15章 邂逅 06
翌日は予定通り、Bクラスダンジョンに挑むことになった。
オーズのBクラスダンジョンは20階だが、『ソールの導き』としては初のBクラスダンジョンになるのでダンジョン内3泊の予定である。
今俺たちの目の前には切り立った灰色の崖があり、その崖に絵に描いたような洞窟の入り口が開いている。
「いよいよBクラスダンジョンだねっ。あ~なんかドキドキしてきた」
ラーニが耳をピクピクと動かして楽しそうな顔をする。一方でフレイニルとシズナは少し不安そうな表情だ。
「ソウシさまがいらっしゃるので大丈夫だというのは分かっていますが、私の力が通じるか少し不安です」
「そうじゃのう。特にわらわは明らかに力が足りないからの。足を引っ張りそうじゃ」
「過信しないのはいいことだと思うが、そんなに不安にならなくてもいい。もし力が足りなくてもそこはパーティで補い合って進めばいいだけだ。よし、行こうか」
いつもの通り俺を先頭にして洞窟に入っていく。
しばらく進んでいくと外界との境界線を通過したような感覚がある。ここからがダンジョンだ。
天井の一部の岩が光って照明になっている他は、至って普通の岩壁のダンジョンだ。通路は横5メートル、高さ3メートルほどだろうか。丁度戦いやすい広さである。
しばらく進むと10匹ほどのモンスターの気配、現れたのは表皮が青銀に輝く大型トカゲの『ミスリルリザード』だ。物理魔法両方の耐性が高い上に、鋭く伸びてくる舌で獲物を絡めとる難敵らしい。
「『後光』行きます」
フレイニルの『神の後光』が発動し、『ミスリルリザード』の動きが鈍る。
「『ブリザード』」
続いてスフェーニアの吹雪魔法だ。群の真ん中あたりにいきなり氷の竜巻が巻き起こり、3体の『リザード』が氷結して砕け散る。
「『アイスジャベリン』じゃ!」
シズナが放った10本の氷の槍が一体を串刺しにする。
これで残り6体。ラーニとマリアネが『疾駆』で一気に群の後ろに回り込み、死角から『リザード』を切り裂いていく。追い立てられた2体が俺のところまでたどりつくも、伸ばした舌ごと粉砕されて終わりである。
「う~ん、やっぱりフレイの『後光』が強すぎてよく分からないね。『ミスリルリザード』っていうからにはもっと硬いはずだけど」
ラーニがぼやきながら戻ってくる。
「そうですね。こんなに簡単に倒せるモンスターではないと思います」
マリアネも同調するが、これが『ソールの導き』の基本戦術だから仕方がない。
「慣れてきたら『後光』なしも試していこう。それよりパーティとしては問題ないと分かっただろう?」
「そうじゃな。わらわの魔法も少しは効くようで安心したのう」
シズナがホッとした顔をしているので、これで問題なく先に進むことはできそうだ。
その後も『ミスリルリザード』を駆逐しながら進んでいく。
『神の後光』なしでの戦闘も試してみたが、やはり元の防御力はかなり高いらしく、各自の攻撃が多少効きづらくなったようではあった。ただそれでも慣れてくれば問題はなく、皆の力がBクラスモンスター相手でも問題ないことが判明した。
地下3階からは懐かしの『ゴブリンキング』が出現する。この『キング』は少し変わったタイプのモンスターで、自身は1体だけだが50匹を超える『ゴブリンソルジャー』を引き連れるというスタイルで襲い掛かってくる。
『ゴブリンソルジャー』はEランクのモンスターだが、数が多いのと『キング』の影響で強化されていて、人数が少ないパーティだと苦戦必至の相手である。
とはいえそこはフレイニルとスフェーニアの範囲魔法で一気に数を減らせるし、残りは俺と『精霊』で余裕で防ぎきれる。その隙にラーニとマリアネに『キング』を倒してもらえば問題はない。
