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4章 新たな街へ  03

 ガシに勧められた宿の部屋を無事確保できた俺は、エウロンの冒険者ギルドへと向かった。


 エウロンの冒険者ギルドは中央通りの城門よりに建つ4階建ての大きな建物で、ギルドがかなり優遇されていることが分かる立地であった。


 開放されている広い入り口を入ると、ロビーの様子はトルソンのギルドをそのままスケールアップしたような感じである。


 入って右にカウンター、左に掲示板、そしてロビーには10組ほどの冒険者パーティがたむろしている。冒険者パーティの見た目はそれぞれだが、中には明らかに手練れと見えるパーティもいる。


 この町の近くにはCクラスのダンジョンまであるのでCランクパーティもいるはずだ。大討伐の時に来ていた『フォーチュナー』もここの所属らしい。


 彼らは特に俺に注意を払うこともしないで、それぞれ談笑したりしている。変に絡まれるよりよほどありがたい。


 俺はとりあえず手近な空いているカウンターに向かった。


「すみません、素材の買取をお願いします。あとガイドの閲覧許可が欲しいのですが」


 俺が目の前に行ってもそっぽを向いていた若い受付嬢に声をかける。


 その受付嬢は俺の顔を横目でちらりと見ると、「初めての顔ですね」とつぶやくように言った。


「ええ、ここに来るのは初めてです。Eランクのソウシと申します」


「Eランクのソウシさんですね。それで買取の素材は?」


「こちらです」


 俺がムーンウルフの毛皮を出すと、それまで眠そうな目をしていた受付嬢の表情が少しだけ変わった。


「これは……ムーンウルフの毛皮ですか? どこでこれを?」


「トルソンとエウロンの間でたまたま討伐できました」


「魔石はありますか?」


「実は魔石のかわりにオーブが出たのですが、それは私が使ってしまいました」


「オーブの抜け殻は?」


「それならここに」


 実はスキルオーブは使っても虹色の輝きが失われただけで、水晶の玉のようなものは残ったのだ。


 受付嬢はそれを手にすると「確かに」と言ってカウンターの上に置いた。


「毛皮とこのオーブの抜け殻を買い取ります。よろしいですね?」


「お願いします」


 合わせて800,000ロムになった。相場がよく分からないのでなんとも言えないが、決して安くはない買取額だろう。レアモンスターの毛皮だからだろうか。どちらにしろラッキーな臨時収入である。


「ガイドは2階にありますのでご自由にどうぞ。それとスキルオーブは同じモンスターから出たものは重複して使用しても意味がありませんので、そのまま買取に出してください。ムーンウルフの『翻身』はレアスキルなので最低でも10,000,000ロムにはなります」


 受付嬢が俺を値踏みするような目で見ながら言った。正面から見ると青髪をショートボブにしたかなり美人な受付嬢である。


「はあ、分かりました。ありがとうございます」


 俺はそう答えてガイドを見に2階へと上がっていった。階段の途中で「いっせんまんロム?」となったのは言うまでもない。




 その夜、俺は宿で飯を食うと、自分の部屋のベッドで横になった。


 一泊13,000ロムということでトルソンの宿に比べると高級な宿だ。部屋も多少は広く、ベッドも少し柔らかい。


 さて、考えるべきはこの町で生活パターンをどう構築するかだ。


 できれば早朝トレーニング、ダンジョン探索、残り時間トレーニングのルーティンはそのまま続けたい。


 問題なのはトレーニングする場所である。この町はトルソンに比べると広く、また城門も早朝は閉まっているためちょっと外に出てトレーニングという訳にはいかない。


 かといって通りでダークメタル棒を振り回していたらさすがに不審者だと思われて面倒なことになるだろう。


 ガイドによるとここの冒険者ギルドには訓練場が併設されているようなのだが、新参でEランクの俺が使っても大丈夫かどうかは微妙なところだ。


 まあ明日一度顔を出してみるか。できれば早朝も使えるといいんだが。


 ダンジョンに関しては町の近くにFクラスが1、Eクラスが2、Dクラスが2、Cクラスが1あるらしい。


 明日はFクラスに行ってスキルを取ってしまいたい。その後Eクラスの攻略に移ろう。


 それと新しく身につけた『翻身』スキルも試さないとな。まさか一千万ロムの値がつくレアスキルだとは思わなかったが、やはり思った通り強力なスキルなのだろう。


 そんなことを考えているうちに、俺は眠りに落ちていった。




 翌朝一番で冒険者ギルドへ向かった。


 ロビーに入るとまだ誰も来ていない。カウンターにいるのも昨日相手をしてくれた無愛想な美人受付嬢だけだ。


「済みません、こちらの訓練場は使うことができますか?」


 俺が声をかけると、やはり横目で俺を見て「ええ、自由に使えますよ」とつぶやいた。


「手続きなどは必要ですか?」


「いえ、基本的にいつでも自由に使っていただいて構いません」


「それは例えば日が昇る前とかでも大丈夫でしょうか?」


 その質問にはさすがに驚いたのか、受付嬢はこちらを向いた。


「なににお使いになるんですか?」


「もちろん鍛錬です。いつも明け方前からやっているものでして」


 受付嬢は疑わし気に俺を見ていたが、溜息をついてカウンターから出てきた。


「ご案内します」


 受付嬢についていくとギルドの建物の裏手に案内された。そこはちょっとしたグラウンドのようになっていて、端には解体場らしきプレハブが建っていた。


「こちらは大物のモンスターの素材などが運び込まれることもありますが、基本的には常時開放しています。ギルドが閉まっている時はあちらから出入りしてください」


 受付嬢が指さす先には簡単な門があり、その向こうは別の通りにつながっているようだ。なるほどこれはありがたい。これでトレーニング場の件はとりあえず解決した。


「ありがとうございます。早速使わせてもらいます」


 俺がお辞儀すると、受付嬢は「どうぞ」と行って建物に戻っていった。無愛想だがきちんと仕事はするタイプなのかもしれない。


 早速俺はいつものトレーニングを始めた。ダークメタル棒を駆使して、身体能力とスキルを伸ばすように意識しながら繰り返し運動を行う。


 『翻身』スキルも試したが、思った通り物理法則を無視して()()()()()というとんでもないスキルだった。


 反復横跳びをしてみると、明らかに違和感があるレベルで体重移動がスムーズに行える。もっともその効果はまだ弱く、ムーンウルフの動きを再現するにはレベルを上げることが必要なようだ。


 さらに驚いたのが、このスキルは武器の振りにも適用されるというところだ。


 メイスを振り切って、そこから切り返す時の()()が明らかに軽減されている。レベルが高まればマンガのキャラクターのように凄まじい連打を繰り出すこともできるようになるかもしれない。


 一通りの動きを試し、実戦でも使えそうなところまで身体を慣らした後、俺はダンジョンへと向かうことにした。

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