19章 『黄昏の眷族』を統べる者 17
『ふふふっ、もうわたくしではソウシ様には敵わないかもしれませんわね。しかしあと少し、お付き合いいただくかもしれません』
どこかから、ライラノーラの声が響いてくる。
「その時は話の続きをお願いします」
『心得ましたわ。それと次回はもうスキルは差し上げられないかもしれません。その代わりソウシ様の願いを聞いて差し上げましょう。わたくしができる範囲で、ということにはなりますが、考えておいてくださいませ』
「わかりました」
声が去っていくと、メンバーたちが近づいてきた。俺がいなくてもデュラハンはもう完全に相手にならないようだ。本当に強いパーティになっていると、つくづくと実感する。
「ソウシさま、お疲れさまでした。最後は手伝えず申し訳ありません」
フレイニルが『命属性魔法』で回復をしてくれる。身体が軽くなっていくのを感じるので、思ったよりもダメージを受けていたようだ。
「いや、ライラノーラは俺と一対一でやりたかったようだ。試練というならその上で乗り越えないといけないだろうし、これでよかったんだと思う。むしろ次はこっちから一対一を望んでもいいかもしれない」
「そうなのでしょうか。ソウシ様お一人に負担をかけるのは、私としては許せないというか、したくないことなのですが」
「ありがとうフレイ。でもあれだけの数のデュラハンと戦ってるんだから、皆に負担がないということはないさ。普通なら何回全滅しているかわからない相手だと思うぞ」
「まあたしかにそうなんだけどねぇ。ただライラノーラがソウシさんだけに興味があるっていうのもちょっと気になるかもね」
カルマが少し意味深な言い方をすると、スフェーニアも少しだけムッとした顔になった。
「そうですね。二人だけでお話をされているのはなにか置いて行かれたような気がしますし。それにソウシさんには私たちのことを頼って欲しいという気持ちもありますから」
「でもスフェーニアはソウシの戦ってる姿を見る方が好きなんじゃないの?」
ラーニの言葉に、スフェーニアは「ええまあ、それもたしかです」と横を向く。
「しかしあのライラノーラという存在、大変興味深かった。再び会えるというなら次は我も話を聞いてみたい。我ら『黄昏の眷族』についても詳しく知っているようだったのでな」
「私もまだまだ聞いてみたいことはあるね。ソウシさん、もし次に彼女に勝つことができたら、なんとかもっと話ができるように取り計らってくれないかな」
ゲシューラとドロツィッテがそんなことを言ってくるが、俺としても彼女のする話には興味がある。
ただ、今回の感じだと、話ができるのは戦闘前だけになるのではないだろうか。さきほどの戦いを見る限り、彼女は致命的なダメージを受けても降参はしてくれないようだからな。
「まあ、なんとか頼んでみよう」
と答えたところで、新たなスキルが身体に入ってくる感触があった。
俺が得たのは『圧潰波』というスキルだった。『衝撃波』の上位スキルで、マリアネによるとほぼ伝説に近いスキルらしい。ドロツィッテがとても興奮して、すぐに見せてくれと迫ってくるくらいだった。もっとも『衝撃波』の強力版というだけで、見て面白いものでもなかったが。
フレイニルは『絶界魔法』を得たが、これも『結界魔法』の上位スキルらしい。『結界魔法』と違うのは魔法のドームではなく壁を作り出す点だが、非常に強力な防御魔法で、レベルが上がればカオスフレアドラゴンのブレスすら防ぎきるそうだ。これもやはり今使い手がいない魔法のようだ。
ラーニは『空間跳び』というスキルを得たのだが、これはちょっと驚いた。言ってしまえば極短距離を瞬間移動できるスキルだ。今は1メートルくらいしかできないが、レベルが上がると距離が伸びるらしい。さすがに障害物をすり抜けることはできないようだが、それでも凄まじいスキルである。もちろんこれも伝説級で、ドロツィッテの鼻息が荒くなっていたのは言うまでもない。
