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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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18章 帝都 ~武闘大会~  48

『異界の門』から現れた100体を超える小型『悪魔』。


 マズいのは一部の飛行型が観客席の方に顔を向け、口を開く動作を始めたことだ。魔法を放つ予備動作、このままだと観客たちに大きな被害が出てしまう。まだ半数ほどが逃げ遅れて残っているのだ。


「フレイニル、もう一度『後光』を!」


「はいソウシさま!」


 再び周囲が光に包まれる。小型悪魔たちが一瞬動きを止め、その隙に冒険者たちが一斉に攻勢に出た。しかし飛行型までは十分に手が回らない。飛行型は体勢を立て直し、再度魔法を撃つ動作に入る。


 ラーニやカルマたちが『飛刃』を放ち、スフェーニアやシズナ、ゲシューラが魔法の槍を放って飛行型を撃ち落とす。もちろん他の魔導師も次々と撃ち落していくが、飛行型も虫型も、『異界の門』から次々と湧き出してくる。乱戦模様になると俺の『衝撃波』も使えない。仕方ない、ここは盾に徹するか。


「魔法は俺がすべて引き付ける!」


 叫ぶと同時に『誘引』と同時に『吸引』スキルを全力で発動する。近場にいる小型悪魔は一斉に俺の方に向き直り、口を開いて魔法の槍を放ってくる。飛行型も同じだが、観客席に向けて放たれた魔法も、俺の『吸引』スキルによって強引に軌道を変えられ、俺の方に向かって飛んでくる。


 数百を超え、千に近い火や氷や岩の槍が、『不動不倒の城壁』に吸い込まれるようにして命中する。一発一発は取るに足りないが、それが十数発同時に着弾、しかもマシンガンのように連続で撃ち込まれるとなるとなかなかの衝撃だった。


 だが俺を揺るがすには足りない。マリシエール殿下を始め、何人かの冒険者がこちらに来ようとしていたが、俺が微動だにしないのを見て目を丸くし、そしてなにか納得したような顔でそれぞれの獲物に向かっていった。


 意識や攻撃が逸らされた小型悪魔は、あっという間に冒険者たちに駆逐されていく。このあたりはやはりAランク、全員が超一流の戦士である。


 だが当然、悪魔の出現はこれで終わりではなかった。イスナーニの言葉を考えれば、むしろこれからが本番だろう。


 次に出て来たのは、6本足のケンタウロス型だった。最初の一体は出現と同時に上半身を『衝撃波』で吹き飛ばしたが、ケンタウロス型は体高が10メートル近いため、多量の肉片が飛び散って危うく観客席に怪我人を出すところだった。まさかこのような形で俺の武器が抑え込まれるとは。


 その後さらに8体のケンタウロス型が飛び出してきて、やはり冒険者たちとの戦いになる。うち一体はマリシエール殿下が単騎で討伐、『ソールの導き』のメンバーも2体を片付けた。残り5体も手伝いたいが、さらに『異界の門』から大きな気配が感じられ、俺たちはそちらに意識を向けざるをえなかった。


『異界の門』から2本の腕が突き出してきた。それは恐ろしく巨大な腕だった。手のひらだけで3メートルはあるだろうか。まさに巨人の腕である。


 しかも驚いたことに、その巨大な腕は2本にとどまらず、次々と『異界の門』から生えてくるように飛び出してきた。


 10本を超える巨人の腕はしばらく宙を掴むようにして手を動かしていたが、掴めるものがないとわかると『異界の門』の淵に手をかけた。そして『異界の門』をさらに押し広げるようにして、『門』の奥にある本体を、こちらの空間に引っ張り出そうとした。


 ぬう、と穴から現れたのは、巨大な灰色の頭部。のっぺりした、禿頭の、表情のない人間の頭である。頭頂からあごまでは10メートル以上あるだろうか。あまりに規格外な巨人の頭だ。


 そしてそいつは、さらに自分の身体を穴から出そうとしたようだ。だがその身体は『異界の門』より大きいらしく、つっかえて出てこられない。巨人の顔が醜悪に歪み、「グ、ギ、ギ、ギ」と、金属音の混じった怒りの声を響かせる。


「オクノ伯爵様、これはどうするべきでしょうか」


 あまりに現実離れした目の前の光景にしばし呆気に取られていたマリシエール殿下だが、ようやく気を取り直したように剣を構え直した。


「とりあえず『異界の門』の奥へと帰ってもらいましょう。『衝撃波』で一撃与えてみます」


 俺は『ソールの導き』と殿下を下がらせ、巨人の顔面の前に立った。俺の姿を認めてか、巨大な顔が無表情に俺を見下ろしてくる。そしていきなり口を開いてきた。魔法発動の予備動作だ。


「シィッ!」


 だが俺の方が早い。この角度なら、もし顔面が砕けても、すべて『異界の門』の奥に吹き飛ぶだろう。俺は渾身の力を込めてメイスを縦に振り下ろした。


 不可視の『衝撃波』は、その力のほとんどを巨大な顔面に叩きつけた。顔面の中央部が陥没し、そしてそのまま巨大な頭部は穴の奥に吹き飛ぶようにして消えていった。


 だが、『異界の門』の淵にかかっている10数の手はまだ健在だ。つまり本体までは吹き飛んでいない。


 俺が構えを解かないでいると、『異界の門』の周囲から異様な音が響き始めた。ギッギッという、錆びた引き戸を無理に開こうとするような耳障りな音だ。


「ねえソウシ、『異界の門』が広がってない!?」


 ラーニが叫ぶ。


 確かに巨人の手が、『異界の門』を強引に広げようとしているようだ。そしてそれは、わずかずつだが成功しつつあった。見る間に『異界の門』の幅が広がっていくのがわかる。


「手を攻撃しろ!」


 俺の指示と同時に、フレイニルとスフェーニア、シズナとゲシューラの魔法が飛ぶ。遅れてラーニとカルマ、マリアネとサクラヒメが『疾駆』で突っ込み、手や指を切りつけて切断していく。


 俺も走っていって2つの手を叩き潰した。これで残るは上の方にある3つの手だけ。しかしその手に急に力がこもるのがわかった。


「門の前から離れるんだ!」


 再度の指示に、(ごう)も遅れることなくメンバーは散開する。


 一瞬遅れて、『異界の門』から、巨人の頭が飛び出した。しかも今度は、頭だけでつかえることなく、ずるりとその後ろの本体までが這い出てきた。


「なんという醜悪な悪魔! 身震いがしますわ!」


 マリシエール殿下が眉を寄せて顔をしかめる。


 帝国最強の冒険者がそう言うだけの、異様な悪魔がその姿を闘技場にさらしていた。


 巨大な頭部、その首の周りから十数本の腕が生えている。そしてその後ろは、まるでツチノコのような、ずんぐりとした蛇のような身体が続いていた。その全長は恐らく70~80メートルはあるだろうか。


 さらに不気味なのは、身体を覆う鱗に見えるものがすべて人間の顔であることだ。つまり数百数千という顔がその身体を覆っているのだ。

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