20章 『龍の揺り籠』、そして獣人の里へ 06
地下6階も、大理石のような素材で作られた、広い通路が続くダンジョンとなっていた。
まず出てきたモンスターは人魂型の『イヴィルスピリット』と、半透明の貴族風幽霊『カウントファントム』。これはAクラスダンジョンで出たものと同じだが、同時に出てくるところが異なっていた。
マリシエールが「以前入った時は2種類が同時に現れることはありませんでしたわ」と言うので、どうやらこれも『ソールの導き』スペシャルということらしい。
どちらも霊体系なので前衛組の出番は少ない。イヴィルスピリットは状態異常攻撃、カウントファントムは範囲攻撃魔法を使ってくるのだが、フレイニルの『昇天』一発でアンデッドであるカウントファントムは全滅、イヴィルスピリットも一瞬行動不能に陥ってしまう。
あとは残りの後衛組が魔法で片づけるだけなので、30体が一度に出てきても苦戦どころかただの作業に近い。
「フレイの真聖魔法はあまりに強力だね。霊体系のアンデッドは普通ならとても厄介なモンスターのはずなんだけど」
とドロツィッテがため息をつくほどである。
結局地下6~9階までは出現数が増えるだけで、モンスターの種類に変化はなかった。
なお霊体系モンスターのドロップアイテムは基本的に魔石だけなのだが、まれにカウントファントムが宝石を落とした。出現数があまりに多いのでその宝石も50個ほど回収でき、それだけでひと財産となるようだ。ちなみに女子は宝石に興味があるものだと思っていたが、ウチのメンバーはそこまで興味は示さないのが不思議である。もっとも拾ったのは原石なのでそこまで綺麗というわけでもないのだが。
地下10階はやはり以前にも戦った『エレメンタルガーディアン』が10体並んで出現する。炎のようなオーラをまとった巨人のモンスターで、赤いオーラの火属性、青いオーラの水属性、緑のオーラの風属性、黄色のオーラの地属性すべてが揃って出てくるのは初めて見る。
「なんか綺麗だね。飾っておきたいかも」
などとラーニがふざけたのが聞こえたのか、エレメンタルガーディアンは一斉にそれぞれの属性魔法を放ってきた。
しかしそれらすべては俺の『吸引』によって強引に軌道を変えられ、『不動不倒の城壁』の前に空しく散っていく。
後は後衛の魔法と前衛の突撃で片が付く。エレメンタルガーディアン自体はDクラスダンジョンのボスだったはずなのだが、『ソールの導き』のメンバーにかかればほぼ一撃で倒されてしまう。
結局3時間ほどでボス前の扉に到着する。1~5階より早かったのは、霊体系の駆逐がフレイニルのおかげであまりに早く済んだからだろう。
小休止の後ボス部屋に入る。
サッカー場なみに広い空間、天井も高さ20メートルはありそうだ。
黒い靄から出現したのは、7色のオーラをまとった巨大な鳥3体だ。以前にも遭遇したレアボスで、俺たちがつけた『レインボーフェニックス』が正式名称になったらしい。
「レアボス3匹とは大盤振る舞いじゃのう!」
シズナが興奮気味に叫ぶ。
「全方位への攻撃に注意だな。『吸引』は試すが、フレイは一応絶界魔法を頼む」
「はいソウシさま」
レインボーフェニックスは七色に輝く光線が武器なのだが、以前戦った時はそれを全方位にまき散らすとんでもない攻撃を見せていた。それが3体同時となると俺でも防ぎきれるかどうかはわかならい。
「全員飛び道具で攻撃。マリアネとサクラヒメは待機だ」
ラーニとカルマ、マリシエールは『飛刃』スキル持ちだが、マリアネとサクラヒメは持っていない。マリアネは鏢を投擲することはできるが、レインボーフェニックスとは基本遠距離戦になるので無理をして使わせることはないだろう。
フレイニルが『絶界魔法』で半透明の防壁を作ると同時に、レインボーフェニックスが宙に飛び上がった。
キィエエエェェッ!