スフェーニアはなんと『雷属性魔法』を得た。彼女はゲシューラに聞いていろいろ研究をしていたようなのだが、それがスキルとして正式に身についたという形なのだろうか。なんにしろ史上初のスキルらしく、ドロツィッテが大変なことになっていた。雷魔法の有用性は言うまでもない。
マリアネは『状態異常付与』の上位スキル、『状態異常付与・極』を得た。状態異常を与えやすくなるほか、新たに『石化』『即死』の付与が可能になった。『状態異常付与』の強みは物理的に有効なダメージが入らなくても蓄積によって効果がでることで、相手がどれだけ防御に優れていても逆転可能なところにある。ただ『ソールの導き』の場合俺の攻撃が効かない相手はほぼいないので、強みを活かす機会は少ないかもしれない。
シズナは『精霊獣化』という変ったスキルを得たようだ。シズナの召喚する『精霊』は、現在人型のものに限られるが、これを獣型にすることができるらしい。『精霊』は攻守に優れた前衛ではあるが機動力に難がある。それを解消し、攻撃型の『精霊』にすることができるようだ。今の『精霊』はかなり強力で、正面からデュラハンと戦えるほどなのだが、それがさらに強化されるとなると、シズナはワンマンアーミー化するかもしれない。
カルマは『虎牙斬』という、必殺技の名前のようなスキルを得た。そのイメージ通りまさに必殺技的なスキルで、大量の体力を消費して強力な斬撃を繰り出すスキルだ。「これでアタシもドラゴンの首を一発で落とせそうだよ」と言っていたが、それがちょっと羨ましかったのは秘密にしたい。
サクラヒメは『繚乱』というスキルを得たようだ。これはなんと分身が出現するスキルで、発動すると半透明のサクラヒメが現れ、ほぼ自律して戦ってくれるというものだった。たしかにスキルはこの世の物理法則を無視するものばかりだが、さすがにこれには皆驚いた。言うまでもなく伝説級のスキルで、ドロツィッテなど涙を流していた。
ゲシューラはやはりスキルは得なかったようだが、やはり魔法の力がかなり高まったのを感じるという。「今なら雷魔法を複数一度に放てそうだ」というのだから相当だろう。天才的な発明家であることも考えると、彼女は彼女で恐ろしいほどの存在である。
そしてドロツィッテだが、『光属性魔法』というものを得たようだ。これも伝説的なスキルで、魔法としては光源を作り出したり、いわゆるレーザー光線のようなものを出すことができるようだ。レーザーに関しては試し撃ちをしてもらったが、フレイニルの使う『一条の聖光』の物理効果強化版のような感じだった。重要なのは精密な操作が可能なことで、ゲシューラ曰く「魔道具の作成に使える魔法かもしれぬ」ということだった。ドロツィッテがレーザー旋盤になる日がくるのだろうか。なおこのスキルを得たときあまりの驚きにドロツィッテは一瞬気を失っていたようだ。
最後マリシエールだが、『凶断ち』という、少し物騒な名前のスキルを得ていた。攻撃スキルなのかと思ったらそうではなく、自分とその仲間に降りかかる災難を無効化するという、彼女の特異スキルである『告運』と関係がありそうなスキルのようだ。ただそれがどのような形で現れるのかはよくわからないとのことで、今後の検証が待たれるところだ。もちろんこれも初めて確認されたスキルである。
さて、ともかく三回目の『彷徨の迷宮』を踏破したことで、『ソールの導き』のメンバーはついに伝説的なスキルを得るに至った。
ラーニが嬉しそうに「これで伝説の冒険者にまた一歩近づいたわね!」と言っていたが、力というものはどう使うかで評価も変わるものだ。そう考えると、俺たちはむしろこれから厳しく世間から見られるようになるのかもしれない。
とはいえ今考えるべきは『黄昏の眷族』との戦だ。この大陸にとっても未曽有の戦いとなる。まずはここで俺たちの力を示さねばならないだろう。




