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15章 邂逅  20

 翌日、俺たちは朝一で奥里を出発し、耕作地帯を抜けて東の山脈のふもとの森に入っていった。


 事前情報によるとその森から妙な姿の人間が現れ、そして再び森の奥に消えていったらしい。


 目撃したエルフの話によると下半身が蛇のようだったということで、自分としてはファンタジーで有名な『ラミア』を思い出したのだが、少なくともこの大陸には半人半蛇の姿をした種族はいないらしい。


「ソウシさま、なにか普通とは違う気配を感じます。以前感じたことがあるような……」


 森に入ってから1時間くらい歩いただろうか。フレイニルが周囲を見回しながらそんなことを言った。


「アンデッドの気配とは違うのか?」


「はい、アンデッドではありません。かなり強い気配です。『悪魔』よりも強いかもしれません」


「ということは『悪魔』でもないということか。しかし『悪魔』より強い気配となると……」


 経験から考えると、そこまで強い存在といえば正体は限られている。もちろん未知の相手である可能性もあるが。


「方向は分かるか?」


「はい、こちらです」


 フレイニルが指示する方向に進んでいくと、森の木が伐採されている跡が見られるようになった。切り株の切断面を見る限り、凄まじく鋭利な刃物で一息に切り倒されているようだ。


 その伐採跡の間を抜けてさらに奥へと進む。


 ラーニが突然耳をピクッと動かして剣を抜いた。同じ獣人のカルマも大剣を背中から抜いて前に出てくる。


「ソウシ、なにか来るわよ。前にもかいだことのあるニオイがする」


「なんか妙な臭いだねえ。あんまりいい感じじゃないから気を付けた方がいいよ」


 俺もメイスを手にして森の奥を見る。『気配感知』に反応、10体のモンスターが木々の間を縫って走って来ているようだ。


 俺たちが構えて待っていると、木立の間から姿を現したのは赤黒い、細長いシルエットの犬型モンスターだった。


「あれは……『黄昏の猟犬』では!?」


 スフェーニアが叫ぶと、カルマがぎょっとしたような顔をした。


「『黄昏の猟犬』ってそれは本当かい!? だとしたら近くに『黄昏の眷族』がいるってのかい?」


「その可能性は高いでしょう。まさか奥里の近くに『黄昏の眷族』が現れるとは」


 10体の犬型モンスターは俺たちを遠巻きに囲むようにして威嚇(いかく)を始めた。


 体高は人間ほど、毛皮の一部が甲虫の表皮のようになっている。間違いなくあの『黄昏の眷族』ザイカルが従えていた『黄昏の猟犬』だ。


 俺はメイスを構えながら向こうの出方を待った。前に戦った時は口から火を吐いていたのでこの距離でも油断はできない。


 しかし『黄昏の猟犬』は威嚇をするだけでそれ以上の行動を取ろうとしない。何か妙な感じだ。


「ソウシさま、『後光』いけます」


「フレイ、ちょっと待ってくれ。スフェーニアもシズナも魔法は待機だ」


「なぜ止めるのじゃ?」


「どうも様子がおかしい。戦う気がないというか、戦わないように命令されているみたいに見える」


 以前バルバドザで見た時は、『黄昏の猟犬』はザイカルの命令を聞いて待機をするなど、普通のモンスターとは違う行動を見せていた。であれば目の前の『黄昏の猟犬』もまた、飼い主の命令を聞いて威嚇だけにとどめている可能性がある。


「しかしこのままでは先に進めません。排除するしかないのではありませんか?」


 スフェーニアの言うことももっともではあるが、しかし向こうに明確な敵対する意志が感じられない以上こちらから攻撃するのはためらわれる。『猟犬』に敵意がないということは、その『飼い主』にも敵意がないということだ。それを攻撃するというのは、むしろこちらから敵対する意志を見せることになる。


 俺が判断を下しかねていると、威嚇を続ける『黄昏の猟犬』の向こうからさらに近づいてくる気配があった。


「ニンゲンよ、この先は我が棲み処。道を戻り二度と近づかねばなにもせぬ。ただし先に進むなら『黄昏の眷族』の力を知ることになろう」


 多少金属的な音を含んでいたが、それは女性の声だった。


 ずるずるとなにかを引きずるような音とともに現れたのは、下半身が蛇の姿をした、褐色肌の人間。


 長い黒髪と青い瞳、顔立ちは美しいのだろうが、どことなく爬虫類を感じさせるのは下半身の造形のせいだろうか。着衣は胸を覆う布だけ、ただし腕輪やネックレス、サークレットなど装飾品は過剰なくらい身につけている。


「もう一度言う。このまま立ち去れ。我のことは忘れよ。命が惜しくばな」


 2人目の『黄昏の眷族』との遭遇は、ザイカルの時のように力で解決するわけにはいかないものになりそうだった。




 俺は前に出ようとするラーニやカルマを下がらせて、一人『黄昏の眷族』の前に進み出た。


「私はソウシ、冒険者パーティ『ソールの導き』のリーダーをしています。この森には調査に訪れました。ですのでこのまま帰るわけにはいかないのです。できれば少しお話をうかがいたいのですが」


「我はゲシューラ、黄昏の眷族が一人。我になにを聞きたいのか?」


 上半身が人間の女性、下半身が蛇の姿をした『黄昏の眷族』……ゲシューラは、幸いにも会話に応じる様子を見せた。


「あなたがここを訪れた理由、そしてこれからどのような行動をとるつもりなのか、です」


「なぜそのようなことを聞きたいのか?」


「我々にとって、黄昏の眷族であるあなたは脅威となります。この森は人間の国の領地ですし、近くには人間の街もあります。あなたの目的や行動によってこちらも対応が必要となるのです」


「要するに敵対するつもりがあるかどうか、害をなすつもりがあるかどうか、それを知りたいということか」


「端的に言えばそうです」


「ふむ……」


 ゲシューラは長い尻尾を左右に振り、少し考えてから再度口を開いた。


「もし敵対する意思がないと答えたとして、そちらは我を放っておくのか」


「それは分かりません。どう対応するのかを決めるのは人間の代表者ですので」


「なるほど、ニンゲンはそういう習性で動くのか。ならば話はしよう。こちらへ来るがいい」


 ゲシューラはそう言うと、黄昏の猟犬を引き連れて森の奥へと尻尾をくねらせ進みはじめた。

 

 ラーニが尻尾を下げて警戒しながら俺に顔を向ける。


「ソウシどうするの?」


「行くしかないだろうな。向こうが攻撃するつもりなら最初から猟犬をけしかけているはずだ。戦う意思はないと見ていいと思う」


「まあ確かにそうか。どうせなにかあってもソウシなら勝てるしね」


「それはどうかな。向こうの能力も分からないしな」


「でもザイカルよりは弱そうじゃない? あ、でも魔導師タイプっていうこともあるか」


「とにかく行ってみよう」


 俺は皆を促して、ゲシューラの後を追った。


 5分ほど歩くと森の中の開けた場所にでた。驚くことに、その場所には大きなログハウスが建っていた。見た感じまだ新築なので、もしかしたら伐採した木で作ったのかもしれない。乾燥とかの過程は……魔法などでなんとかしているのだろうか。


「全員は入れぬ。ソウシと言ったな。そなただけ入れ」


 ゲシューラは『黄昏の猟犬』を待機させると、そう言ってさっさとログハウスに入ってしまった。


 フレイニルたちが心配そうな目をしたが、俺は「大丈夫だ」と言って、一人ゲシューラの後を追って入り口をくぐった。

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