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15章 邂逅  07

 翌日もダンジョンアタックである。


 昨日で『ソールの導き』が十分Bクラスで通用することが分かったので、気負わずに進むことができそうだ。


 6~10階までで出現したザコモンスターは『ミノタウロス』『オークナイト』『ミスリルトータス』だ。


『ミノタウロス』はDクラスのボスだったモンスターだが、5体出てきてももう相手にはならない。


『オークナイト』は騎士の鎧を身につけたオークで、豚頭のわりになかなか格好良かった。ただ単純な近接攻撃のみのモンスターなので10体いても敵ではなかった。


 厄介だったのは『ミスリルトータス』で、『後光』が効いてもその甲羅の防御力は高く、魔法も剣も弾かれてしまう。なので囮が前にでて首を出したところを叩く戦法を取るしかないのだが、ラーニの『疫病神』のおかげで数が多くそれも面倒だった。


 仕方ないので俺が全部甲羅ごと叩き潰した。パーティメンバーに引かれるかと思ったが、彼女らも慣れてきたのか嬉しそうに見ているだけだった。


 ちなみに『ミスリル~』がつくモンスターはビー玉くらいの大きさのミスリル塊をドロップする。もちろんそれを集めればミスリル製の武具を作れるわけだが、量を考えると剣一本でも気が遠くなる数のモンスターを倒さないとならないだろう。


「ミスリルを集めてソウシさまのメイスを作るのはいかがでしょうか?」


 とフレイニルが言ってくれたが、果たして何体の『ミスリルトータス』を潰せばいいのか想像もつかない。


 さて10階のボスだが、ボス部屋がサッカー場の倍ほどもある広大なものだった。


 こういうロケーションは巨大ボスというのがお約束なのだが……


「うわぁ、500匹くらいいるでしょあれ」


 ラーニの呆れ声の通り、目の前に並ぶのは『ゴブリン』の大群である。手前はFランクの『ゴブリン』だが、その後ろにはEランクの『ゴブリンソルジャー』Dランクの『ゴブリンメイジ』が並び、さらに奥にはCランクの『ゴブリンジェネラル』が3体、そして最奥には身長3メートルはありそうな『ゴブリンキング』がいる。つまりこの群がまとめて一つのボス扱いである。


「ガイドにあるより群の数が多い気がしますね。それに奥にいるのは『キング』ではなく、その上位の『ゴブリンロード』でしょう」


 というマリアネの言葉からするとどうやらレアボスを引いたようだ。


 とはいえメカリナンでの経験を踏まえると、俺一人でも多分楽に勝ててしまうだろう。ただそれではパーティが育たないので、彼らには存分に練習台になってもらうことにする。


「フレイはまず『後光』、俺と『精霊』が壁になるからラーニとマリアネは遊撃、スフェーニアとシズナは魔法を撃ちまくってくれ」


「はいソウシさま、『後光』いきます」


 『後光』の光が戦闘開始の合図となったのか、ゴブリンの大群が一気にこちらに押し寄せてきた。


 俺が『誘引』を最大出力で発動すると前にいるゴブリンが俺の方に殺到してくる。目の前に来るゴブリンを爆散させるだけにして、メンバーの働きを見ることにする。


 俺の左右に立つ『精霊』は『ゴブリンソルジャー』までなら一方的に殴り倒せるようだ。左右交互に鋭いパンチを繰り出して次々とゴブリンを吹き飛ばしている。


 スフェーニアの『フレアサークル』で数十体のゴブリンが炭になる。シズナの『フレイムジャベリン』も5体くらいをまとめて貫いているようだ。


 ラーニとマリアネは左右から回り込み、魔法を放とうとしている『ゴブリンメイジ』の首を優先的に落としている。


 フレイニルが『範囲拡大』『聖光』のシャワーを降らせると、『ゴブリンジェネラル』一体含む数十のゴブリンが穴だらけになって消えた。


 大群相手ではあったが、正味5分ほどで大勢は決してしまった。すでに残るは『ゴブリンジェネラル』2体と『ゴブリンロード』のみだ。


 一体の『ジェネラル』にスフェーニアの矢が当たり『行動停止』が発動、マリアネが首を落とす。もう一体はラーニが正面から魔法剣で斬り捨てた。


 ほぼ一瞬といっていい出来事に、『ゴブリンロード』もさすがに戸惑ったような素振りを見せる。もちろんそれは隙以外の何物でもない。『ロード』の頭部に3人分の魔法が直撃し、首を失った巨体が崩れ落ちた。


 床に散らばった大量の魔石を全員で拾って、中央に現れた銀のレア宝箱の周りに集合する。


 シズナが蓋を開けると、出てきたのはミスリル製の小手だった。


「『ミスリルガントレット+2』ですね。これも非常に貴重なものです」


 マリアネの『鑑定』でもいいもののようだ。明らかに剣士用の小手なのでラーニのものとなる。


「思ったより軽くていい感じかも。このままミスリル装備で揃えるのもいいかもねっ」


 と嬉しそうに耳をピクピクさせるラーニ。


 武具はなんとなく宝箱に頼っている気がするが、普通に素材を集めて作ってもらうのもアリだろう。そうそううまくミスリル装備が出てくるわけでもないだろうしな。




 次の日は11階からスタートし、15階を目指していく。


 全員がかなり慣れてきたのと冒険者レベルが順調に上がっているのとで、進むペースはむしろ下層に行くにしたがって早くなっている。


 出てくるモンスターは犬頭人身の忍者『コボルトアサシン』、大型の吸血蝙蝠『バンパイアバット』、そして有名な8本足トカゲの『バジリスク』だ。


 『疾駆』『翻身』スキルで変幻自在の動きを見せる『コボルトアサシン』、超音波で不快音攻撃をしてくる『バンパイアバット』、そして強力な石化毒持ちの『バジリスク』と癖があるザコではあったが、『ソールの導き』の圧倒的な攻撃力の前には持ち味を活かす前に全滅させられていく。正直な話ダンジョンのように比較的狭い空間ではいざとなったら俺の『衝撃波』ですべて片がついてしまう。


