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15章 邂逅  24

 ともかく依頼は二つとも達成はしたので翌日は休息日とし、その翌日から2日間でCクラスダンジョンを踏破した。


 宝箱と中ボスからの強奪で、『鉄壁+2』の髪飾りと、『体力+2』のネックレスが出たほかはめぼしいアイテムは手に入らなかった。なお髪飾りはシズナが、ネックレスはフレイニルがつけることになった。


 最下層ボスはノーマルボスで、得られたスキルは俺が『石化耐性』のレベルアップ、フレイニルが『貫通』のレベルアップ、ラーニが『鉄壁』のレベルアップ、スフェーニアが『水耐性』のレベルアップ、マリアネが『炎耐性』のレベルアップ、シズナが『石化耐性』、カルマが『疾駆』だった。


 なおカルマは『疾駆』のスキルがずっと欲しかったようで、「まさか今になって得られるとはねえ! もしかしてこれもソウシさんのおかげなのかい!?」と上機嫌だった。ただ色々とボリュームのある体で抱き着かれたのは、俺としてはちょっと困ったが。


 ともあれカルマはともかく、俺たちはCクラスのノーマルボスでは新たなスキルは手に入らない感じである。とはいえスキルのレベルアップも重要なので可能な限り踏破はしていこう。


 Cクラスダンジョンから戻った日に、サランドル氏から「奥里アードルフはゲシューラに関しては基本的に不干渉」と決まったと聞かされた。まあ面倒事が自分から出ていくと言っているのに、それを止めるほどエルフも暇ではないだろう。


 ただそれで話は終わりかと思ったら、サランドル氏に、 


「できれば個人的にゲシューラと話をしたいんだけど、『ソールの導き』にその橋渡しを頼んでいいかな。もちろん依頼にするし、報酬も弾むから」


 と言われてしまい、翌日またゲシューラの元へと向かった。


 森ではやはり『黄昏の猟犬』に出迎えられたが、俺たちの顔を見ると猟犬たちはすぐにゲシューラの家の方へ去っていった。この間の戦闘を見て自分たちが勝てないと学んだのか、それともこれもゲシューラの指示か。


 ログハウスの前まで行くと、褐色肌の半人半蛇の女性が外で出迎えてくれた。


「ソウシか。なにか話が決まったのか?」


「こんにちはゲシューラさん。突然の来訪申し訳ありません。人間の集落の代表から話がありますので、対話の場を設けていただきたいのです」


「ふむ、むろん構わぬ。ではソウシとその代表の2人はこちらへ来るといい」


 俺はサランドル氏を促して、再びゲシューラの家へと入って行った。




「なるほど、特に干渉はせぬか。我もあと数日でここを動くつもりゆえ、その方が互いにとってよかろうな」


 サランドル氏の話を聞いて、ゲシューラはうなずきながらそう言った。


「ええ、僕もそう思いますよ。ところでゲシューラさんにお聞きしたいことがいくつかあるのですが、お答えいただけますか?」


「答えられることならな」


「ええ、それでは――」


 サランドル氏はその後、黄昏の眷族の文化や文明などについていくつかの質問をした。今重要なのは例の王のことだと思うのだが、サランドル氏はそこにはあまり興味はないらしい。


「――それで、最後の質問なのですが、黄昏の眷族の王がこちらの大陸への侵攻を考えているというのは本当なのでしょうか?」


「本当だ。レンドゥルムは支配することに異様に執着する男でな。すべてを支配するか、支配できぬ者を滅ぼすかしないとたえられぬ性格らしい。今はまだ『黄昏の庭』全域を支配下に置くことに力を注いでいるが、それが終われば間をおかずにこちらの大陸に手を出してくるだろう」