5階は『バッファローウルフ』という、Fクラスで出た『ボアウルフ』の上位種が出現する。見た目は凶悪なツノを持った大型バッファローそのもので、『疾駆』による超高速突撃を仕掛けてくる危険なモンスターである。
ただ『誘引』を使うと勝手に『不動不倒の城壁』に突っ込んできて自滅するので、戦闘そのものは別の意味で酷い有様ではあった。
さてボスである。石の巨大な扉を開けると出てきたのは『キマイラ』だ。元の世界でも有名なモンスターだが、こちらのものは巨大ライオンにヤギと蛇の頭を付け足したような姿だった。身体が象なみに大きいので恐ろしい威圧感がある。
「『後光』の効きが弱い気がします」
とフレイニルに言わせるあたりはさすがはBクラスのボスということか。
スフェーニアの火属性範囲魔法『フレアサークル』と、シズナの『ファイアランス』を俊敏な動きで回避すると、『キマイラ』は3つの口からそれぞれ火球と氷塊、そして岩塊をブレスとして飛ばしてくる。
もちろんそれらは俺の盾ですべて跳ね返される。身につけたばかりの『全属性魔法耐性』も効いているようで、炎や冷気の余波も俺にはまったく効果がない。
ラーニとマリアネが左右から挟み込むように攻撃を仕掛ける。2人ともスピードでは完全に上回っていて、『キマイラ』の嚙みつきや前足の攻撃を上手く避けながら斬りつけている。
とはいえさすがに簡単には決定的な攻撃は与えられない。ラーニが後ろ足を斬り落とそうとするが、察知されてうまく避けられてしまう。
マリアネの鏢も何度か刺さっているが、まだ『状態異常』にはならないようだ。さすがにしぶとい。
長期戦になるか……というところで動いたのがシズナだ。
「『精霊』を突っ込ませるゆえ隙を狙うのじゃ!」
そう叫ぶと、シズナは2体の岩人形を『キマイラ』に突っ込ませた。
むろん力の差は歴然で、『キマイラ』の前足の一撃で2体の岩人形はバラバラにされてしまう。しかしその一瞬、『キマイラ』の動きが止まった。
「もらいっ!!」
ラーニのミスリルソードが見事に後ろ足を切断、さらにそこにシズナの『フレイムジャベリン』とフレイニルの『聖光』が突き刺さる。
ギャオウッ!?
三つの首から叫びがあがる。そこにマリアネの鏢が刺さって『麻痺』が発動、最後はスフェーニアの『フレアサークル』が巨体を飲み込んで、神話のモンスターを炭へと変えた。
「シズナのおかげで倒せたね!」
ラーニが嬉しそうに言うと、シズナは少し眉を曲げて苦い顔をした。
「『精霊』には申し訳なかったがのう。まあ役に立てたようでなによりじゃ」
「ああいう遠距離攻撃主体で動きの速いモンスターは俺と相性が悪いからな。いい判断だった」
「ソウシ殿に褒められると嬉しいのう。ただこれで1刻ばかり『精霊』は使役不能じゃ」
「今日はここまでだから問題ないさ。さて宝箱だが……開けるのはとどめを刺したスフェーニアだな」
「ありがとうございます。開けますね」
宝箱は普通の木箱だ。スフェーニアが開くと箱がすうっと消えて、現れたのは髪飾りだった。金の台座にダイヤモンドのような宝石がついた高価そうなものである。
「これは一般の装飾品ですね。ただしかなり高価なものです。商会に持ち込めば500万ロムくらいにはなるでしょう」
マリアネの『鑑定』もその通りのものだった。ラーニは装備品ではなかったので不満そうだが、普通に考えれば装飾品で500万ロムはかなり価値のあるものだ。ただ『キマイラ』討伐の対価として十分かどうかは微妙かもしれない。
試しにスフェーニアが付けて見せてくれたが、ハイエルフが美しい装飾品を付けると恐るべき効果を生むことがわかった。『ソールの導き』はすでに資金に困ることはないパーティなので、この手のアクセサリーは売らないで取っておくのもありだろう。