 ボスは通常ボスの『マルチコアスライム』だった。


 9つの核を持つ超巨大スライムで、サッカー場ほどもあるボス部屋の四分の一くらいを占有する大きさがある。


 その圧倒的質量を前にして、ラーニがしかめっ面で俺を振り返る。


「ねえソウシ、どうするのこれ?」


「基本は同じだ、魔法で核を一つづつ潰す。フレイニルとスフェーニア、シズナは魔法で核を狙ってくれ。俺たちは前にでて触手を防ぐ。ラーニとマリアネは回り込んで後衛を狙ってくる触手を警戒してくれ」


「了解っ!」


『マルチコアスライム』が無数の触手を伸ばしながらにじり寄ってくる。


 俺と『精霊』二体は正面から伸ばしてくる無数の触手を叩き落とすことに専念し、左右から回り込んでくる触手はラーニとマリアネが対処する。俺の『衝撃波』は毒を含んだスライムの粘液を大量に飛散させるので基本封印だ。


 フレイニルの『二重聖光』が核を一つ貫通して破壊する。スフェーニアとシズナの炎の槍『フレイムボルト』も、集中着弾して二つの核を貫いた。


 危機を感じたのか『マルチコアスライム』の核が3つが強く発光した。魔法攻撃の合図である。


 俺は『誘引』を発動して『不動不倒の城壁』を構える。


 発光した核から丸太のような巨大な氷の槍が射出された。並の冒険者なら直撃すれば致命傷もありえる強力な魔法だ。しかしその必殺の飛び道具も、オリハルコンの盾の前ではただ砕け散るだけである。


 フレイニルたちの魔法第二波が着弾してさらに三つの核を失うと、『マルチコアスライム』は巨体を維持できなくなりしぼんでいく。


「後は俺がやる」


 俺は前に出てメイスを振り回してスライムの粘液を削りつつ、残り三つの核を粉砕した。


 宝箱からは薄い金色をした金属のインゴットが3つ出てきた。『鑑定』するまでもなくオリハルコンだと分かる。


「これは売らないでなにか装備品を作ってもらった方がいいのか?」


 俺が聞くと、マリアネは頷いた。


「私たちはお金に余裕がありますから、売るより加工に回したほうがいいと思います。ただオリハルコンを扱うのは普通の鍛冶師では不可能です」


「ドワーフとかじゃないとだめと言うことか?」


 と聞いたのはゲーム知識からであるが、それで正解だったようだ。


「そうなりますね。それもドワーフの里にいる上位の鍛冶師でないと扱えないと聞いています。里は北の帝国にありますので、しばらくはどうにもできないでしょう」


「ドワーフの里か……」


 どうやらまた行くべき場所が増えてしまったようだ。正直なところ、聞いた瞬間に行きたいと思ってしまったくらいではある。


「スフェーニア、エルフはドワーフと仲が悪いみたいな話はないんだろう?」


「はい? ええ、特にそういったことはありません。そもそもほとんど交流もありませんし。どうしてそのようなことを?」


 スフェーニアが怪訝そうな顔をするが、さすがに前世の適当なファンタジー知識からとは言えない。


「ああいやなんとなくな。ラーニ、獣人も大丈夫か?」


「もちろん。でもオリハルコンの武具かぁ。ミスリルもいいけどオリハルコンは冒険者の憧れだし、もっと集めておきたいね」


「そうじゃな。しかしガルオーズのダンジョンでオリハルコンが出るとなると、高ランクの冒険者がもっと集まってもよい気がするのう。マリアネ殿、その辺りは知られておるのかの?」


「宝箱から取得したアイテムに関してはギルドへの報告義務がありませんので、ギルドでも十分には把握していません。特にCクラス以上のダンジョンに入るのはベテランなのでそういった情報は秘匿(ひとく)しますし。このダンジョンについてもオリハルコンが出るという情報はなかったはずです」


「なるほどのう。じゃが今回のことで情報が上がることになるのじゃな?」


「それは『ソールの導き』の考え次第でしょう。秘匿したいというのであれば私も話すつもりはありませんが……」


 と言いつつ俺を見るマリアネの目は、明らかになにか言いたそうな雰囲気である。まあ情報は大切だからな、ギルド職員としてはなるべく上にあげておきたいところだろう。


「俺は別に構わない。ここをホームグラウンドにして稼ぐつもりもないしな。皆はどうだ?」


「ソウシさまのおっしゃるとおりで」「私も別にいいかな~」「私も反対する理由はありません」


 ということでマリアネもホッとしたような顔になった。


 少し気になるのは、この情報がもとで損をする人間が出るかもしれないということだ。だがこの手の話はいつかは広まるものだし、そこまで気にするものでもないだろう。

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