奇怪な叫び声と共に、その大きな翼から7色に輝く短い光線が放射状に放たれる。高まった動体視力で見ると、その光線は鳥の羽の形をしているのがわかる。
俺は『吸引』を全力で発動、すべての光の羽を『不動不倒の城壁』で受け止める。さすがレアボス3体の攻撃を一身で受けるとそれなりの衝撃はくる。しかし俺の『鉄壁』『金剛壁』スキルで強化された『不動不倒の城壁』にダメージを与えることはかなわない。
「魔法参ります!」
スフェーニアとゲシューラの雷魔法が宙を裂き、ドロツィッテの光魔法がほとばしる。遅れてシズナが放つ魔法の槍が飛翔し、『多重魔法』スキルによって3本に増えたフレイニルの『聖光』が、レインボーフェニックスに突き刺さる。
「これで落ちてよねっ!」
さらにラーニとカルマ、マリシエールの『飛刃』スキルによる半月型の衝撃波が連続で翼に叩き込まれると、2体のレインボーフェニックスが地に落ちて消えていった。
残り一体はそれを見て高度をさらに上げ、翼を大きく広げて全方位攻撃の体勢をとる。
しかしその時、レインボーフェニックスの頭の上にいきなり人影が現れた。
それは『跳躍』『空間蹴り』そして『隠密』によって飛び上がっていたマリアネだった。マリアネは付与魔法で属性を載せた短刀『龍尾断ち』を、レインボーフェニックスの脳天に突き刺した。瞬間レインボーフェニックスは、力を失って地上に落ちてきた。『状態異常付与・極』の『即死』が入ったらしい。
20メートルも上から落ちてきたマリアネだが、高いステータスと『衝撃吸収』で着地はノーダメージだ。
「すごいなマリアネ。しかし『状態異常』はAランクのレアボスに一発で効くものなんだな」
「事前にダメージが蓄積された状態で急所に近い場所を一突きすると、『状態異常』が通りやすくなるようです」
いつもの通り無表情にそう答えるマリアネだが、どこか嬉しそうでもあった。
「ふふっ、マリアネはボスを一撃で倒せる力を手に入れたんだね」
ドロツィッテの言葉は、マリアネが力不足を理由に冒険者を一度諦めたのを知っているからか。マリアネは少し恥ずかしそうにうなずいている。
さて、レアボスなので出てくる宝箱はすべて金箱であった。
開くのはラーニとシズナとマリアネ。出てきたのはそれぞれ『虹の羽』『大精霊の羽衣』『妖精王の籠手』という装備品だった。
『虹の羽』はそのまま虹色の羽の形をした髪飾りである。『全属性+1』という、攻撃にすべての魔法属性を付与するアクセサリで、ドロツィッテが「全属性付与なんて多分初めて見つかった装備品じゃないかな」と目を輝かせていた。誰に持たせるかは少し悩んだが、現状で属性攻撃ができないのはカルマとサクラヒメとマリシエールの3人、カルマが「それはアタシの趣味じゃないねえ」と言って辞退したので、マリシエールと比較して武器のランクが一段低いサクラヒメに持たせることにした。
『大精霊の羽衣』はうっすらと光を帯びた透明な羽衣であった。『精霊共鳴+1』『全属性魔法耐性+3』の付与効果があり、前者の効果からシズナが身に着けることにすんなりと決まった。これでシズナの呼び出せる『精霊』が5体に増え、後衛の守りがますます堅くなる。
『妖精王の籠手』は『翻身+3』『伸刃+3』『大切断+1』という剣士用の籠手であった。見た目がかなり華奢で、ラーニとカルマとしては性能はともかく見た目が好みではないらしかった。ということで自動的にマリシエールのものとなる。
「このような『名付き』の武具を、パーティに入ったばかりのわたくしがいただいてよろしいのでしょうか?」
「そういうのは関係ないさ。もし気になるならその分働いてもらえばいいだけだ」
「ふふっ、そういうことなら遠慮なくいただきますわ。しかし国宝級の武具がこんなに簡単に手に入るなんて、『ソールの導き』は本当に素晴らしい、そして少し怖いパーティですわね」
といたずらっ子のように笑いながら、マリシエールは早速『妖精王の籠手』を装着して具合を確かめている。
ラーニがその姿をニヤニヤしながら眺めているのは、久しぶりになにか言いたいことがあるからだろうか。もっともマリシエールに関しては俺との関係はほぼ確定みたいなところがあるので、ラーニもそれ以上はなにも言うことはなかった。
その後俺たちはセーフティゾーンに移動し、そこで一日目のダンジョン探索を終えることにした。