「『黄昏の庭』にいる眷族は、いったいどのくらいの数になるのでしょう?」


「さてな。一万はおらぬと思うが正確な数は誰も知らぬ。恐らくレンドゥルムに支配されることによって、はじめてその数が判明することになろう」


「一万ですか。一人でも恐ろしい強さと聞いていますが、気が遠くなる話ですね」


「黄昏の眷族すべてが好戦的、かつ強いというわけでもない。こちらの大陸に渡ってくる者はむしろ例外が多いと心得よ」 


「なるほど、それもこちらとしては興味深いお話です」


 サランドル氏はそこで間を置いて俺の方を見た。聞くことは一通り聞いたということだろう。


「ソウシ殿、彼女に冒険者にするというは話はするのかい?」


「そうですね。グランドマスターの許可も出たようなので」


 実は昨日の夜のうちにマリアネを通してグランドマスターに打診はしておいたのだ。マリアネによると二つ返事で了承されたという話で、パーティメンバーの了承も得られたのだが、結局はゲシューラがどう思うかである。


「なにか他に話があるのか?」


「あ、ええ。実はゲシューラさんに提案がありまして。実のところ、ゲシューラさんはこの大陸にいる限り結局は色々と不便な思いをすると思います。それを解決できそうな話があるので、それを聞いていただければと思いまして」


「ふむ。聞いておこうか」


 ゲシューラが興味を示したので、俺は冒険者になればある程度人間の国で行動できるようになるかもしれないという話をした。もちろん国や冒険者ギルドの関係、俺たち『ソールの導き』の立場なども説明しながら、である。


「……なるほど。隠れるのではなく、存在を認めさせてしまうという話か。確かにそれが可能であれば一番かもしれぬな」


「ええ。ただ人間側としても黄昏の眷族を冒険者として認めるということには抵抗があると思いますので、うまくいくかどうかは未知数ですが」


「賭けに近いというのは理解できる。しかし理解できぬのは、なぜソウシがそこまでして我に肩入れするかだ。なにか我に求めるものがあるのか?」


 確かにそれはゲシューラが疑問に思うのも当然である。なにしろ当の俺自身がよく分かってないのだ。彼女が人材として価値が高いのは間違いないところだが、俺は別に彼女になにか有用なアイテムを作ってくれなどと頼むつもりはない。


 強いて言えば、日本で培った人権感覚から放っておけないというだけなのだが……


「いえ、単にゲシューラさんがこの大陸で比較的自由な状態で生きていくならそれしかないと思っただけです。人間の権力者にかくまってもらうということも考えたのですが……」


「それは我としても避けたい。おそらくレンドゥルムと同じことになろうからな」


「ええ、私もそう思います。冒険者というのはある意味権力者とは対極にある存在なので丁度いいと思ったのです」


「ふうむ……。どうもソウシの行動の根幹がよく分からぬが、そなたは間違いなく我より強い。従うしかなかろうな」


「いえ、別に強制をするつもりはありません。ゲシューラさんが自分の思ったように動きたいというなら、こちらもこれ以上干渉するつもりはありませんので」


 俺が慌ててそう言うと、ゲシューラは「ふむ」と少し考える様子を見せてから、ゆっくりとうなずいてみせた。


「……それでもソウシの言う通りにするのがいいであろう。本来なら我は一か所にとどまってものづくりをすることを好むのだが、しばらくニンゲンの世界を渡り歩くのも面白いかもしれぬ。だが、我がともにいるとまた追手が来るかもしれぬぞ?」


「それは覚悟の上です。むしろレンドゥルムという人物がこちらの大陸を狙っているのなら、小出しにしてくる戦力を潰していけるのは悪い話ではありません」


「我を囮にしておびき出すということか。まさかニンゲンにそなたのような剛の者がいるとはな。だが先日の戦いを見れば、ソウシがそのように言うのも理解できる。ならばひとまずこの身をソウシに預けてみよう。よろしく頼む」


 どうやら『ソールの導き』に想像もしなかった同行者が増えることになりそうだ。


 鬼が出るか蛇が出るか。しかしこの前代未聞の話によって頭を悩ませるのは、たぶん俺たちではない。


俺はヴァーミリアン国王陛下の信念に満ちた顔を思い出し、心の中で謝罪をするのであった。

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