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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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19章 『黄昏の眷族』を統べる者  19

「余はアルデバロン帝国皇帝、アイネイアース・ボレアリスである。まずは今日、ここに集まってくれた皆に、皇帝として礼を言いたい」


 張りのある美声は魔道具を通して拡声される。


「諸君も知っての通り、この国、いやこの大陸は未曽有の危機にさらされている。鋭いものはすでに感じていることであろうが、北から『黄昏の眷族』が、大群となってこの大陸を侵略しようと歩を進めているのだ。その数およそ3000。これは恐ろしいほどの数である」


 そこで冒険者たちの間にグッと緊張が走る。特に『黄昏の眷族』と戦ったことのある人間には、3000という数は絶望的に感じられるはずだ。


「しかし今、ここに大陸中の強者が集っている。研鑽(けんさん)を重ね、自らを高めた勇士たちが揃っている。諸君らがいれば、この災厄ともいえる事態をも必ず乗り越えられる。私もその場にて、諸君らが歴史に刻むであろう、この戦いを見届けるものである」


 皇帝陛下自ら戦いの場に赴くというのは、士気の高揚には必要なことなのだろう。ただ多くの側近は反対したはずだ。彼らの胃の痛みを思うと少しだけ同情してしまう。


「なお、当然のことながら、この戦には我が妹マリシエールも先陣を切って戦うことになる。そしてそのマリシエールに勝ち、武闘大会で優勝をしたオクノ伯爵も同様である」


 そこで親衛騎士の一人がマリシエールに声をかけた。それを受けてマリシエールと俺は、皇帝陛下の立つ壇上に上げられる。


 皇帝陛下は笑顔で俺たちを迎え、そして自らの前に立たせた。


「彼らの力はすでに知っている者も多いと思う。マリシエールの力は周知のとおりであり、単騎で複数の『黄昏の眷族』を討伐できる冒険者である。そしてこちらのオクノ伯爵は、それに勝る力を秘めた、英雄とも言える人物。彼は伝説の冒険者ミドガルトが持っていたと言われる伝説のスキル『将の器』の保持者である。すでに感じているものも多いと思うが、彼のスキルによって諸君らの力はすでに高められている」


『将の器』スキルの話をすることはすでに打ち合わせ済みである。まあすでに多くの冒険者には検証の時に伝えてあるし、士気を高めるためとなれば仕方ない。


 この話を聞き、冒険者の集団が大きくざわついた。初めて聞く者にとっては驚きの話であろうし、実際自分がその影響下にあり、しかもそれが生き死ににかかわるとなれば騒ぐのは当然だろう。


「さらにオクノ伯爵のパーティには、アーシュラム教の次期聖女とも言われるフレイニル様も同行している。この戦、神も我らの味方である。必ず勝つことができるであろう。我らの家族、我らの友人、我らの子孫に永久の平和を約束するため、共に戦おうではないか!」


 最後の宣言とともに、皇帝陛下は腰の剣を抜き、天に振り上げた。マリシエールも『運命を(ささや)くもの』を抜いて振り上げたので、俺も『アイテムボックス』から『万物を(なら)すもの』を取り出して同じようにした。見た目のバランスが悪すぎるが、これはこれで冒険者たちのツボに入ったようだ。


 冒険者たちも武器を抜き、一斉に振り上げた。闘技場の決勝戦にも勝る大音声が平原を一時支配する。


 さて、これであとは戦うだけだ。不思議と負けるかもしれないなどという考えはまったく浮かんでこない。これもスキルのせいなのだとしたら、それには感謝しないとならないだろう。


