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1章 転移、そして冒険者に  02

 冒険者ギルドの一階は広めのロビーになっていた。


 左に掲示板があってその前に冒険者のパーティが2組、右側にカウンターがあって数人の職員が立っている……いつかやったゲームの雰囲気そのままである。


 俺はとりあえず板張りの床の上をカウンターに向かって歩いていった。


 近づいていくと職員のうち若い女性……どう見ても10代後半……の職員が俺の応対をしてくれた。


「初めまして。どのようなご用でしょうか?」


「初めまして。私はオクノ・ソウシと申します。ええと、町の人にここに来るように言われて来たのですが……」


「あ、もしかして『覚醒』したばかりの方ですか?」


「すみません、その『覚醒』というのもよく理解しておりません」


「分かりました、それでは冒険者システムについて最初から説明をいたしますね。こちらへどうぞ」


 流れるように案内され、奥にある椅子のあるカウンター席へと移動させられる。


「ええと、オクノ・ソウシさんでしたね。姓はソウシの方でよろしいですか?」


「あ、オクノが姓です」


 この世界、いやこの国か? ここは姓が後ろにくるスタイルらしい。


「ではオクノさん、こちらの板を握ってください」


 言われるがままに、職員……受付嬢が取り出した細長い金属の板を握る。


 すると板の一部が薄く赤色に発光した。


「はい、確認が取れました。オクノさんは『覚醒者』で間違いありません。『覚醒者』は基本的にこの大陸にあるすべての国で『冒険者』として活動する義務があります」


「はあ……」


「あ、すみません。『覚醒』についてもご存知ないようですので、最初から説明しますね」


 そう言って、彼女は説明を始めた。


 その説明をまとめると、


・『覚醒』とは、普通の人間が 『スキル』という強い力を使えるようになることである。


・『覚醒』の発生条件は一切分かっていない。男女関係なく低い確率で発生し、多くは15~25歳の間で発現する。


・『覚醒』した人間は、必ず『冒険者』にならなければいけない。


・『冒険者』とはモンスターと戦うことを生業とするものであり、多くは『ダンジョン』で活動する。


 という感じであった。


 語弊(ごへい)を覚悟で言うならば、要するに俺はロールプレイングゲームのプレイヤーキャラクターとしてこの世界に放り込まれたということらしい。


 俺はひとまず自分の置かれた状況を呑みこみつつ、受付嬢に質問をした。


「自分は着のみ着のままで放り出されたのですが、とりあえずどうすればいいんでしょうか?」


「はい、そういった方も多いので、ギルドでは資金の貸し付けも行っております。返済はオクノさんが得た報酬から一定額を引く形で行われますが、それでよろしければご用命ください」


「なるほど、助かります」


 どうやらはるか昔にやったゲームの勇者の子孫よりは扱いがいいようだ。


 俺はその受付嬢に色々と質問をして『冒険者カード』なるものを受け取り、最後に資金を借りてギルドを後にした。



 



 その日は冒険者ギルドにあった初心者ガイドに従って道具を買いそろえ、この町(トルソンという名だとか)で二つあるうち安い方の宿に泊ることにした。


 というかギルドで金を借りられなかったら良くても馬小屋泊まりだったので助かった。


 宿の部屋はベッドが一つあるだけの簡素なものだったが、野宿よりははるかにマシだろう。町の外は野犬や賊の類も出るらしいし。


 俺は硬いベッドに腰かけ、今日買った道具を確かめていた。


 背負い袋、短刀、水筒、携帯食、タオル代わりの布、そして片手で扱える長さの棍棒と、やはり片手で扱える小さな盾、後は半分ヘルメットのような帽子。


 いずれも俺からすると骨董品にすら見えるレベルで古めかしい造りの道具だが、この世界ではこれが普通なのだろう。


「しかし武器……か」


 言うまでもなく、現代日本人として本物の武器など手にしたことはない。


 例えば棍棒(メイス)……武器屋の親父さんに相談したら初心者はこれが一番だと渡されたものだが、確かにこれで思い切り殴られればただでは済まないという感じがする。


 逆に言えば、これから俺はこの武器で未だ見ぬモンスターを殴って殺さなければならないわけで、こうやって落ち着いて考えるとどうにもならない不安感が襲ってくる。


 もっともそれを言ったらこの世界に飛ばされたことそのものが不安の種ではあるが。


「今日のところは飯を食って寝るか」


 俺は道具を背負い袋にしまい、袋を持って宿の一階の食堂へ下りて行った。


 食堂は6割くらいの客の入りだった。


 この町の宿に泊まるのは行商人か冒険者がほとんどだそうだが、見た感じ半々というところだろうか。


 特に冒険者は、ぱっと見て駆け出し……つまり俺と同じ新人が多いようだ。俺と違うのは彼らが皆パーティメンバーと共にいるということだ。


 俺は空いたテーブルに座り、注文を宿の女将さんに頼んで飯が来るのを待った。


「あれおっさん、もしかして冒険者?」


 手持無沙汰の俺にそう声をかけて来たのは、20前位の青年だった。頬が赤いのはアルコールを飲んでいるからだろう。


「ああ、そうだ」


「へえ、その歳で冒険者ってのは珍しいな。なあみんな?」 


 彼が声をかけると、テーブルについていた彼の仲間……いずれも20前の男女……は興味なさそうに頷いた。


 あの態度から言って、この青年は酔うと絡み癖がでるといった感じだろう。


「で、おっさんは強いのか……ってそんなわけねえか。強かったらこの宿には泊まらねえもんな」


「そうなのか?」


「そりゃそうさ、強けりゃ稼げる、稼いだらいい宿に泊まる、ってな」


「なるほど。君はどうなんだ? 俺から見ると強そうに見えるが」


 酔っぱらいはおだてるに限る……というのもあるが、彼が俺より強そうなのは事実だった。


 身長こそそう変わらないが、腕周りなどは一回り以上太い。身に着けているものもそれなりに使い込まれているようだ。


「あ? まだまだ大したことはねえさ。まだEランクだしな。初心者じゃねえってだけだ」


「君がEランクということは、冒険者のランクというのは想像以上にあがりにくいんだろうな」


 そう言うと、それが婉曲(えんきょく)的な褒め言葉だと理解してくれたのか、青年は嬉しそうな顔をした。


「ははっ、まあそうだな。Eに上がるだけで2ヵ月かかったが、これでも早い方らしいぜ。おっさんも頑張んな」


 そう言うと満足したのか、彼は仲間のテーブルに戻っていった。仲間のうちで少女に見える娘さんが済まなそうに頭を下げたので、思ったより話の通じる冒険者たちなのかもしれない。


 しかし冒険者のランクか。ギルドの受付嬢によると冒険者にはAからFまでのランクがあり、実績によって上がるらしい。俺は初心者のFだが、頑張れば3ヶ月でEに上がりますよという話だった。ならば彼は確かに優秀な方なのだろう。


「はいお待ち」


 そこで女将さんが料理を持ってきてくれた。


 どうやら野菜や肉のスープ煮のようだ。口をつけると食べたことのあるような、初めてのような、そんな味と香りがした。


 どちらにしろ薄味だが悪くない。日本人として食べ物はモチベーションに直結するからな。食い物に関してこの世界でやっていけそうなのはありがたい。

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