及んで、俺はこの鎧をすぐに脱ぎたくなった。


 最後はゲシューラの、


「鎧自体は神の名工の手によるものだが、残念ながらその名工は相当に変わり者だったようだな。外見があまりに独特すぎる」


 という言葉で締めとなったのだが、それはほぼ間違いなく誉め言葉ではなかった。


 その後『万物を均すもの』と『不動不倒の城壁』も取り出して構えてみたのだが、「バランスが取れて鎧の派手さが目立たなくなる」とこちらは好評であった。


 いや、それを好評と言っていいのかどうかは一考の余地はあるかもしれないが、そう考えないと俺の羞恥心が厳しいことになるのも確かだった。




 翌日、俺たちは前人未踏の、『龍の揺り籠』地下21階へと足を踏み入れていた。


 通路の床も壁も天井も半透明の乳白色をした石材で形作られていて、どことなく現実離れした装いのダンジョンとなっていた。もっとも俺の感覚ではダンジョン自体が現実離れしているのでそこまでの驚きはない。


「いやあソウシさん、未踏のダンジョンっていうと、『彷徨する迷宮』以外だと王都のAランク以来だね」


 カルマが嬉しそうに声をかけてくる。その首には、王都のAランクダンジョンで手に入れた髑髏(どくろ)の飾りがついたネックレス、『堕天使の悔恨』がかかっている。


神嶺(しんれい)(いただき)』を手に入れたので、同じ付与スキルを持った『堕天使の悔恨』が余ったのだが、昨夜の争奪戦(?)の結果カルマが装着することになったのだ。


『堕天使の悔恨』は、手に入れた時は皆見た目で敬遠していたと思うのだが、昨日のイビルアイズ戦でその強力さがわかったということだろうか。俺が身に着けていたものを欲しがっている……と考えるのはさすがに控えたい。


「未踏地域を調査するのが本当の意味での冒険になるのかもな。未知のモンスターも出るだろうし、気を引き締め直して進もう」


 俺はそう言って、『万物を均すもの』と『不動不倒の城壁』を両手に、先頭を歩きだした。もちろん身体には『神嶺の頂』を身に着けている。昨日は恥ずかしさしかなかったが、やはりダンジョンを進むとなると安心感が大きい。


 乳白色の幻想的な通路を進んでいくと、『気配察知』に反応があり、モンスターが現れる。


 竜人とでも言うのだろうか、体型は人間に近いのだが、頭部はドラゴン、背中にドラゴンの羽と尻尾を持ち、全身が鱗に覆われたモンスターだった。手には幅広の片手剣と円形の盾。身長は2メートルほどと人間に近いのだが、その威圧感は大型のモンスターを超えるものがある。『黄昏の眷属』にも似たような種族がいたが、こちらの目には知性がうかがえないので間違いなくモンスターだ。


「初めて見るモンスターですね。名前は『ウェアドラゴン』、複数のスキルを使う戦士型のモンスターだそうです」


 マリアネが『鑑定』結果を伝えてくる。残念ながら『鑑定』では、モンスターの使ってくるスキルまではわからない。


 15匹のウェアドラゴンは、剣にそれぞれ属性を付与し始めた。『付与魔法』を使えるらしい。さらに全身がうっすら光ったのも能力アップ系のスキルだろう。どうやら冒険者と戦うような感じになりそうだ。


「フレイは『後光』を。後はいつもの通りだ」


 俺が盾を構えて前に出る。同時にフレイニルの『神の後光』によって通路全体が光に包まれる。ウェアドラゴンは一瞬(ひる)んだように唸り声を上げたが、直後に『疾駆』スキルを使って一斉に突っ込んできた。


 カウンター気味に、後衛陣の魔法の槍が飛んでいく。5匹のウェアドラゴンが直撃を食らって吹き飛び、残りは丸盾や剣で魔法を弾いて防御する。なるほど体術もAランク冒険者級らしい。


 俺は『誘引』スキルを弱めに発動、5匹を自分に引き付ける。残り5匹は、ラーニ、カルマ、サクラヒメ、マリシエールの前衛陣と戦い始める。


 俺はメイスを一振りし、瞬時に2匹を肉片に変えた。残り3匹と斬り結んでみるが、なるほど1階に出てきた『オーガアデプト』を超える剣技を持つようだ。しかしその剣は、『不動不倒の城壁』はおろか『神嶺の頂』にすら傷一つつけられない。どうやらこの鎧も、見た目通り恐ろしいほどの防御力を持つようだ。


 俺がさらに1匹をメイスで叩き潰していると、その一瞬でマリアネがウェアドラゴンの後ろに回り込み、2匹の首を刈り取ってしまった。ほとんど動きが見えない、というより気配すらまったく察知できないのが恐ろしい。


 前衛陣もそれぞれ決着をつけていた。


 ラーニは相手の攻撃に合わせて瞬間移動スキル『空間跳び』を発動し、瞬時に横に回り込んで首を刎ねていた。


 カルマは真っ向から『虎牙斬』で両断、サクラヒメは分身スキル『繚乱』と連続攻撃スキル『舞踏』を使い手数で圧倒して倒していた。


 1対2で戦っていたマリシエールは、もはや相手の動きを操っているかのように立ち回り、紫電一閃両方のウェアドラゴンを斬り捨てた。


「う~ん、『黄昏の眷属』よりは弱いかな。でもモンスターとしてはすごく強いよね」


「だねぇ。でもこういう風に剣で戦ってくれる相手は、対人戦の練習にはちょうどいいかもしれないね」


 ラーニとカルマがそんな評を下したところで、ウェアドラゴンの分析は終わった。


 ドロツィッテがドロップした魔石や素材のツノを確認して、嬉しそうにメモを取っている。初めて見るモンスターということで情報収集に余念がないようだ。


「ソウシさん、あと2回くらい今のように戦ってくれないかな。『ソールの導き』は強すぎて、モンスターが能力を発揮する前に終わってしまうからね」


「わかった。戦い方を少し変えながらやっていこう」


 分析しながら戦うというのも危険ではあるが、冒険者ギルドのガイドに助けられた身としては、グランドマスターの情報収集を手伝わないという手はない。


 正直なところ、俺の『圧潰波』一発で決着をつけることも可能な相手ではある。しかしそれをしないのは、メンバーにも経験を積んでもらう目的があるからだ。


 楽をして進んでいくとどこかでしっぺ返しをくうというのは人生でもよくあったことである。少なくともダンジョンでそれを経験するのは避けたいところだ。


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