 前世の俺だったら、たぶん今強烈な下痢に襲われていただろうからな。




 冒険者部隊を先頭にして、全軍が進撃を開始した。


 会敵予定の場所までは一日半、そこで陣を張り、レンドゥルム率いる『黄昏の眷族』を待つことになる。


 なお、領都の城壁に()って戦わないのは、『黄昏の眷族』に飛行できる者がいるからだ。直接街中に降下されれば一般市民に被害が及ぶことになる。


「う~ん、なんかもうソウシって伝説の冒険者に片足つっこんでるよね。さっき皇帝陛下も伝説の冒険者を引き合いに出してたし、これで今回活躍したら完全に伝説になりそう」


 行軍のさなか、両手を頭の後ろに組みながらラーニがのんきにそんなことを口にした。


 隣を歩いていたカルマも腕を組みながらしたり顔でうなずく。


「そうだねえ。多くの人間の前であそこまで言われたら皆それは意識するだろうね。アタシたちも負けないように活躍しないといけないよ」


「『黄昏の眷族』も、今なら一対一で戦えると思うんだよね。まだ一回しか戦ったことないし、今回はいい腕試しになりそう」


「ラーニは言うことが派手じゃのう。妾はさすがにまだ不安があるのじゃが。サクラヒメはどうじゃ?」


「それがしはあのザイカルという『黄昏の眷族』との戦いが記憶にあり、恐怖を感じないと言えば嘘になる。あの頃よりはるかに強くはなっていると思うのだが、一度戦ってみなければその感情はなくならないと思う」


 言われてみれば、サクラヒメは『至尊の光輝』に所属していた時、一度『黄昏の眷族』と戦っているのだった。ザイカルとの戦いも随分と懐かしく感じるが、俺が『英雄』なんて呼ばれ始めたのはそれからのことだった。


「今のサクラヒメなら大丈夫だろう。『黄昏の眷族』といっても、こちらに単独で渡ってくるのは腕自慢が多いらしいからな。これから当たる『黄昏の眷族』の多くはザイカルよりは弱いはずだ」


「それならいいのですが。しかしそれはそれでつまらぬ気もいたす」


「その心意気があるなら問題なさそうだな」


 俺が笑いかけると、サクラヒメは力強くうなずいた。


 話が一段落したところで、スフェーニアが俺の隣を歩くフレイニルに声をかけた。


「ところで気になったのですが、フレイは次期聖女と呼ばれるのは問題ないのですか? 事前に名前を出すという話はあったのでしょうけれど」


「はい。この戦いがそれで有利になるのなら私は構いません。もちろんアーシュラム教の聖女になるつもりはありませんが」


「フレイはソウシ教の聖女様だもんね~」


「そっ、そういうことではありませんが、私がお仕えするのはソウシさまだけです」


 ラーニのからかいは冗談と言うには外聞が悪すぎるのだが……フレイニルの言葉も他人に聞かれたらかなり危険かもしれない。


 スフェーニアは面白そうに笑いつつ、俺に目を向けてきた。


「ところでソウシさん、今回はどう戦うおつもりですか?」


「それなんだがな、少し前に話をした通り、俺は単独で突っ込んでいくつもりだ。だから皆には、カルマとスフェーニアを中心にして他の冒険者たちとともに戦ってほしい」


「やはり一騎打ちを狙うのですね」


「どちらにしろレンドゥルムという奴とは戦わなくてはならないようだからな。だろうゲシューラ?」


「うむ、あの者は決して自分を曲げぬ。完全に滅するしかない。そしてそれができるのはソウシだけだろう」


「複数で当たるということは考えないのですね?」


「俺の力をすべて解放するにはまわりに人がいない方がいいんだ。まあなんとかするさ」


 本当に不思議なことに、俺には微塵も気負いがなかった。別に安心させようとして普通を装ったわけでもなく、自然と平常通りになってしまう。いやむしろ、戦いが近づくにつれて自分が落ち着くのがわかる。


 そんな妙な感覚に浸っていると、マリアネが俺の横に来てボソッと言った。


「ソウシさんのお力はよくわかっていますが、決して一人ではないことはお忘れなく」


「もちろん。それを忘れたことはないし、これからも忘れることはないさ。自分一人でなんでもやれるなんて考えるほど俺も若くはない。今回はたまたまそうした方が早いっていうだけだ」


「それならいいのです。私たちは全員、ソウシさんと共にあります」


 見ると、皆が俺のほうを向いてニヤッと笑ったりうなずいたり、サムズアップをしたりしている。


 なるほど仲間がいるから、冒険者は恐ろしいほどの力を持ちながらも人間でいられるんだな。ふとそんなことを感じて、俺は今までの出会いに感謝をするのであった。

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― 新着の感想 ―
将来的には軍神として語り継がれるだろうしソウシ教の巫女として一緒に語り継がれてそう
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